昨年2024年にデビュー25周年を迎えたbirdが、ニューアルバム『Reconnect』を携えてライヴを行った。今回のライヴは初期代表曲「空の瞳」や「マインドトラベル」で盛り上がり、「SOULS」を観客と合唱するようないつものbirdではない。<bird “Reconnect” Live!>と題し、冨田ラボこと冨田恵一をバンマスに据え、彼がプロデュースした新作と過去作品から選りすぐりの楽曲で構成した特別なステージだ。
客電が落ちると、ステージ上に今回のバンドメンバーがずらりと並ぶ。樋口直彦(Gt)、鹿島達也(Ba)、坂田学(Dr)、Hanah Spring(Bgv)、稲泉りん(Bgv)、そして冨田恵一(Key)というフルバンドスタイルだ。神秘的なシンセサイザーの音色からドープなビートのインスト「Interlude Reconnect 2」が鳴り響きはじめたところで、様々な表情に変化するライトブルーのグラデーションと美しいシルエットが印象的なワンピースに身を包んだbirdが最後に登場、神秘的なシンセサイザーの音色からドープなビートのインスト「Interlude Reconnect 2」が鳴り響き、すかさず細やかなベースのフレーズとともに新作『Reconnect』に収められた「サイレンス」へとなだれ込む。コーラスを従えたbirdのヴォーカルは心なしかいつもよりクールな雰囲気だ。続いて性急でトライバルなビートとともに2015年のアルバム『Lush』の中の一曲「Surprise」へ。一気に会場の空気が熱を帯びてくる。
ここであらためてbirdから、今回のライヴは「冨田さんとこのようなライヴを行うのは久しぶりです」と語る。次の曲「Lush」を紹介する際に、「10年前にこの曲をもらった時は“新しい冨田さんが始まった!”と衝撃を受けた」という話があり、それを受けて冨田恵一は「古い音楽だけでなく、リアタイの音楽を聴き始めた頃に作ったから」と返し、レコーディング中にディアンジェロのライヴへ行ったという裏話も飛び出した。その「Lush」の演奏はとにかく強烈だった。あの当時のオルタナティヴなR&Bのテイストをふんだんに盛り込んだトラックと、ヴォーカルのせめぎ合うような演奏から、birdは常に革新的なことをやり続けていたことをあらためて実感した。
続いて、ゲストにASOUNDのヴォーカリストであるARIWAが登場。かねてからASOUNDの音楽やARIWAの歌声に惹かれ、ぜひ自身の新作に迎え入れたいという熱い想いと経緯を語ったbirdからの紹介を受けて、ARIWAは「最初お話をいただいたときはびっくりして、デモ音源を受け取ったときは圧倒されましたが、歌ってみたらとても楽しくて。本当に光栄です。アルバムに参加させていただきありがとうございました。ライヴにも参加させていただいたことも嬉しいですし、最高のステージで一緒に音を紡げて幸せです。今日で終わりなのはあっという間で今は少しさみしいですね」と述べて、「再び世界へ feat. ARIWA」を披露。南アフリカ発のアマピアノを取り入れた楽曲に二人の歌声が絶妙に重なり合って独特の高揚感を生み出していた。
再びバンド演奏によるトライバルなビートとコーラス主体の「Interlude Reconnect 1」から、そのコーラスがアクセントになった「My Rainbow」へと続き、オーディエンスから自然と手拍子が起こる。
birdからのメンバー紹介の後、冨田恵一が自身のビルボードライブでのショーで作ったという「How’s it going?」、しっとりとしたバラードの「光と光」、そして『Lush』からヒップホップ色が濃厚な「タイドグラフ」と、緩急をつけながらステージは進む。
そして、2組目のゲストであるスチャダラパーが登場。Boseが「僕らはゲストですが、今回1曲だけでしかも16小節しかラップしないし、SHINCOのスクラッチは2回だけですよ」という彼らのコミカルなキャラクターから生まれる爆笑トークで場を盛り上げる。さらには自然体のANIをいじりつつも、birdとの親密さが客席にも存分に伝わってきた。タイミングを図ってbirdは「35周年おめでとうございます」とお祝いの言葉を掛け、コラボレーションの制作過程をbirdとスチャダラパーの軽妙なトークで面白楽しく披露してから、共作曲「センスとユーモア feat. スチャダラパー」へ。ラップが入るだけでなく、突如テンポチェンジするユニークな曲構成で、ライヴならではの躍動感を伴って盛り上がりを見せた。
一転して、カッティングギターの響きが心地良いミディアムナンバー「海辺のまち」、グルーヴィーな小品「Outro Reconnect」と続いた後は、2003年に発表した冨田ラボの1stアルバム『Shipbuilding』でbirdがフィーチャーされた名曲「道」。後にbirdも自身の冨田プロデュース作『Lush』でセルフカヴァー・リアレンジ・ヴァージョンを収録するほどの思い入れある楽曲について、「20年以上経っても歌い続けられるとは思わなかった。大切な曲です」と紹介した。冨田印がたっぷり詰まったと言えるメロウなナンバーは、『Lush』でのヴァージョンをベースに、このバンドならではの、緊密で一糸乱れぬ一体感あふれるふくよかなグルーヴを軸としたアレンジによって進化しており、後半はギターソロとドラムソロを盛り込み、さらには三声コーラスが加わった壮大なクライマックスでステージを締めくくった。
アンコールに応えて再びステージに上がったbirdからは、初期アルバム7作品をリマスターして7月にリイシューすることがアナウンスされ、ラストは、そのリイシュー作品でもある、birdと冨田恵一が本格的にタッグを組んだ最初の作品『BREATH』(2006年)から、堀込泰行が楽曲提供した「記憶の水槽」を披露。ゆるやかなラヴァーズ・ロックのリズムが会場を包み込み、ピースフルな雰囲気で幕を閉じた。
冒頭に書いた通り、今回の<bird “Reconnect” Live!>は通常のbirdのライヴとは違い、冨田恵一のポップながらもカッティングエッジなセンスが炸裂したステージングだった。緻密にアレンジされたサウンドで構築され、プログラミングと生演奏、そして2人の女性コーラスが有機的に融合していたことが印象に残った。しかし、そういった新しいチャレンジといってもいい先鋭的なライヴでありながら、飄々としたスタイルを崩さず果敢に乗りこなしたbirdの懐の深さを再確認するステージだったともいえる。冨田恵一との足跡をたどるだけでも、彼女は常にトライを繰り返してきたことがわかるだろう。デビュー25周年の節目を終えたこれからの展開はどのようなものになるのか。そんな期待を抱かざるを得ないライヴだった。
Photo 上飯坂一
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