the pillows 「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1」ライヴレポート

the pillows「RETURN TO THIRD MOVEMENT! Vol.1」のツアー・ファイナル、2017年12月15日(金)・東京 Zepp DiverCity公演を観た。3月にリリースされた21stアルバム『NOOK IN THE BRAIN』を携えたツアーの中で、今回の企画に行きついた想いを山中さわおはすでにほのめかしていたが、“20年前の1997年に発表された5th『Please Mr.Lostman』と1998年に発表された6th『LITTLE BUSTERS』という2枚のアルバムを全曲演奏する”という特別なツアーだ。特設サイトで山中は「自分達らしさがやっと滲み出始めて、少しずつ、でも確実に、理解者が集まってきて心に光が射した頃。第三期の幕開け」という表現で、結成28年を超えるキャリアの中で、とても大事な時期の作品を完全再現することを表明。BUSTERS(the pillowsファンの名称)の期待の大きさは想定を超え、全国8公演は瞬時に全会場ソールドアウトとなった。

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身動きできないほど超満員の場内で客電が落ちる。メンバー登場のSEはこれまでSALON MUSICの「KELLY’S DUCK」がBUSTERSにはお馴染みだが、このツアーでは「STOMPIN’ WHELL」が流れ始め、いつもと違う緊張感が漂う。ダークなベース・ライン、一瞬のブレイクに続いてさらに続くフレーズ。そう、アルバムでもオープニング曲である「STALKER」。そして今も代表曲のひとつ「TRIP DANCER」が矢継ぎ早に演奏され、2曲にして『Please Mr.Lostman』の世界観が20年の時を超えて充満し始める。

「久しぶりじゃないか! みんな元気かい?」。お決まりのMCに続いて、このツアーの主旨を語る山中さわお。さらに「こういう特別なライブだから結構久しぶりに来てみたよっていう人いる?」と問いかけ、パラパラと手を挙げる客席に向けて「ふざけんじゃねえ、このヤロー!」と一撃(笑)。毎年アルバムを制作しツアーを続けるthe pillowsにとって、この企画だから来たというBUSTERSには手荒い歓迎だ。「もう20年も前のアルバムなので当然20歳、年取ってます。なので、姿かたちの方が...。でもその2枚のアルバムは正真正銘、誰が作ったのかと言えば、オレたちが作ったんだよ!オレたちが演るしかねえだろう!」と煽って、当時を体験したBUSTERS、追体験を叶えるBUSTERSの気持ちをまとめてグッと鷲掴みにする山中。前半は『Please Mr.Lostman』収録曲が、絶妙な曲順でアルバムとは変化をつけながら演奏される。まだ前半だというのに「ストレンジ カメレオン」、そして“Brakeなんて踏まない 壊れてもいいんだ”...、ヒリヒリした疾走感の「Swanky Street」と、尋常じゃない感情の波が押し寄せる。

「そんな前半に「ストレンジ カメレオン」演っちゃって大丈夫なんですか? って思ってるでしょうけど、大丈夫なんです! まだまだ名曲たくさんあるんです」。少しおどけながら山中が笑顔を浮かべる。その名曲たちの連発に、いつまでも止まない拍手や歓声を送り続けるBUSTERS。「やべえ、人気出てきたな、俺たち」と照れながら、このツアーの充実ぶりを噛み締めているようだ。

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「今日は何の曲を演るか、もうみんな知ってる訳じゃないか。わかっていてもね、想像以上に味が濃くてしつこいです。もう本当に途中で死にたくなる曲とかあるから(笑)」。

「今回のツアーは、歌っていて20代の山中さわおが不憫でならないよ(笑)」。

周囲が期待する方向性とのギャップと真正面から戦い、苛立ちを抱えながら自分たちの進むべき道を一歩一歩開拓していた時期。歌詞にもその心の痛みや孤独や絶望感と、それに必死に抗う葛藤が刻まれている。その刻印たちがたまらなくBUSTERSの心の中で、the pillowsをかけがえのない道標という存在にしてしまうのだ。わかった、自分も28年という長い時間、the pillowsがなぜこんなに代えがたい存在として好きなのか。発表当時、取材という形でthe pillowsと接する機会に恵まれたとき、もがき苦しみながら自分たちの信じた道を歩き続ける彼らの姿に心を奪われたからなんだ。そんな簡単なことをこのツアーを観ながら気づかされた。

