人間椅子「怪談 そして死とエロス」インタビュー

これまでのバンド生活の中で一番苦しかったです(笑)—和嶋

─SNS投稿等を見ていると、年末はずっとレコーディングでしたね。

和嶋:録り終わりが、世の中の仕事納めに重なったっていうか。25日に全部の作業が終わって、そのままマスタリングみたいな感じでしたね。本当は、その日までにほぼ終わっていなきゃいけなかったんですけど(苦笑)、TD作業と並行しながらだったので、25日未明からギター・ソロとか入れてましたよ。

─となると、いつものレコーディングよりも難航したのですか?

和嶋:やっぱり、年内に全て仕上げなきゃいけないっていうね。普通の月だったら、月末まで伸ばせたかもしれないですけど、年末なので全部(その他作業工程)が止まっちゃうんですよ。しかも、アルバムの発売日が決まってるからずらせないし、それをずらすと僕たちの活動が危うくなる(笑)。

─何とか収めたと(笑)。因みに年末のレコーディングは、人間椅子としても初めてですか?

和嶋:初めてですし、年末進行は地獄のようだよ。これまでのバンド生活の中で一番苦しかったです(笑)。でもね、おかげさまで一日一日をすごい集中力で過ごせましたよ。

─そして、現在はプロモーション期間ということで、実際に制作したものを言語化していく日々を過ごされていると思いますが、新しい気づきはありましたか?

和嶋:まずね、制作してるときは精一杯なわけですよ。時間もない中で、ベストを尽くそうってやって。もちろん、良いものを作ってる手応えを感じながらやっているんですけど、脇目もふらずに制作してたから、いざ聴き返してみると「思ったより良いものが出来てる」という第一印象でしたね。(鈴木を見て)どうですか?

鈴木:なかなか良い、珍しく(笑)。僕は大抵、出来たものは聴かないんです。レコーディングでさんざん聴いてるから、いつもは(聴かなくて)よくなっちゃうんだけど、今回はずっと家で聴いてますね。

─メンバー自身も、納得の出来上がりということですね。

鈴木:何回聴いてもいいなぁって(笑)。今日は自分の歌、次の日は、和嶋くんの歌、ノブの歌みたいに交互に聴いてます。

和嶋:僕は、流れがちゃんとあるから通して聴いてる。飽きずに聴けるっていうか。もし、捨て曲って考え方があるとすると、このアルバムには捨て曲がないんです。

ノブ:僕も和嶋くんと同じように通して聴くんだけど、毎回「アルバムが出来た!」っていう喜びがあって、結構聴くんですよ。しかも、聴き直す度に新しいところに耳がいって「ここ、カッコイイ!」「こんな風にやったんだ!」って気づく。特に今回は、ベースもギターもドラムも僕の好きな音像になってるのもあって、車を運転してるときにずっとリピートして聴いてるんです。「怪談」って、タイトルに含まれてるせいかもしれないですけど、音読されてるように聴こえるときがあって。一曲一曲にも物語があるし、このアルバムを通しての物語もある。それがまた新しく気づいたことでもあって。しかも運転して聴いてるとね、すごく乗れるんだよね(笑)。

和嶋:良いロックの聴き方だよね。

─山道が全然苦じゃないみたいな(笑)?

ノブ:道のりを長いと感じないし、もう全然、眠くならないんですよ。ずーっと映画を観るように、ストーリーを頭に入れながら聴いてる感じがしてます。

─確かに前作の「無頼豊饒」より、楽曲がすごくバラエティに富んでいる印象があります。

和嶋:お客さんも増えてきましたし、色んな媒体でも取り上げてもらえるようになったんで、ここでまた一つ、間口を広げたいという思いはありました。例えば、今までの僕たちのタイトルって「無頼豊饒」のように思想的だったりして、ちょっとわかりづらい部分があったんですけど、若い人に聴いて欲しいっていうのもあったし、キャッチーな感じのタイトルで尚且つ、あんまり理屈っぽくないようにしたいと思ったんですよ。僕たちがやってる「怖い」っていう切り口から入りつつ、皆さんにエネルギーを与えたいと。「怪談」ってタイトルにすれば「この人たち、怖いことやってる人たちなんだ」って、すごいわかりやすくなるかなと思ったんだよね。

─それは最初にあった「泥の雨」の書きおろしの時点で、アルバムのコンセプト・イメージがあったんですか?

