Kitri 原点となる二人編成で魅せるライブツアー 『キトリの音楽会#5 “tea for two”』 満員御礼の東京公演、様々な新しい試みで会場を沸かす!

Kitriは『キトリの音楽会#5 “tea for two”』と題し、敢えて原点となる2人のみのパフォーマンスで行うツアーがスタートしたばかり。2ヵ所目となった、東京公演の模様をレポートする。

会場のアークヒルズカフェは、ウッディな雰囲気の落ち着いた空間。そこに集まった観客たちは、Kitriの世界へ誘うような選曲のBGMに身を委ねつつ、姉妹の登場を心待ちにしている。
開演時刻になると白いワンピースに身を包んだ2人が登場し、ドビュッシーの「L’enfant prodigue Prelude」の連弾でライヴの幕を開けた。
美しい旋律によって神聖な空気に包まれたかと思えば、同じ連弾で魅せた「踊る踊る夜」で雰囲気が一変。「Bitter」に収録されるこの曲からは、Kitriのもう一つの顔であるダークでミステリアスな一面が垣間見え、ワクワクさせられる。
数曲を終えてMonaが、「今日はお越しくださってありがとうございます。こんなに客席が近いライヴは初めてです。しかも皆さんに背を向けて演奏するのも初めてで……今日は逆Kitriでお送りします(笑)」と挨拶。実はこの日、アップライトピアノの位置の都合上、観客は演奏する2人の背中を見守るような形になっていたのだ。
そんなレアな光景が広がる中、ライヴの前半は、主にMonaがピアノと鍵盤ハーモニカ、HinaがアコースティックギターとMPC(註:サンプラー、シーケンサー、そしてパッドコントローラーが一体となった電子機器)を担当し、ノスタルジックなものや、どこかメランコリックな楽曲を中心に奏でていく。
中でも印象的だったのは、「Bitter」の収録曲である「悲しみの秒針」だ。ピアノから紡がれる哀愁の漂うメロディに、Hinaが巧みに操るMPCから生み出されたリズムトラックが合わさると、2人だけで作り上げたとは思えない厚みのあるサウンドが響き渡る。
また、タイトルにかけて、時計の秒針の音も取り入れられていたのだが、こういった楽曲の再現性や遊び心の感じる演出は今までの彼女たちのライヴにはなかった。
曲の世界にあわせて、ピアノだけに限らず、さまざまな要素を取り入れ自由に表現していこう。そんな2人の前向きな思いを感じた瞬間だった。

一方で、ライヴの後半では実験的な楽曲が多く目立つ構成に。Monaがピアノでリードし、Hinaがダラブッカやカスタネット、MPCで彩りを加えた「矛盾律」では、予測不能な展開と異国情緒の漂うサウンドに思わず胸が躍る。続いて「Bitter」から「左耳にメロディー」、「実りの唄」が披露されたのだが、この2曲の流れは圧巻だった。アレンジャーの礒部智が作成したリズムトラックに、Monaがピアノを重ねて曲の展開を増やしていく。そういった初の試みを経て完成した「左耳にメロディー」は、まさにKitriにとって新たな挑戦と言える一曲だ。斬新なのは制作スタイルだけではない。歌の面では歌唱パートとは別にポエトリーリーディングが初めて取り入れられ、曲を一層ドラマチックなものにしているのだ。その世界を、ピアノとMPCによって見事に表現したのち、まるで賛美歌のような崇高さがにじむ「実りの唄」で、よりスケールのある音像を確立させていく。また、この曲では、Hinaが発する伸びやかな高音のコーラスに思わず息を飲んだ。思えば今回のライヴでは、演奏のスタイルだけでなく、声の出し方や声色も楽曲ごとに変えている印象が強く残ったのだ。さまざまな楽器を操り、楽曲の世界を表現する力が進化したのはもちろん、歌の表情が以前に比べてより豊かになっていることにも驚きを感じずにはいられない。
振り返ると、とくにこの1年、Kitriは音源制作やライヴを通じてさまざまな人と関わりながら音楽と向き合ってきた。昨年行ったツアーでギターやチェロを取り入れただけでなく、初のバンドフルセットで挑んだワンマンを成功させたことも記憶に新しい。
そして「Bitter」も、アレンジャー陣とタッグを組んで生まれたものである。そうやって彼女たちは誰かと音楽を作る過程で、自分たちだけでは気づかなかった表現の方法や、自らの可能性を知って少しずつ殻を破っていったはずだ。
だからこそ、この日の2人からは前述した進化を感じ取れたのだと思う。そして本編最後を飾ったのは連弾での「羅針鳥」。〈ひたすら胸の中の音を/頼りに飛んでいけ〉という歌詞の通り、ここから気持ちを新たに前を見て進んで行く。そんな決意を感じる、力強くも美しい演奏だった。

鳴り止まない拍手に応え、再びステージに戻ってきた2人。アンコールでは、8月19日に公開される映画『凪の島』の劇伴を担当したことに加えて、主題歌として新曲「透明な」を書き下ろしたこともアナウンスされた。
そして「透明な」が連弾で披露されたのだが、これが素晴らしい。清らかな旋律が続いたのち、サビで一気に開かれて、広い世界へと響いていくような歌。まさにさまざまな経験を経た今のKitriだからこそ生み出せる曲だと感じた。
 今回のライヴで、自身の成長と充実した今を示したKitri。「久々の2人編成でのツアーなので緊張していたんですけど、温かくて楽しい時間を過ごせました」とHinaが笑顔で話していたように、2人が以前にも増して心から楽しんで演奏する姿も印象的だった。そのポジティヴなムードが会場に伝播し、終始穏やかな空気が流れていたと言っても過言ではない。さらにMonaが「またパワーアップして東京でライヴができるように頑張ります」と抱負を語ってくれたが、きっとこのツアーを通じて2人は新たな自信と可能性を得て、次の世界へ一歩踏む出していくはずだ。Kitriの未来がより楽しみになる一夜だった。

文=青木里紗(音楽と人編集部)
写真:Masatsugu ide

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