coldrain、10月16日/横浜アリーナワンマン公演「15th ANNIVERSARY “15 × ( 5 + U )” LIVE AT YOKOHAMA ARENA」

10月16日、coldrainがバンド結成15周年を記念して「15th ANNIVERSARY “15 × ( 5 + U )” LIVE AT YOKOHAMA ARENA」を横浜アリーナにて開催。このライヴは元々2020年の秋に開催される予定だったもので、2020年2月にcoldrainが主催した「BLARE FEST.」で告知された後、新型コロナウィルス感染拡大の影響で延期を繰り返してきた。本公演は2年越しの念願であり、それがバンド結成15周年に重なったこともまた、この1日に懸ける想いの大きさに関わっていただろう。アンコールを含め全29曲、2時間40分。膨大なセットリストでもってバンドのすべてを伝え切ろうとする姿勢がひたすらストイックなパフォーマンスになり、そのストイックさが山盛りの舞台演出をはみ出していく人間臭さになり、その人間臭さこそがcoldrainの音楽なのだと伝えるような、会場規模にかかわらないソリッドなアクトが展開された。未だ感染症対策のガイドラインが存在し、フロアで歓声を上げることは禁止されている。しかし規制が徐々に緩和されてきたことによるフルキャパシティ動員、アリーナ全スタンディングでもって行われた本公演は、coldrainにとっての総決算と新たなスタートラインを同時に刻むようなライヴだった。coldrainを含む数多くのバンド、アーティスト、そしてリスナーは「ルール」を守ってきたのではなく、ルールを受け入れてまでこの場所とこの音楽を守り続けてきたのだ。その長い道のりがようやく実を結び、「自分達の場所である」という実感をより一層強くして、新しい自由が謳歌されている。それもまた感動的だったし、1曲1曲で自分の思うように動き、跳び、頭を振り続けるオーディエンスの姿にcoldrain自身が鼓舞されたことだろう。ステージとピットの信頼関係が目に見えて強くなり、それがライヴ自体の熱になって曲ごとに膨らみ続けていったのが素晴らしかった。

 「バンドとリスナーの信頼関係」がくっきり見えるライヴになっていたことに関して言えば、やはり『Nonnegative』というアルバムの存在が大きいだろう。『Nonnegative』とは、意訳すれば「マイナスではない」という意味だ。2020年のBLARE FEST.以降、感染症対策の規制の中でライヴをすることはバンドにとっての正論ではないと語ることもあったcoldrain。それでも、ロックバンドの音が鳴る場所、coldrainの音楽に胸を焦がすリスナー、何より自分達の音楽と共に歩んでいくために徐々にコロナ禍でのライヴ活動をスタートし、自由のきかない中でも音楽を守り、リスナーと共に信頼を強くしていく姿勢こそが今の闘い方なのだと気づいていった道のりがそのまま『Nonnegative』には映っている。失ったものは数多い。当初なら2020年に予定していたこの横浜アリーナ公演もそうだろう。それでも、そのマイナスを埋めるだけの新たな財産もあった。それはつまりcoldrainの音楽を支え続けてくれた人との信頼関係であり、信頼を基盤にしたからこそ、coldrainがcoldrainの王道を衒いなく発揮できたアルバムが『Nonnegative』だったのである。ドラムンベースのビートを導入した“PARADISE(Kill The Silence)”や“Cut Me”のような新機軸もありつつ、coldrainの根幹にある「誰よりもヘヴィで誰よりもポップな音楽を」という信条がより前に出た楽曲が増加。coldrainの中にあるポップスの細胞がかつてなく前に出たメロディ面に顕著だが、ヘヴィネスとポップネスの塩梅を探るのではなく、よりリスナーに近いメロディ、よりリスナーが躍動できるビートに接近した結果、coldrainの王道を塗り替える新たな王道が突き抜けたアルバム、それが『Nonnegative』だったのだ。そんな精神性と音楽性を宿した本作のリリースツアーを経ての横浜アリーナは、リスナーとの信頼関係をそのまま鳴らし、それこそが15年で得た強さなのだと示す場所でもあったのだろう。歌と音と人がとにかく近く、29曲を通して持続するライヴの爆発力はその「近さ」から生まれていた。未だ体をぶつけることはできないし歓声も上げられないが、それでもすべての人が音楽にすべてを委ねていたし、その様こそを自由と呼びたいと思った。