和嶋:「泥の雨」を作ったから、見えてきたものがあったね。アニメのEDテーマになるということで、色んな参加アーティスト・若いバンドもいる中で、人間椅子らしくやるにはどうしたらいいのかなと考えて、敢えてタイアップの曲ではやらないような、ヘヴィなサウンドで現代の恐怖を歌って。尚且つ、割とわかりやすいメロディにしようと、ちょっとキャッチーさも入れてみたら、なかなか良い出来栄えだった。ここで現代の怖さを歌ったから、次は現代が失ってしまったものを作ってみたいというコンセプトが出来ましたね。小泉八雲とかの昔の怪談って、怖さもありつつなんか美しいんですよね。死者と人間との交流があったり、ただ怖いってだけじゃなくて生きるってことを訴えかけてるような気がして、そのスタンスでやりたいなと。

─そういった生と死の表裏一体的な部分において、タイトルにもある「エロス」も生や命を伝えるためのキーワードとして必要だったのですか?

和嶋:「怪談」ってタイトルをつけたのは、死を意識することによって命の大切さ、ちゃんと生きるって大事だなってことが言いたかったんだけど、「怪談」だけではなかなか伝わらないと思ったので、副題として「そして死とエロス」をつけてみたんです。「エロス」って、生きる上ですっごく大事なことって言いますかね(笑)。それを出すことによって、生というものを意識して欲しいという副題なんですよ。例えば、動物は交尾期じゃないと交尾をしないので、エロスのことはきっと考えてないですけど、人間はそういうイメージが原動力にもなってる。綺麗な花を見てもエロスを感じたりするのは、そこに命を見るからで、それは生きるっていうことの側面でもあると思ったから「死とエロス」というタイトルをつけたんです。それでエロスにちなんだ楽曲も入って、結果的にバラエティに富んだ内容になったんだと思います。

─ノブさんが車の中で聴かれるときに「音読」と表現されましたけど、音として聴くことによって、そういった訴えが伝わるんだなと納得出来ます。

和嶋:訴えかける姿勢にしたのはすごい良かったと思った。やっぱり、色んなイベントに出てみても、軸は変わらないんだけどポップさやキャッチーさは大事だなと思うんですよ。なので聴いてわかる言葉選びを目指してみたんです。

─言葉を変えると、それだけ人間椅子としての表現ハードルが上がっていることになりますよね。

和嶋:例えばオズフェスに出ることによって、より多くの注目が集まるから陳腐な曲は作れないし、ハードルは当然上がってくるんだよね。「なんだ、この程度か」と思われたら、もう人は見向きもしないと思うので「ハードルは、露出するたびに上がっていくんだなぁ」ってことは思いました。プレッシャーが前よりも全然あるんだけど、それは喜ばしいことなんだよね。みんなに聴いて欲しくて始めたことで、ようやくそうなり出して来たのかなぁって。

鈴木:ハードルが上がっていってるのは、和嶋くんが作ってきた曲とかそれまでの流れの中で少しずつ感じてる。リフを作って曲にしていく段階で「これでは敵わない」「これではオズフェスのステージでは出来ない」みたいな基準で曲を2人の前に出していった。それで自ずと高くなったハードルに追いついていくみたいな。

和嶋:やっぱりアーティストっていうのは、そこだと思うんだよね。自分が良いものを作る基準を持っていないで、世の中にただ合わせていくとその基準がぼやけてくるんです。どの批評家よりも厳しいのは自分な筈で、その基準に合わせていくからハードルが上がるんですよね。

─しかも人間椅子はバンドですから、自分以外の互いへの基準も上げていたでしょうし、その結果が「怪談 そして死とエロス」の作品となって表現できた筈です。

和嶋:鈴木くんはいつも以上に、自分の曲に対して厳しかったですよ。「まぁいいや」っていうのは無くて「これだめだな」ってものは、絶対に作り直してきたし。みんながその意識でアルバムを作ったから、クオリティの高いものができたと思うんですよね。

鈴木:俺も和嶋くんの作ってきた曲に「変じゃないか?」って言うんだけど、言うからには自分もがっちり作って、お互い高め合うのが良いなと思って。

和嶋:結局、人間椅子っていうバンドのサウンドなわけだから、自分がこれで良いだろって思ってもノブくんや鈴木くんが「ここは違う」って言ったら「そこはそうかも」と思う。他人の目線も大切にしていくと、自分では気づかない良いサウンドが出来るんだよね。

─それが、バンド生活を25年も続けてこられた要素だと思います。

和嶋:僕らはそれをやらないとダメ。TVに出るわけでもないし、ポップス寄りの音楽でもないわけだから、本当のロックをやらないと残れないし、それをやってきたから今までやってこれたよね。

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