ボン・イヴェール、必見の来日公演に向けて彼の発言で振り返るその足跡

Bon Iver

タイトルにもあるように必見と言って申し分ないだろう。ボン・イヴェールが来年1月に東京で来日公演を行う。ヨーロッパではロンドンのウェンブリー・アリーナも含めて、大規模なアリーナでツアーを行うボン・イヴェールだが、4年ぶりとなる来日公演ではそんな彼がライヴハウスで貴重なパフォーマンスを見せてくれるのだ。しかし、そんな欧米とのスケールの差だけではなく、ボン・イヴェールのライヴには必見だと言い切れる理由がある。2010年代を代表する名作に軒並みランクインしている彼の作品だが、最新作『アイ、アイ』までの4枚のディスコグラフィーとはこの10年の時代精神に重要な影響を与えた作品と言って間違いない。

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多くの人がボン・イヴェールひいてはジャスティン・ヴァーノンに触れるきっかけになったのは、2011年にリリースされたセルフタイトルとなるセカンド・アルバム『ボン・イヴェール』だろう。カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』での大抜擢を経て、世界中のメディアから大絶賛を受けることになった本作は、2008年から2009年に隆盛を極めていたUSインディ・ロックのシーンとは対照的に、イギリスのジェイムス・ブレイクらと共に内省へと大きく舵を切る流れとなった。そのサウンドの影響は2019年の現行のシーンでも見て取れるが、いわゆる表舞台となるグラミー賞で最優秀新人賞までをももたらすこととなっている。

しかし、メインストリームでの成功がジャスティン・ヴァーノンにもたらしたのは必ずしもポジティヴなものばかりではなかった。アメリカのウィスコンシン州で育ち、内にこもって専ら小屋のなかで徹底的に自己と向き合いながら創作活動を行ってきた彼にとって、唐突にメインストリームの脚光を浴びたことは、今後数年にわたって悩まされることになるアーティスト「ボン・イヴェール」というアイデンティティとの葛藤に繋がることになった。

ジャスティン・ヴァーノンは「図らずも」時代の寵児になってしまったことで、それまで向けていた音楽に対する意識を他者を巻き込んだものへとドラスティックに変化させることになり、自らの芸術作品に対する徹底的なまでの自問自答は経て、ボン・イヴェールという存在を長期にわたって葬り去るという決断を下している。2014年にはボン・イヴェールの消滅が示唆されるなど、とことんまでストイックにその存在と向き合ったジャスティン・ヴァーノンがようやくボン・イヴェールを復活させるのは、2011年のセルフタイトル作のリリースからおよそ4年後となる2015年7月のことだ。

同月に地元ウィスコンシン州で主催したフェスティバルで復活を果たすこととなったボン・イヴェールだが、ジャスティン・ヴァーノンは当時、アルバムの制作やツアーの開催は否定するなど、あくまでも一夜限りの復活であることを強調していた。その後、初来日公演が大きな話題になったことも記憶に新しい日本を含むアジアでの5公演を2016年に行うことを突如として発表した後で、2016年に入ってからジャスティン・ヴァーノンは再びボン・イヴェールとしての活動を本格化させていく。そして、そんな2016年に5年ぶりのアルバムとしてリリースされたのが、かつてないほどにエレクトリックな方向へと舵が切られたサード・アルバム『22、ア・ミリオン』だった。そして、今年8月にリリースされた最新作『アイ、アイ』のリリースにあたっては『22、ア・ミリオン』の頃に抱えていた自らの不安までをも赤裸々に明かしている。

この記事では今年に入ってのジャスティン・ヴァーノンの発言を参照しながら、ボン・イヴェールの歩みを振り返ってみようと思う。

『22、ア・ミリオン』のリリース前後に抱えていた不安について

2011年のアルバム『ボン・イヴェール』で一躍メインストリームの注目を集め、ボン・イヴェールから離れて様々なクリエイターたちと創作活動を行っていたジャスティン・ヴァーノンは続く『22、ア・ミリオン』のリリース前後の時期に抱えていた深刻な不安について、「Beats 1」のゼイン・ロウの番組で次のように語っている。

