新しい編成で挑んだ『Kitri Live Tour 2021 AW キトリの音楽会 # 4 “羊飼いの娘たち”』 12月18日(土)東京公演@恵比寿ザ・ガーデンホール

 20分の休憩を挟んで、第二部はMonaとHinaのピアノ連弾で奏でる「一新」「青い春」からスタート。この2曲はリリースされた時期こそ違えど、後悔や別れを抱えながらも、それをいつか喜びある人生に繋げていくということが、開けたメロディに乗って歌われる。ピアノに特化したシンプルな伴奏によってMonaの詩情をたっぷり味わうことができ、「Kitriがなぜ歌うのか」が端的に伝わってくるパートとなった。

 再び羊毛と吉良を呼び込むと雰囲気が一転、Hinaがステージ中央でパーカッションを担い、どこかトライバルな印象も感じさせる「矛盾律」が始まった。幽玄なチェロ、独特なスパイスを加えるギター、流麗なピアノ、大胆なビートが絡み合っていく様は圧巻だ。だが、矛盾を抱えた人間の本質、あるいは異なる価値観が混ざり合うことで新たな芸術が生まれてきたことを歌う同曲を聴けば、Monaの歌詞には一貫性があることもよくわかるだろう。

 そのまま最新曲「ヒカレイノチ」へ。このパフォーマンスが素晴らしかった。前述した通り、Kitriが真っ向からポップスに挑んだ曲だが、ホールの空間で聴いていると、Kitriは正真正銘、普遍的なメッセージを歌えるアーティストに成長したのだということを実感した。誰にもわかってもらえない心の痛みや、大きな夢を抱けない臆病さ。そんな素直な気持ちを一切否定することなく、日々のほんの少しの喜びを糧に生きていければ、それで十分だし、むしろそれが一番大切なこと。何気ない感情の機微を、今のKitriは肯定することができるし、そこから目を逸らさず音楽にしてきた2人だからこそ、広い会場で鳴らしても説得力が漲る。冒頭で「ポップスとしての完成度も体得してきている」と書いたが、それは技術的な面だけでなく、音楽をやる上でのアティテュードそのものが一段とたくましくなったということだ。吉良が1番ではクラリネット、2番ではチェロを奏で、飽きさせないアレンジになっていたところにも聴き応えがあったし、羊毛のギターが楽曲に勢いを与えながらMonaとHinaをバックアップする姿も美しかった。

 そして、ライブで定番になりつつあるカバー曲のコーナーでは、「メロディとストーリー性のある歌詞に惹かれた」という、B’z「いつかのメリークリスマス」を披露。意外な選曲に驚かされるが、エネルギッシュに歌い上げている原曲に対し、Monaらしい繊細なボーカルアプローチで切なさを演出していく。本編ラストを飾った「Lento」では、音源と違ってピアノを一切弾かず、演奏の大半をギターに委ねて、終盤をチェロが彩るという斬新な構成に。MonaとHinaが歌に専念できるのも、4人編成ならではの演出だろう。〈あなたがいて わたしがいる/なんて当たり前なことだろう〉という歌詞は、“当たり前の尊さ”を歌ってきたKitriの優しさが顕著に表れたライン。だが、1stアルバム『Kitrist』の直後、コロナ禍を経て「当たり前なんてない」ことを痛感したからこそ、リリース時とは違う心持ちで歌っている曲なのかもしれない。そんな状況でも着実にリリースを重ね、ツアーが延期しながらも、音楽を届けることを諦めなかったKitri。〈かけがえのない日/優しい日々も/凍えた日々も/覚えている〉という「忘れないことの大切さ」を歌うラインも、一層の切実さをもって響いてきた。

 最後にアンコールで披露されたのは、Kitriの始まりを象徴する1曲「羅針鳥」。音源でピアノが担っていたメロディをチェロが奏でることで、曲全体も自然とゆったりしたテンポに。この曲は、『Kitrist II』の中でリアレンジバージョンの「羅針鳥(S.A. Rework)」として生まれ変わっていたが、代表曲をその時々の心持ちに合わせて柔軟に変化させるのは、きっと容易いことではないはず。だが、この日のライブを観てもわかる通り、変わらない軸を持って、どこまでも変化していくのがKitriの面白さ。クラシックをポップスと掛け合わせ、姉妹の連弾で無二のオリジナリティに昇華していくーーそんな刺激が一番に詰まっている曲が、「羅針鳥」なのかもしれない。

 MCによれば、Kitriはいま映画の劇伴に取り組んでいるという。2021年は確実に音楽の幅が広がった1年だったが、来年もその進化は止まらないようだ。温かなライブの余韻に浸りつつ、今後の続報も楽しみに待ちたい。

文:信太卓実(Real Sound)
写真::Masatsugu ide

1

2