オープニングを飾ったのは、2003年2月にリリースされた3枚目のアルバム『加爾基 精液 栗ノ花』収録のワルツ「ポルターガイスト」。電車に乗って“君”に会いに行く “僕”の心情を綴った幻視的恋愛譚。「君だけに是を唄ひます。」とコンサートの始まりに相応しいフレーズに続き、椎名はスライドホイッスルを操って、幽霊の登場をも想起させる、哀愁のある旋律を届けた。両手を広げて深々とお辞儀をすると、続いて、栗山千明に提供した、恋する女の子の気持ちを歌ったバラード「おいしい季節」へ。今度は一転して、エレキギター、エレキベース、エレクトリックピアノにドラムというバンド編成で、スタンドマイクで歌唱した椎名の歌声には部分的にユニゾンの声素材が添えられ、ふんわりとホイップクリームのような印象を醸していた。アウトロでスムーズながらも力強いストリングスが加わり、ギターソロが始まると、椎名は頬に両手を当てたあとで「どうして君はひとりしかいないの」と歌いながら黒のケープを脱ぎ、白いブラウスに黒のトラウザーズ姿となった。
1999年にともさかりえに提供した「カプチーノ」では心の鐘を鳴らすかのようにチューブラーベルをチャイムマレットで叩きながらホーンセクションと合奏。コケティッシュでチャーミングな歌唱で観客の心も弾ませると、同年リリースの1stアルバム『無罪モラトリアム』収録の「茜さす 帰路照らされど…」では一転して、アーバンソウルのようなムードの中で、恋に落ちた喜びではなく、切なさを表現。そして、石若によるドラムソロから、再び、ともさかりえ「少女ロボット」のセルフカバーは、アップテンポのジャズへとアレンジし、椎名は扇で口元を隠しながら囁くように歌唱。ハードバップ時代のジャズメンのような熱い演奏からアフロキューバンのリズムを挟み、東京事変「化粧直し」は、アコギとオルガン、コントラバス、ブラシ奏法のドラムがボサ・ノヴァのリズムを奏で、スタンダードナンバー「cry me a river」では、孤独感の際立つピアノの独奏に哀しく唸るようなボーカルを重ねると、ストリングスとホーンも加わって、サウンドのスケール感はダイナミックに拡大。椎名は床にペタンと座り込んで歌い切ると、一旦ステージをあとにした。川ができるくらい泣き明かした失恋ソングをもって第一幕は終了したことになる。
ここで、ナレーションによって本公演が「前回とは打って変わって、苦味に焦点を当ててお送りしております。苦いといっても様々です。今回は思い切って、いわゆるラブソングのみに絞りました」とテーマが明かされ、「作詞の上で私が苦手としているモティーフでもありますけれど、15歳からつい先ごろまで、都度、一所懸命に書いた作品たちです。今、生身の私なりにお届けしたいところ」と意気込みが語られ、演奏家の紹介に続き、「11名と私、林檎による、苦味の大人の党大会」であることが告げられた。

