ジャック・ジョンソン来日公演、東京公演のライブ・レポート

以降は、家族との何気ない日常の風景を描いた「Banana Pancakes」、我々を良い世界へと導く素晴らしい人間の不在を嘆いた「Good People」など、2005年発表のアルバム『In Between Derams』の収録曲を次々と披露。発売から20年近く経過しても変わらない、ジャック音楽の輝きを感じられたと同時に、当時抱えていた問題は現代になってより深刻なものに変化しているのかもしれないという思い(懸念)を巡らせながら、本編は終了したのだった。

アンコールでは、ジャックがアコースティック・ギターを抱えてひとりステージに登壇。観客からのリクエストに応えるかたちで、映画『A Brokedown Melody』のサントラとして2006年に発表した「Home」などをパフォーマンス。この楽曲は、ジャックにとって久々の演奏だったのか、途中でフレーズが飛んでしまう場面も。すると、会場から自然に手拍子が響き、ジャム・セッションのような雰囲気に。この観客の温かで柔軟な対応によって、ジャックの記憶が戻ったようで、その後はエンディングまで無事にたどり着いたが、そういうハプニングがライヴをさらにスペシャルなものに変える演出のように思えた瞬間だった。

ラストには「今から30年前にボクはある女性に一目惚れをしたんだ。今でも関係は続いていて、これは当時のことを綴った楽曲」と、2005年発表曲「Do You Remember」を披露。途中では歌詞を変更し、妻のキムに向けてこれまでの感謝の気持ちを表現していたジャック。さらに「交際して5年後にクリスマス・プレゼントの代わりに贈った」という2008年発表の「Angel」、2005年の発表曲で今や<究極のラヴソング>として幅広いリスナーに親しまれている「Better Together」をメドレーで披露。途中からは、バンド・メンバーも演奏に参加し、穏やかな愛に包まれたアンサンブルで、2時間にわたるステージは終了したのであった。

ジャックのこれまでのキャリアを総括するような、ベスト・ヒットな構成でありながらも、時代とともに進化・変化している様子を感じられた、13年ぶりの来日公演。ちょっとしたハプニングもあるなかで感じたのは「今という瞬間はもう2度とやってこないのだから、それを思う存分に楽しむ」ジャックの姿勢だった。きっと、会場に足を運んだ観客の多くは、ジャックとの貴重な時間のなかで同じ気分を共有して穏やかな気持ちで、それぞれの<ホーム>へと足を運んでいったのだと思う。

4月にオーストラリアのバイロン・ベイで開催されるフェスティバルのヘッドライナーをもって、最新アルバムにおけるツアーが終了。その後は家族との時間を大切にしながら、ゆっくりと新曲の制作に取り掛かるというジャック。次に彼の柔らかな笑顔や声に触れられる機会は、ちょっと先になってしまいそうだが、彼が発信する愛に溢れたメッセージ・楽曲の数々は、これからも人生のさまざまなシーンで指針となってくれそうだ。また会える瞬間まで、(ジャックの得意な日本語である)「キヲツケテ」日々をエンジョイしたい。

Photo by Kizzy O’Neal
文:松永 尚久

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