音楽への情熱と音楽で結ばれた寺沢勘太郎一家[寺岡呼人/岩沢厚治(ゆず)/内田勘太郎(憂歌団)] の巡業の旅、 盛大な拍手と歓声で幕

寺岡呼人、岩沢厚治(ゆず)、内田勘太郎(憂歌団)という3人の名前の一部を取って名乗っている寺沢勘太郎一家の『“寺沢勘太郎一家”巡業の旅 リターンズ』ファイナル公演が、2024年1月31日、横浜・KT Zepp Yokohama で行われた。“リターンズ”という言葉が付いているように、2015年に行われた『”寺沢勘太郎一家” 巡業の旅』公演から9年ぶりに、“一家”が帰ってきたのだ。1月23日の大阪・Zepp Osaka Bayside、1月24日の名古屋・Zepp Nagoya、そしてこの横浜という3公演の開催。音楽の絆で結ばれた3人のステージは夢のような瞬間の連続だった。

ステージ背後には歌舞伎や落語でお馴染みの黒・柿・萌黄という三色の定式幕が掛かっていた。高倉健の「唐獅子牡丹」が流れて、3人がはっぴ姿で登場。寺岡は“寺沢勘太郎一家”という文字の入った提灯を手にしている。内田が「男はつらいよ」のメロディをスライドギターで奏でると、岩沢が「我々生まれも育ちもそれぞれ違いやす。姓は寺沢、名は勘太郎。人呼んで寺沢勘太郎一家と発っしやす」と挨拶。そして寺岡が“寅さん”風に味わい深い歌声を披露し、ファイナル公演が始まった。さらに、「9年ぶりに帰ってきた固い契りの義兄弟、向後万端(きょうこうばんたん)ひきたって、よろしくお頼み申します」と岩沢が仁義を切っている。なんと義理堅い始まり方だろう。

寺沢勘太郎一家カラーが全面に出た演出が楽しい。寺岡、岩沢、内田でのセッションで、9年前の『巡業の旅』のために内田が作り、当時、1曲目で披露された「昔父ちゃんは」が演奏された。途中で父親をテーマとした3人のトークが入る構成の曲だ。寺岡も岩沢も、内田とのエピソードをリスペクト混じりに語っていた。寺沢勘太郎一家では内田が“親”、寺岡と岩沢が“子”、そして岩沢は“末っ子”という位置付けのようだ。

3人のセッションに続いては、寺岡のコーナー。寺岡がベースを弾きながら歌うバンド編成のステージだ。バンドのメンバーは、Dr.Kyon(Key)、sugerbeans(Dr)、芳賀義彦(G)という手練れの助っ人三人衆。客席とのコール&レスポンスが楽しい「ウムウム」、ダイナミックなバンドサウンドが炸裂する「パドック」など、寺岡とメンバーとの一体感あふれる演奏によって、会場内に熱気が充満していく。“再会”をテーマとした「馴染みの店」は、“リターンズ”の趣旨と重なるところもあり、寺岡のエモーショナルな歌声と、芳賀のペダルスティールなど、ノスタルジックなテイストのにじむ演奏が深い余韻をもたらした。

続いては義兄弟コーナー。岩沢の歌とアコギとハープ、寺岡の歌とベースでの演奏となり、「ベース寺岡呼人!」と岩沢がうれしそうに何度も紹介しているのが微笑ましかった。「方程式2」「ぼんやり光の城」といったゆずの曲を“義兄弟”で演奏することで、新鮮な魅力も見えてきた。岩沢からのリクエストで、寺岡の「日々平安」も演奏された。ゆずの「灰皿の上から」はバンドも加わっての演奏。どこまでも伸びてゆく岩沢の歌声と広がりのあるバンドの演奏が気持ち良かった。

岩沢のソロコーナーでは「3番線」と「春風」が披露された。「3番線」は、客席のハンドクラップと足踏みのリズムに合わせての歌となり、観客とのセッションが実現。ゆずの「春風」での岩沢はハモリを担当していたが、ここでは主旋律を歌うことで、曲の印象がかなり変わった。岩沢の声の持っている真っ直ぐな強さと内省的な深みとが、「春風」に新風をもたらしていると感じた。

末っ子のステージに続いては、父ちゃんこと内田のステージだ。スライドギターによる繊細な調べでの「ムーンリバー」からソロ曲「美らフクギの林から」への流れに、うっとりしてしまった。フクギの林に月の光が降り注ぐ光景が見えてくるようだった。さらに、加川良のカバー曲である「教訓Ⅰ」、ソロ曲「グッバイ クロスロード」と、ブルースフィーリングあふれる歌とギターを披露。音楽とは時代を超えて響いてくるものであることを実感する演奏だ。

後半は一家の3人とバンドが勢揃いして、ゆずの「ヒーロー見参」と「始発電車」が演奏された。岩沢の力強い歌声に、寄り添うように寺岡が歌っている。岩沢のハープ、内田の超然ギター、Dr.Kyonのカズーなども加わっての自在な演奏が楽しい。「かんちゃん、いってみよう!」「こうちゃん!」など、息の合った掛け合いもからは一家の仲の良さも伝わってきた。憂歌団の「嫌んなった」では、寺岡と岩沢がブルースフィーリングあふれる歌を披露。本編ラストは1975年にリリースされた憂歌団のデビューシングル「おそうじオバチャン」。内田の歌声に岩沢がハモっている。寺岡が会場内を沸かせるセリフを発している。3人それぞれの個性的な魅力を堪能するとともに、それぞれの個性の融合のおもしろさも満喫した。

アンコールでは、寺岡の「酔いどれ天使」、ゆずの「月曜日の週末」、憂歌団の「スティーリン」が演奏された。「最終日行くぜ! ぞくぞくするぜ」と岩沢がシャウトする場面もあった。「スティーリン」の最後では、内田と岩沢がお互いを指で示して、エンディングの合図をするように促していた。最後は岩沢のギターでフィニッシュ。盛大な拍手と歓声が行った。

「今日で終わるのはさびしいので、リターンズのリターンズがあれば、また会いに来てください」という寺岡の言葉に、「ぜひ!」と岩沢。楽しそうに客席に手を振る内田。一家全員が楽しそうに歌い、演奏する姿が印象的だった。世代を越えたコラボレーションは、ブルース、フォーク、ロックなどのジャンルを越えたコラボレーションでもあった。音楽への情熱と音楽で結ばれた友情のかけがえのなさを感じた夜だった。一家の絆はきわめて固い。何年後になるかはわからないが、おそらく巡業の旅はまだまだ続くだろう。何度でもリターンしてほしい企画だ。

取材・文 長谷川 誠
撮影 樋口隆宏

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