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『Please Mr.Lostman』の10曲を演奏し終わり、「ここからは『LITTLE BUSTERS』。準備はいいのか?準備はいいのかよ!」と、まだ中盤戦にも関わらずボルテージを振り切った客席に向けてさらに挑発する山中。アルバムのオープニング曲「Hello,Welcome to Bubbletown’s Happy Zoo(instant show)」に「Blues Drive Monster」を続けて、これ以上ないほどの熱気で拳が突き上がる。さらに“あ~今日は~♪”とサビの頭で誘導する山中に応えて大合唱が湧き上がると「アナザーモーニング」だ。そして哀愁を帯びたイントロから「ONE LIFE」。名曲は確かにこの時期に多く産み落とされたのだと思い知る。

98年のツアー中にライブで演るのは止めてしまったから久しぶりに演奏する曲と前置きして「THAT HOUSE」、そして山中自身が「本当にどういう状態で作ってたんだろうな」と振り返った「Black Sheep」、さらに「Nowhere」とセンチメンタルな3曲を披露。そしてメンバー紹介へ。サポート・ベーシストの有江嘉典は、「参加し習得してきた曲と雰囲気が違う曲が多くて体に入れるのに苦戦した」と語り、佐藤シンイチロウ(ds)は「ツアー初日にオープニングSEがこれまでと違う知らない曲でびっくりした」と言って、山中から、「知ってる曲だわ、当時やってたじゃねぇか」と突っ込まれて笑いを誘った。真鍋吉明(g)は「今回のツアーで演奏中に当時の記憶がバーンと蘇ってくる」と語り、「TRIP DANCER」のPV収録したあとにスタジオに戻ってレコーディングした音源のミックス作業をしたエピソードを披露。「今だったら絶対入れない。当時すごい頑張ってたんだなぁ」と振り返り、「貴重なレアな機会だったと思います。本当にこういう企画を考えてくれた山中くん、ありがとうございました!」と、メンバー間の絆を垣間見れる一幕も。

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続いて山中が「ちょっと前に誕生日がきて49歳になったんだけれども、49歳のオジサンがとってもチャーミングな可愛いラブソングを歌っちゃうよ」と照れて演奏された「パトリシア」。さらに「like a lovesong(back to back)」で、曲に合わせて一糸乱れぬ手のフリで応えたBUSTERSとの掛け合いが素晴らしく、後半のサビ、ブレイクして“これはキミのうた!”と大合唱と客電が場内を明るく照らした“あ・うんの呼吸”に鳥肌が立った。そして「ハイブリッド レインボウ」、「LITTLE BUSTERS」とthe pillowsを代表するナンバーが続いて詰めかけた人全てのボルテージが最高潮を迎えた。拳を振り上げるさまはいつものツアーと同じ光景かも知れない。でもなにか“特別なもの”に感じられた。

拍手に促されてメンバーが再びステージに姿をみせると、アンコールは「これはオレが育った北海道小樽の端っこの街で、同級生の親友とギターを練習して、バンド組もうぜ、東京に出てプロになろうとか、わかりやすい少年の夢を持ったときから今現在までの、その彼との友情を記した曲」と山中が前置きして「ぼくのともだち」という新曲からスタート。続いて「次は東京に来てピロウズを始めてからできた友達の歌」として1997年にシングル「ONE LIFE」のカップリングとして発表された「cherry」が披露された。

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「いい夜になったかな」と山中が名残惜しそうに語り始める。「このツアーはなんだかいつもと違う気分でステージで歌った。懐かしい曲だけじゃなくて定番の曲も、いつも演ってる曲なのに今回の曲順の中で歌うとね、その20年前の歌詞を生み出した瞬間のような感じで、なんとも言えない感情で、その感情をもってステージに立ってる時間はなにかオレにとってはいいものだった、ありがとう」と、いつになく胸の内を素直に吐露したようにみえた。「20代の頃はなりたい自分になれてなくてとても苦しいときだったと思う。そしてその苦しみから生まれたであろう曲たちがこんなに長い時が経っても、全国どこに行ってもその曲を聴きたいって言ってくれる人たちがいてくれて、幸せです、ありがとう」。この日一番大きな拍手で感謝の気持ちを返すBUSTERS。「みんな知っての通り、偏屈ですぐ敵を作ってしまうような生き方をしてきてしまったけど、そのときの曲がなんかこういう感じだったら、オレの偏屈にも意味があったのかなと思って嬉しいよ」。このひと言が、このツアーの存在意義なのだと思った。勝手な想像だけど、今現在もthe pillowsは新曲を作り続けツアーをやり続けている。当時の状況と比べたら圧倒的に理解者が全国にたくさん存在している。でも山中のいう、苦しくて偏屈で敵を作ってしまう生き方を貫いてきた先に、今のようなバンドにとって素敵な地平が広がっていた。そのときでなければ生み出せなかった曲を、今必要としているBUSTERSに届ける機会をきちんと作ってみよう。そんな想いが、こんな特別な場所が実現するための牽引役だったのではないか。

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