『Chopped Grill Chicken』からの「Get out」でますますバンドのサウンドはヒートアップ。3人の呼吸もばっちりで、ツアーを重ねてきた手応えが音に宿っているようだ。3人だけではない。鮮やかな照明、どっしりとしたスケールの大きな音、チーム一体で培ってきたものが、ここ横浜アリーナで特大の花を咲かせている、そんな印象である。そこから彼らのライブの鉄板曲「いつもの流れ」へ。KO-SHINの鋭いギターが空気を変え、KENTAはお立ち台に乗ってベースを弾く。観客は全力で手を掲げ、その熱い音に応えている。そのテンションのまま突入したのは『Chilly Chili Sauce』収録の「月の傍で」。音源の何倍も激しい音が、かえってこの曲にこめられた切なさを爆発させる。喉を振り絞るようにして歌うKENTAの声に込められた感情は、次の「THANX」でさらに大きなものになる。「こんな大変な時期にWANIMAに会いに来てくれてありがとう 心の中で歌ってくれ!」。そんな言葉とともに披露されたこの曲、歌うKENTAはいい笑顔だ。
そんななか歌われたのがWANIMAにとって、KENTAにとってとても大事な曲「1106」だった。このツアー、STUDIO COASTで観たときも思ったが、この曲の位置付けは大きく変わった。もともとKENTAが亡き祖父に向けて書いた曲、その思いは今ももちろん変わっていないが、そこに、このコロナ禍で彼が感じてきた苦しみ、悔しさ、喪失感、そういったものが重なることで、この「1106」はより普遍的で強い曲に生まれ変わった気がする。「コロナになって、彼氏、彼女、家族、友達、ペット、なんでもいいけど、今大事なものはなんですか?って訊かれたとき頭に思い浮かぶ人やったり、ものやったり、そういうのがおったらいいなって思います。もしそれが見当たらん人がおるんやったら、目の前の俺らWANIMA、イメージしてよ。いつだっておるやんか。メンバー、スタッフ、目の前におるみんなはもう失いたくないなって思う。やから、キツい時とかあったらいつでも頼って欲しいんよ。それだけは今日言おうと思ってた。俺はじいちゃんに向けて歌うけど、みんな大事な人を思い浮かべて聴いて欲しいなって思います」。歌に入る前に彼が語った言葉はそれを物語っていた。そして実際、横浜アリーナで鳴り響いた「1106」は、KENTAの思いとそこにいる全員の思いが共鳴・増幅して、どこまでも広がっていくような感覚になる曲だった。
ライブも後半に差し掛かり、KO-SHINがブルージーで繊細なギターのソロ演奏を披露すると、そこから『Cheddar Flavor』の「Faker」へ。鍛え上げられた3ピースのアンサンブル、早口で言葉を重ねていくボーカルとコーラス、構成している要素は力強いのにどうしようもなく繊細で切ない、WANIMAの真骨頂である。最後のロングトーンが空気を振るわせると、かき鳴らされるギターに合わせてKENTAが再び口を開く。「この音は、このライブは、このライブは、俺らにとって欠かせないものやから、ないとダメやから。目の前におるおまえたち、俺にとって必要なものやから、ないとダメやから。となりに、となりに、となりにおってくれよ!」。となりに、となりに、と連呼されるなか始まった「となりに」。腕を掲げる人、両手を広げる人、体をに動かす人、ただじっとステージを見つめる人、それぞれのやり方でKENTAからのメッセージを受け取ろうとする人々の姿が客席にはあった。FUJIがドラムをかき回し、KO-SHINがガシガシと弦をかき鳴らすフィニッシュまで、息を呑むような圧巻のパフォーマンスだ。
ここから、堰を切ったようにKENTAの思いが溢れ出していく。「横アリ! なあなあ、明日って晴れるかなあ? おい横浜、明日晴れるかな、晴れるといいなあ! この心のモヤモヤが取れるといいよね。早くコロナなんか明けるといいな。この心のモヤモヤが晴れますように!」。そんな言葉から始まった「エル」では3人の声が本当だったら起きているはずの客席での大合唱をカバー。「1106」と同じく、この「エル」も今鳴らされることで新たな意味をもち、さらに強くなった楽曲のひとつだろう。FUJIによる「横浜!」コールも飛び出し、KO-SHINがソロを弾く横にはKENTAが寄り添う。続く「つづくもの」ではマイクを手にしたKENTAがステージの端、お客さんのすぐ近くまで走り寄る。《生きている限り ソレはつづくもの》という歌詞、そして「ライブってやっぱサイコーやな!」と言ってWANIMAコールを繰り出す彼の姿には、こんな時代でも、いやこんな時代だからこそ再確認した、音楽を作り鳴らす意志がメラメラと燃える。そんな思いにオーディエンスとの信頼関係も加わって凄まじい熱狂を生み出したのが次の「オドルヨル」だった。いうまでもなくWANIMA屈指のライブ定番曲。だがそんな「予定調和」をはるかに超えた空間が横浜アリーナには生まれていた。ステージ後方では巨大なミラーボールがぐるぐる回り、色とりどりのライトがステージも客席も眩く照らし出し、FUJIの叩き出すビートとKO-SHINのヘヴィなリフがアリーナ一面のジャンプを誘う。KENTAの「飛び跳ねろ!」の声に応えて、横浜アリーナが揺れる揺れる! 「オドルヨルに、なりました!」。声も絶え絶えにそう宣言するKENTAの顔には満面の笑みだ。
「みんな見えとるよ!」。ステージ中央にあぐらをかいて座ったKENTAが改めて客席に声をかける。「24本、全国いろんなところを周ってきました」。地域ごとに異なるコロナの状況、街の空気感を感じながら、そんな中でもWANIMAとみんなで作り上げ、成功させることをテーマに掲げて敢行してきたツアー。「WANIMA史上、今までで一番気合が入ったツアーでした。今の俺らが信じる音楽、今のWANIMAを観てほしくてさ。こんな時代でも、俺らおるよ、変わらずに音出しよるよって。だから今かなりホッとしてるのと、今日来てくれてありがとうという気持ちでいっぱいです」という正直な気持ちに大きな拍手が送られる。