ハルカミライ

ハルカミライ 2/1(水)東京・日本武道館で初の単独公演 「ヨーロー劇場 – futures -」 オフィシャルライブレポ公開

「俺は中指を立てることじゃなく、抱きしめることがパンクだと思ってます」――かつて、2019年1月にドロップしたファーストアルバム『永遠の花』のインタビューの時、橋本学がそう話してくれたことがあった。昔は尖ることもカッコよさだと思ってやってきたけれど、そうじゃない、どんな時もデカく優しく「OK、お前いいじゃん!」と言って相手を抱きしめられる人であることこそがカッコいいし、自分もそうなりたい。その理想に近づくためにはどうしたらいいのかを考えるようになった、と。2023年2月1日に開催されたハルカミライの武道館ライブは、まさにそんなライブだった。とても自由で、とても晴れやかで、そして何よりとてもあたたかなエネルギーと巨大な包容力に溢れた武道館ライブだった。

 昨年バンド結成10周年を迎えたハルカミライの、ここまでの集大成でもあり、そして新たな船出でもあった初の日本武道館単独公演『ヨーロー劇場 – futures -』。彼らは既に過去に2度、2019年に8,888人、2021年に幕張メッセで9,999人キャパでの単独公演を行なっているし、日本武道館のステージにも同じく過去に2度、盟友達との対バンライヴで立っている。そういう意味ではことさらに「遂にここまで……!」というわけでもないのだけど、それでもやはりこの場所でのハルカミライ初の単独公演を勝手に感慨深く感じてしまうのは、日本武道館という会場の歴史ゆえなのか、それとも10周年を越えた先の第一歩目としてこの場所がセットされたがゆえなのか。あるいは、コロナ禍において誰よりも早くツアーを再開し、それまでの自分達が武器としてきたスタイルとは異なるステージングで新たなハルカミライのライブを作り上げながら、全国のライブハウスを精力的に回り続けてきた先に、フルキャパ満員御礼での日本武道館単独公演を迎えたがゆえなのか。きっと、そのどれもあるだろうなと思う。

ハルカミライ

 ライブは“君にしか”〜“カントリーロード”という、これぞハルカミライのライブ・オープニングと言うべき選曲で幕を開けた。のっけからトップスピードで勢いよく転がっていくバンドサウンドと橋本の歌に、会場を埋め尽くした一人ひとりの<君にしか歌えない>声が大きく大きく重なっていく。橋本が飛び跳ね、須藤が堂々とステージを歩きながらベースを奏で、関がセンターに飛び出してエビ反りでギターソロを弾き倒す。まさに“カントリーロード”の歌詞通り、<歓びの歌>が武道館いっぱいにこだまする。暗闇の世の中を潜り抜けてここに集ったオーディエンスが、バンドが放つ音に誘爆されるようにして心の底に溜まったものを解放していく、その連鎖がこの大空間に大きな、そして幸福なエネルギーの対流を生んでいく様に早くも圧倒されそうになる。疾駆する小松のビートに乗って“ファイト!!”、“俺達が呼んでいる”、“フルアイビール”と畳み掛けた後、“革命前夜”では激情的な展開の中でふと訪れる静謐な音像に、<It always seems impossible until it’s done.>と歌う美しい歌声が溶けた。その一瞬一瞬が、既に眩いくらいに輝いている。
 「俺、めっちゃ興奮してるわ」と笑う橋本に、その言葉に同意するように万雷の拍手が湧き上がる。「デッカい日の丸の下で、今お兄ちゃんが一人たぶんトイレに行ったけど、このまま続けます!」と叫んだ橋本に対し、須藤が「いや、いいよいいよ、じゃあ帰ってくるまで――」と言い出し、「え、帰ってくるまで待つ? そういう作戦、ある?」と返した橋本の言葉に対して間髪入れることなく「“フュージョン”!」と告げる。そうして始まった“フュージョン”、それから“エース”、“QUATTRO YOUTH”と、それぞれ須藤が曲名を告げると同時にバンドの演奏がスタートし、次々に曲が放たれていった。――筆者はこのレポートを書くにあたって直前にこっそりセットリストをもらっていたのだけど、この3曲はセットリストには載っていなかった曲達だ。ハプニングのように見せて実は、ではなく、本当にハプニングなのだ。彼らはいつの頃からか、ワンマンだろうがフェスだろうが、その日の流れや観客の雰囲気を見ながらセットリストをその場でバンバン変更してライブを展開していくようになったのだけど、武道館という大舞台でもそれは変わらない。須藤に至っては、そのハプニングを差し込む隙を虎視眈々と狙っているようにも思える。そうやってその場の反射神経で呼吸を合わせて楽曲を奏でることができるのは、彼らが生粋のライブバンドとして日々を生きているからであり、4人の間に盤石の信頼関係が存在しているからに他ならない。“QUATTRO YOUTH”終わりで橋本が「今日何曲やるか、俺らもわかんねーわ」と言ったが、それはパフォーマンスではなく、マジな話。実際、予定では全29曲予定だったライブは、終わってみれば37曲に膨れ上がっていた。

ハルカミライ

 <ここが世界の真ん中>というコールから始まった、いつだってハルカミライのライブにおいて名場面を描き出す“春のテーマ”の大合唱が胸を打つ。「この一瞬は、永遠だぜ」と語りかける橋本の言葉を聞きながら、何故この一瞬が永遠になるのか、それは、たとえ一瞬であっても心身に深く刻まれた体験は、どれだけ時間が経とうが生きていく中でふとした時に鮮やかに蘇り、その人の人生を支え彩り続けるものになるからなのだ、ということを思う。ハルカミライの歌は、そんな存在になり得るものがとても多い。時に涙を零しながら彼らと共に歌うオーディエンスを観ていると、改めてそのことを強く実感する。

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