KISS来日公演ライヴ・レポート到着。セットリストがプレイリストに

実際のところ、同じツアーの一環での来日公演であるだけに、前回のジャパン・ツアーの際と比べて特に大きな演奏内容の違いがあったわけではない。ステージの左右にメンバー4人の姿を模した巨大なスタチューが仁王立ちしていることなども含め、ステージの仕様自体にいくぶんの差異があったことは確かだ。が、演奏曲目の点でいえば、2019年12月11日に行なわれた前回の東京ドーム公演時のセットリストと見比べてみても、前回披露されていた「Let Me Go, Rock’n’Roll」が外れ、『ROCK AND ROLL OVER』からの「Makin’ Love」が組み込まれていたことくらいしか大きな違いはない。ただ、その「Makin’ Love」は、ポール自身も「久しくやっていなかった曲」と紹介していた通り、今回のツアー全体を通じて初めてのセレクトとなったようだ。他にもジーン・シモンズの火吹きパフォーマンスが「War Machine」ではなく「I Love It Loud」の演奏後に組まれていたこと、「Psycho Circus」からドラム・ソロへと展開し、そのまま「100,000 Years」に続いていくという新鮮な流れがあったことなど、いくつか新鮮な材料も見受けられた。

そうしたマイナー・チェンジの部分も含めて感じさせられたのは、前回の来日時以上にライヴ・パフォーマンス自体が研ぎ澄まされているという事実だった。言い換えれば、この期に及んでいまだに進化の形跡がみられるということである。2024年2月には1stアルバムの発売から満50年を迎えるという超ベテランに対して、いまさら進化などという言葉を使うのは不適切かもしれないが、深みを増したというのとも違えば、新たな解釈が加わったというのとも違う。先頃のインタビューでは、ポールもジーンもバンドが過去最高と言いたくなるほど良好なコンディションにあることを異口同音に強調していたが、この研ぎ澄まされた状態こそがそれを指していたのだろう。近年の来日公演でたびたび指摘されていたポールの声量や高音域の伸びの不足についても、今回はまったく感じられなかったし、トミー・セイヤー、エリック・シンガーの存在感もより色濃くなっていた。

そんな現状を考えると、KISSならではの、KISSにしかできないロック・ショウをまだまだ続けていって欲しいという気持ちになってくるところではある。だが、それでも確実に終わりは近付きつつある。象徴的なシーンが、ショウの終盤にあった。それはアンコールの1曲目でエリック・シンガーによるピアノの弾き語りで「Beth」が披露し終えた直後の柔らかな余韻の中でのことだった。ポールの「僕らがみんなのことをどれほど愛しているかを伝えたい」という言葉に導かれるように4人が横一列に並び、彼の「We bow to you」という言葉を合図に全員で深々と頭を下げてみせたのだ。この言葉を直訳すれば「私たちは皆さんにお辞儀をします」ということになるが、文脈の流れによっては「降参します」とも解釈できる。そのシーンに似つかわしい字幕を付けるとすれば「ここで僕らは感謝と敬意を示したいと思う」がいちばん適切だったのではないだろうか。

今回のステージ上、ポールは3年前のように「サヨナラ」を口にはしなかった。最後の最後、ステージを去る間際に口にしたのも「We love you! Good night!!」という言葉だった。ただ、いつもの決まり文句であるはずなのに、その言葉にこれまで以上の重み、意味深長さを感じたさせられたことは間違いない。

奇跡のアンコール公演とも呼ばれたこの日本での大千秋楽は、まさに終幕の先に組まれた特別なパーティーだったのだと今現在の僕は解釈している。そして、「本当にこれが最後なの?」という疑念を抱きながら観ていた人すらも笑顔にしてしまうのがKISS。会場には昔からこのバンドを追い駆けてきたものを思しき世代のファンのみならず、若い世代や子供連れの姿もたくさん見受けられた。KISSでロックに目覚めた人たちというのは、実は特定の世代のみに属しているわけではない。このバンドが日本に根付かせたものの素晴らしさ、偉大さについて改めて実感させられ、こちらからもKISSに対して感謝と敬意を伝えたくなる一夜だった。

文:増田勇一


セットリスト

1. デトロイト・ロック・シティ Detroit Rock City
2. 狂気の叫び Shout It Out Loud
3. ジュース Deuce
4. ウォー・マシーンWar Machine
5. ヘヴンズ・オン・ファイアー Heaven’s on Fire
6. アイ・ラヴ・イット・ラウド I Love It Loud *Gene Fire
  ジーンの火吹き
7. SAY YEAH
8. コールド・ジン Cold Gin *Tommy Rockets 
  トミーのギターからロケット弾を発射
9. リック・イット・アップ Lick It Up
10. 悪魔のドクター・ラヴ Calling Dr. Love
11. 果てしなきロック・ファイヤー Making Love
12. サイコ・サーカス / 10万年の彼方  Psycho Circus / 100,000 Years
13. 雷神 God of Thunder *Gene Flies / Blood
   ジーンの空中舞、血吹き
14. ラヴ・ガン Love Gun *Paul flys
   ポールの空中移動
15. ラヴィン・ユー・ベイビー I Was Made for Lovin’ You
16. ブラック・ダイヤモンド Black Diamond
アンコール Encore:
17. ベス Beth
18. ドゥ・ユー・ラヴ・ミー Do You Love Me
19. ロックン・ロール・オール・ナイト Rock and Roll All Nite

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