「僕は一緒に働く人たちのことが大好きでね。そのせいで時々、自分の責任感だったり、自分が最後の頼みなんじゃないかって思ってしまうことがあるんだ。これで意味が伝わってくれるといいんだけどさ」とジャスティン・ヴァーノンは語っている。「自分がいなかったら、全員が何かを失うんじゃないかとか、そういうことを考えていたよ。幸せを感じられないような日なんかがあると、そういうプレッシャーに襲われることになるんだ。言っていること分かるかな? それで、自分なりに解決してみようとしたんだ。今では遥かに幸せを感じているよ。『22、ア・ミリオン』をリリースするまでの数年は個人的に辛いもので、その後の1年もそうだった。落ちるところまで落ちたという感じだったね」

『22、ア・ミリオン』の時期に不安症を経験することとなったジャスティン・ヴァーノンだが、今では「自分の脆さ」を認識できるようになったのだといい、抱えていた不安症が最新作『アイ、アイ』に与えた影響について、BBCラジオ1のアニー・マックの番組に出演して次のように語っている。

「これまでに経験したことのなかったものだったんだ。不安症が人々に与える影響を理解していなかったんだって気づかされたよ」とジャスティン・ヴァーノンは語っている。「圧倒されたね。驚いたよ。僕は大抵、自分のことは自分でどうにかしていたんだけどね……僕にとって(このアルバムの)ストーリーはそんな感じだね。『アイ、アイ』では、辛い時期を経験して、自分の脆さやありがたみを認識できるまでのことが歌われている。個人的にも、アーティストとしても、浄化してくれるような作品になったと言えるよ」

ドナルド・トランプ大統領政権について

2011年の『ボン・イヴェール』のリリースが10年代の音楽業界やジャスティン・ヴァーノンにとっての大きなターニング・ポイントの1つであったなら、世界的な社会・政治としてのその筆頭はドナルド・トランプ大統領政権の台頭だろう。当然、ジャスティン・ヴァーノンにとってもドナルド・トランプの当選は憂慮すべき事態であり、彼は「shittiest day in American history(アメリカ史上最悪の日)」を意味する最新作『アイ、アイ』収録の“Sh’diah”について、ドナルド・トランプが大統領選で勝利を収めた翌日に書いた曲であると「ピッチフォーク」に明かしている。

「MDMAの雲をホワイト・ハウスの上空にかけることができたら、彼も思いやりの心を持ってくれるのかもしれないけどさ」とジャスティン・ヴァーノンは同じくアルバムの収録曲である“We”について語り、同曲について人々に対して「自分が売られた対象」はドナルド・トランプではないと呼びかけるものだと説明している。「自分たちの持っているエネルギーを彼1人に注ぎ込むような過ちは犯したくないからね。彼はメタファーでしかないんだ。ブラック・ホールなんだよ」

ボン・イヴェールが拠点としているウィスコンシン州は2016年のアメリカ大統領選における激戦区となったが、共和党の大統領候補だったドナルド・トランプは土壇場で勝利を収めており、同州は彼の最終的な当選に繋がることとなった重要な選挙区の一つとなっている。民主党支持者として知られるジャスティン・ヴァーノンは、来たる次期大統領選でウィスコンシン州の民主党の大統領候補に可能な限りのサポートを示したいと語っており、次期大統領選でも重要や役割を果たすことになるであろう同州で2020年10月にツアーを行う考えを示している。

「超高額なチケット価格を設定して、プロダクションにはコストをかけないっていうね。候補者の人に来てもらって、演説をしてもらえたらと思うよ」とジャスティン・ヴァーノンはウィスコンシン州で行うツアーの計画について「ピッチフォーク」に語っている。「お金を稼いで、このクソみたいな国を運営するために必要としている人たちに渡したいんだ」

エミネムとソーシャル・メディアについて

「2010年代」において、「ソーシャル・メディア」の普及もまた欠かすことのできない決定的なトピックの1つだ。ウィスコンシン州で1人黙々と作業をこなしていたジャスティン・ヴァーノンもまた、現代社会の例に漏れず、定期的なソーシャル・メディアを利用している1人である。ジャスティン・ヴァーノンはソーシャル・メディアによって何もかもが「検証」される社会になってしまったと痛感しているようで、彼は先日、かつて自身の声が使われた楽曲“Fall”をリリースしたエミネムソーシャル・メディアで批判してしまったことを後悔していると明かしている。

