ドラマストア インタビュー

「君を主人公にする音楽」をコンセプトとした大阪発の正統派ポップ・バンド、ドラマストア。そのVo/Gtである長谷川 海は驚くほど純粋で、1点の曇りのない自信に満ち溢れている。ドラマストアの音楽を形成する要素、そして『白紙台本』に込められたものとは?その全豹を赤裸々に語ってもらった。

—バンドでやれることを広げたかった

—バンド自体にコンセプトがありますが、これは結成時から用いようと決められたものなんですか?

長谷川:それに関しては「用いたかった」っていう部分が大きくて。僕が18歳のときに魅了されてしまったバンドがいて、それが音楽をするきっかけになったんですね。大阪とか神戸とか出るのだけでも、往復2千円かかるくらいのド田舎に住んでいたんですけど、それでも神戸・大阪・京都の関西3デイズを全部ハシゴするくらい、大好きなバンドさんがいはったんです。

—ちなみに何ていうバンドですか?

長谷川:もう解散しちゃったんですけどLOTOっていうバンドで、それこそ今も僕が好きなGOOD ON THE REELさんとかソライアオさんと同期で。そのバンドには「耳で聴く絵本」というコンセプトがあったんです。それにすごくハマったときに、今の前身バンドもそっち寄りのバンドやったんです。なので、ドラマストアを組むときも、そういうのを出したいなっていうのがすごくあって。ただ、シナリオアートさんとかのように、映画を観てるみたいな空間を作ってまうというのが出来ひんくて(笑)。どうしても自分の言葉でポロっと喋ってもうたり、現実に引き戻させてしもうたりするから、「あぁ、なりたいもんと、やれることは違うんやな」ってブチ当たって。で、最初に組んだメンバーが、ドラマストアというバンド名に決めたときに、まず僕自身だなというか。何をやっても正解やし、何をやってもOKやし。フィクション・ノンフィクションの両方あってドラマやから、これはやりやすいかもしれへんってなって、そういうコンセプトが生まれたんですよね。僕は妄想家というか、考えるのが好きで。例えば好きなマンガやアニメに自分が入ったら、どういう能力を持って、どういう振る舞いをしてって考えるのが好きで。それと似たようなことを、バンド組んだときにも考えたんですよね。「自分の書いた曲の中で、メンバーもお客さんもどういう風に生きてはるんやろ?」って考えたらすごく楽しいかもしれへんって、こういうコンセプトにしました。

—なるほど。コンセプト自体は以前のバンドから用いていたけど、それによって逆に縛られてしまう自分があった。でも、自分の等身大のバンド名になることで、解放できるコンセプトになったということですね。

長谷川:そうです。前はめっちゃやりにくかった。しかも、曲を書くスピードが遅い方だったんで、「書かなあかん」っていう思考の方が強かったかもしれへんくて。それが今はリアルなこともOKやし、ファンタジーのことを歌ってもOKやし。ラブコメもシリアスな話もできて、さらにヒューマンドラマもっていうのは、自分らしくてすごく楽ですね。

—「君を主人公にする音楽」がある中で、その誰かにとってのバンドの在り方というのは、決まっていなくても良いことだし、また決まっていても良いんだろうし、寧ろそこに重きを置いている訳ではないんですね。

長谷川:そうですね。気持ち的には、聴いているリスナーの方が周りで起こったことを美化できたり強調できるようなBGMであったら良いという。彼ら・彼女らが主人公・主演であるドラマのBGMでという気持ちもありますし、逆に脇役として登場する子が、自分たちの曲で一気に主人公になるきっかけになるかもしれへんっていうのも良いですし。

—ドラマストアの楽曲には、中にはメッセージ性が強い曲もありますが、乱暴に言ってしまうと「好きに使ってよ」という?

長谷川:そうですね(笑)、本当にそうです。僕自身が好きなことしかやりたくない、スゲエB型タイプの人間なんで(笑)、わからへん人に無理矢理に説明をしたくないし。だからこそ、ドラマストアをすごい好きって言ってくれる人に「俺も好きやねん」「好きなこと共有しようぜ」って思うし、根底にあるのが愛情だったら、本当に嬉しいですね。

—実際、バンドを始められてから3年くらい経っていますが、好きな人が増えていってる感覚はありますか?

長谷川:実感はあります。しかも、1番最初からついてくれているファンや、前のバンドから6年くらいの人もいてくれてて「やっぱり長谷川 海は間違ってなかった」って。それがファンだけじゃなくて、同業の先輩・後輩に「俺の一番好きなヤツがまたバンド始めたってさ」みたいなツイートをしてもらったり。層としては若い女性がやっぱり多いですけど、だからといってメンズに届かへん訳じゃないですし、家庭を持ってるお母さんやお父さんがライブに来てくれたりもしているので、めちゃくちゃ嬉しいですね。

—この短期間で広がっていく要素を自分で分析したら、どういうことが挙げられますか?

長谷川:ぶっちゃけ、去年の12月にメンバーが脱退したんですけど、その彼がバンド運営に関しての手腕がすごかったんですよ。だから、彼のお陰でバンドの土台作りがしっかりいったのは間違いないですよ。もちろん、運営者が胸張って切り込める程、僕の曲が良かったというのは大前提やと思うんだけど、そこに関しての自信もありましたしね。

—現在は、その彼が脱退して4ヶ月経ちますけど、担っていたものを残りメンバーでというのは、不安もあるんじゃないですか?

長谷川:そうですね。ただ、急に脱退という訳ではなくて、事前にドラムがその仕事をちょっとづつ手伝ったり、引き継いだりしていて、残りのメンバーでもやっていける状態ではあったんです。しんどいなってこともあったんですけど、それをゆうに超える程にメンバーが仲良くて「お前がそんなに頑張ってるんなら、俺らも頑張らなくてはあかんな」って気持ちにはなれてるので、全然苦ではないです。

—それを経て出来た『白紙台本』ですが、今のお話を伺うとそれらが無かったと思えるくらいに突き抜けた楽曲が収められているのに驚きました。

長谷川:正直、すごく怖かったんですよ。ギターが抜けて、新しくピアノが入って…。まず、僕の中でピアノが入るっていうこと自体が勝負やなって思っていて。

—しかも、これまで作り上げてきた土台とは別のアプローチですよね、変な話、その土台に立ったまま、ギタリストを入れるという選択肢もあった筈なんです。

長谷川:そうですね。違う音が入るってだけで、離れていくお客さんはいっぱい居るんですよね。「変わったなあ」「そっち行っちゃったんだ」って思う人が居るのは分かっていたんですけど、それをビビってるメンバーと挑戦したい僕ががいて、今がタイミングだなって。仮に5人のお客さんが離れても、絶対10人20人のお客さんがつく自信はあったし、これにビビって同じことを続けていると、抜けたメンバーと比べて「やっぱあの人で良かった」ってなるのもイヤやし。完全に差別化をしつつも、変わらずに歌いたいことは真ん中にあり続けていて、「長谷川 海は長谷川 海のままです」ってうのを提示しながら、バンドでやれることを広げたかっただけやったんです。転換期だとか良い機会だからパツーンって切って、新しいこと始めますというニュアンスよりかは、やりたかったことを今のメンバーで広げてもらってるって感じなんですよ。

1

2 3 4