圭(BAROQUE)が昨年12月30日に東京・渋谷PLEASURE PLEASUREにてワンマンライブ“in ancient.-the complete utopia.-“公演を開催。そのなかで1月26日にニュー・アルバム『utopia.』をリリースすること。さらに、4月17日の満月を迎える夜、東京・渋谷ストリームホールにてワンマンライブを開催することを発表した。
BAROQUE活休後はギターを中心としたインストスタイルと、本人がセンターに立ってヴォーカルを担当する歌ものスタイル。その2つのパフォーマンスを追求しながらソロ活動を展開している圭。この日のライブは、インストスタイルで作った発売前のニューアルバム『utopia.』を完全再現するという内容の公演だった。
自分1人だけで作り上げたアルバムのサウンドを、有機的なバンドを使っていかに現実世界に召喚していくのか。ライブは頭からラストまで『utopia.』の曲順通りに進行していった。楽曲のアクティングと共に、ステージ後方にはこの日のために『utopia.』のアートワークを担当した美術家・真砂雅喜氏が楽曲ごとに制作した映像が映し出され、その映像とともに観客たちは着席して『utopia.』の全貌を体感。サウンドテクスチャーは、明らかにこれまでの圭を感じさせるもの。だが、なにかが違う。ライブの見せ方も1曲ごとに音、映像が作り出す立体芸術のような作品を、美術館でモダンアートのインスタレーションを眺めるように鑑賞していく。そんな感覚を引き起こすライブだった。
ステージ後方、少し空いた幕の間からアルバムのジャケットが映し出される。サポートメンバーの結生(Gu/メリー)、高松浩史(Ba/THE NOVEMBERS),山口大吾(Dr/People In The Box)、hico(Key&Mani)に続いて、圭が現れる。1曲目の「spirit in heaven.」が始まると後方の幕は全開。波打つ海とともにスクリーンいっぱいに空が広がる。「みなさん、ようこそ『utopia.』の世界へ。遠いところまで旅するんで、楽しんで」という圭の短い挨拶を挟んでから、ライブは最後までノンストップでアルバム曲を披露していく。広大な夜空をバックに「longing star.」が始まると躍動するリズムに合せて、Bメロから流星群がスクリーン一面に広がって出現。ライブ初披露曲となる「helix.」が始まると、誰もまだ足を踏み入れたことがないような大地に太古のビートが鳴り響き、会場の空気を震わす。圭を中心に放射線状に広がる針葉樹。その神秘的な森のなかを抜け出すと、空一面に青空が広がり、雲が流れ出す4曲目の「mobius.」へ。ベースが浮遊感ある柔らかなメロディーを奏で、その上に圭が優しい音色でアルペジオを重ねていくと、マインドはいつの間にか心地よくチルアウト。これらを、観客を1人ぼっちな気分にさせて鑑賞させていく今回のステージング。どうやら『utopia.』はこれまでのようにどこかで見たことがあるような懐かしい風景や忘れられない感情を思い出すものとも、音とともに自己の深い意識と対話したり、圭の覚醒した脳内、精神世界とコンタクトするようなものともまったく違う次元にある音楽作品のようだ。圭という作り手から湧き出る感情を音で言語化することを極力排除したら、そこにはなにが残るのか。その元素、bigininngをサウンドデザインしたような世界が『utopia.』にはある。ここでいうutopiaとは生き物や人間が存在する前の誰も見たことがない宇宙の、地球の始まりなのか。ミュージックビデオを作り慣れた音楽の専門家ではなく、美術家である真砂氏が作リ出す映像は基本モノクロームで、余計な心象や情報をいっさい語ることなく、余白を残した美学を追求していく。余計なものを排除したなかで唯一残った空、雲、海、森林、岩など自然界にあるものだけを抽出したミニマリズアートを『utopia.』の楽曲に調和させることで、音楽を立体的芸術作品へと昇華させていったところは今回のライブの大きな見どころにもなっていた。
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