「2年前にここに立っていたら、全然違うライヴになっていたと思う。2020年にいろんなことが起きて、そこで大きなマイナスを感じていました。でも少しずつ動き出す中で感じられたプラスがあって。そこで俺らが目指したのはさらなるプラスじゃなくて、プラスを重ねることで一旦±0に戻そうっていうことで。何より、そうして進んで行きたいっていう想いをみんなから受け取りました。当初は、アリーナにイス席がある中で横浜アリーナに立ちたくないとか、マスクが外せない中でステージに立ちたくないとか、そんな状態でアルバムツアーを回りたくないって思っていて、いろんなプライドみたいなものを持って2020年を過ごしてました。それでもライヴを止めたくない、世界が音を止めてる間にも日本は音を止めないように動きましょうよっていろんな人が動いてくれて、そこにみんなが来てくれて。そうしてマイナスをゼロに戻していく力をもらったことで、『Nonnegative』というアルバムを作ることができました。それが新たに立つゼロ地点であり、ここに至るまでに必要な行程だったんだと思う。今日が、今年が、新しいゼロになる。来年からはまたプラスに向かっていけるようにしたいし、コロナ禍以降に何か大事なことを教えてもらったとすれば、曲を聴いてもらえる立場にいることの幸せでした。だから、このアルバムを作る力をくれたことに感謝しなくちゃいけない。本当にありがとうございます」(Masato)

 たとえば、開演時に巨大なスクリーンに映し出されたオープニングムービー。横浜のベイエリアを回遊する客船に乗った5人が港に乗りつけて横浜アリーナへと歩みを進めていく映像だったのだが、客船内のジャグジーから上がってきたパンツ一丁のSugiがこの映像のオチになる辺りも、より一層5人のキャラクターを前に出し、さらに人間臭いバンドへと変貌してきたこの数年を表していたと思う。人が鳴らしている、人に鳴らしている、人と鳴らしている。言葉にすればたったそれだけだが、その気持ちが溢れ出ていることこそが、このライヴの肝だった。オープニングナンバーを飾った“Help Me Help You”から本編ラストの“From Today”に至るまでのほぼ全曲で、ステージ全体を囲い込むような巨大LED画面には、壮大な映像とともに各楽曲の歌詞が映し出されていた。観客は声を出すことが叶わなかったが、この映像演出の数々は、それでも共に歌いたいという意志の表れだろう。“Help Me Help You”や“Here With You”を筆頭に、我々はいついかなる時もあなたと共に歩むのだ、あなたが俯く時にこの音楽が力になるのだと遮二無二叫ぶメッセージソングをどうか受け取って欲しいという願いであり、緻密に構築された楽曲の型をはみ出していく人間臭いライヴパフォーマンスの数々は、その切実さから生まれていたのだと思う。

29曲に亘る膨大なセットリストも、どうか一人ひとりのフェイヴァリットソングがこの中に在って欲しいという気持ちからだろう。15周年だから極端なのではなく、端正さの果ての極端さと振り切り方なのである。あまりに曲数が膨れ上がったためだろう、最近はライヴで演奏されていない『THE ENEMY INSIDE』の冒頭4曲を5分のメドレーに凝縮し、そのままスクリーンに白いネクタイが映し出されると、盟友・MAH(SiM)が登場。作品内でもMAHがゲストヴォーカルを務めていた“The Maze”を披露。やるならすべてやり切る。ただし、野暮な説明はナシで、全速力で駆け抜けるだけーーこの15年に捧げる優しき振り切り方というか、丁寧さの果てのエクストリーム感というか。何よりそこにcoldrainらしさを感じた。

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