ジャスティン・ヴァーノンは「Beats 1」のゼイン・ロウの番組の中で、ソーシャル・メディアの在り方について次のように語っている。「人間が検証されたり、検証されなかったりというのが好きじゃないんだ」と彼は語っている。「僕も検証されたくないしね。すごく笑えることにしか見えないんだよね。自分がやってしまったことでも、誰かが言ってくることでもさ。ポッドキャストを聴いてたら、リツイートのうちの75%は記事を読んでいない人のものだなんてことも言ってるわけでさ。みんな、『見出しだけで判断したんだ』なんて言ってるだろ。自分も同じことをしているんだけどね」

彼は次のように続けている。「僕らはこんなものに適応できていないんだよ。僕が高校生の時には携帯電話もインターネットすらもなかったからね。まだ適応している最中なわけでさ。醜いものにだってなり得るんだ。エミネムとの楽曲に関して言えば、僕は大きな間違いを犯してしまった。洗車中にツイートしたんだけどね。『僕は何てことをしたんだ?』って思ったよ……オンラインでいかに簡単に言葉を発信できるかということと、それはどの程度言う必要があるものなのかということを、僕たちは頭の中で組み合わせて計算できていないんだろうね」

カニエ・ウェストについて

2010年代も最後の月に入り、各音楽メディアから発表される2010年代のベスト・アルバムのリストが揃い始めているが、ジャスティン・ヴァーノンも参加した2010年発表のカニエ・ウェストのアルバム『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』はそのほとんどの媒体で軒並み上位にランクインしている、まさに2010年代を象徴するアルバムとなっている。徹底的なまでに自己と向き合うジャスティン・ヴァーノンのパーソナリティはカニエ・ウェストの作品にこれまでにない繊細さをもたらしており、彼の存在は同作における大きな原動力となっている。

一見すると相反するような存在であるジャスティン・ヴァーノンとカニエ・ウェストの2人が結びついたことで生まれたマスターピースの存在感は10年代が終わりを迎えようとしている今もなお傑出しているわけだが、ドナルド・トランプ大統領とトランプ・タワーやホワイト・ハウスで面会し、彼のスローガンである「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」 と書かれた帽子を被るなど、ドナルド・トランプへの支持を表明して度々物議を醸しているカニエ・ウェストの昨今の政治観を鑑みれば、その相入れなさ加減はより一層増していると言えるだろう。

ドナルド・トランプの台頭によって2人の政治観の違いが明白になった今、ジャスティン・ヴァーノンの目に現在のカニエ・ウェストはどう映っているのだろうか? 「彼と個人的に話をすることはもうないだろうね。エネルギーの面で言えばさ」とジャスティン・ヴァーノンは「ピッチフォーク」に語っている。「けど、彼のことは大好きだよ。僕らは今も友人なんだ」

最新作『アイ、アイ』のテーマについて

徹底的なまでに自己に向き合い、『ボン・イヴェール』の成功で他者へと視点が切り替わった際には順応に相当な労力を要することとなったジャスティン・ヴァーノンも、今では「自分1人の力ではできない」ことがあると自覚しているようで、彼は「ピッチフォーク」とのインタヴューで最新作『アイ、アイ』のテーマについて次のように語っている。

「陳腐な言い回しではあるんだけどさ……自分自身を愛して、平穏で、幸せである必要があるんだ。そうでなければ、自分に何も与えてくれないという理由で、どういうわけか周囲の人々に対して怒りが湧いてしまいかねないからね」と彼は語り、アルバムのテーマについて次のように続けている。「恐れや苦悩を持つことについて歌っているわけじゃない……口に出して、行動に起こすということなんだよ。他の人たちにその重要性を理解してもらうことを手助けするということなんだ。それって、自分1人の力ではできないことなんだよ」

来日公演情報

2020年1月21日(火)Zepp Tokyo
OPEN 18:00 / START 19:00
1階・スタンディング:¥8,600(別途1ドリンク代)
2階・指定席:¥9,600(別途1ドリンク代)

2020年1月22日(水)Zepp Tokyo
OPEN 18:00 / START 19:00
1階・スタンディング:¥8,600(別途1ドリンク代)
2階・指定席:¥9,600(別途1ドリンク代)

更なる公演の詳細は以下のサイトでご確認ください。

https://www.livenation.co.jp/artist/bon-iver-tickets

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