ロッド・スチュワートの約15年ぶりとなる来日公演「One Last Time」のライヴ・レポート

ロッド・スチュワートの約15年ぶりとなる来日公演が2024年3月20日、東京の有明アリーナにて開催された。この3日前にはシンガポール公演、5月にはヨーロッパツアーも予定されており、今年もサー・ロッドは絶好調!と思いきや、このアジア&ヨーロッパのツアー・タイトルは【One Last Time】(最後にもう一度)と銘打たれており、これが最後の来日公演になるのでは、といわれている。毎年恒例となっていたラスヴェガスでのレジデンシー公演【The Hits】も、14年目となる今夏でファイナルを迎えることが発表されており、さすがのスーパースターもキャリアを折り畳む時期が来たのか、と寂しい思い。数年前には大病も経験しているし、果たして本当に元気な姿を見られるのだろうか。奇しくも東京公演当日は、開演が近づくにつれ空が荒れ模様に。水も滴るいい男?それとも最後の来日を悲しむ涙雨か。

約15年ぶりの来日公演とあって、有明アリーナは開演前から熱気に包まれる。メインアリーナに大きなステージが組まれ、後方の巨大スクリーンには3月にリリースしたばかりのニュー・アルバム『スウィング・フィーヴァー』(ジュールズ・ホランドとの共作)のジャケットが、その両サイドにはロッドがブレンドしたウイスキー『ウルフィーズ』の瓶がデカデカと映し出され、スティーヴィー・ワンダーやダイアー・ストレイツといったアップテンポなBGMに会場のテンションも自然と高まっていく。

定刻を少し過ぎた頃、まずはステージにドラマーとキーボーディストが登場。ロッドの愛するスコットランドのサッカークラブ、セルティックFCのチャント(応援歌)でもあるデペッシュ・モード「Just Can’t Get Enough」にあわせて手拍子を煽り、会場が一つになったところで、突然大音量で「Scotland the Brave」がカットイン。これはロッドのルーツであるスコットランドの非公式国歌で、フィドルやバグパイプの響きに否応なしに感情が高ぶる。13人のバンドメンバーが揃ったところで、フェードインするように「Infatuation」

イントロがスタート、会場のボルテージは最高潮に。笑ってしまうくらい完璧な演出と共に、いよいよサー・ロッドが登場!開演前の心配はどこへやら、ゼブラ柄のジャケットにマレット・ヘアーをばっちりキメたハイテンションなロッドの姿に、まずは一安心。

2曲目はフェイセズ時代の名曲で、ソロ・アルバムでも取り上げている「Ooh La La」。直前のシンガポール公演ではセットリストから外れていたので嬉しい驚き。スクリーンには若き日のフェイセズのメンバー達が映し出され、思わず涙。かつてはロニー・レーンの高額な医療費をロン・ウッドとともに密かに払い続けていたというし、フェイセズとの変わらぬ絆を感じる感動のシーンだった。

思えば、オープニング・ナンバーの「Infatuation」の録音には昨年亡くなったジェフ・ベックが参加していたし、「I’d Rather Go Blind」の前には2022年に亡くなったフリートウッド・マックのクリスティン・マクヴィー(マクヴィーはチキン・シャック時代に同曲をカヴァー)を、ライヴ終盤の「It Takes Two」ではデュエット・パートナーだったティナ・ターナーをスクリーンに投影するなど、この世を去った仲間たちへの愛に満ちたセットリストだったように思う。

御年79歳ながら、ロッドのセクシーなハスキーボイスとステージ・パフォーマンスは健在。マイクスタンドを蹴り上げたかと思えば、アイズレー・ブラザーズのカヴァー「This Old Heart of Mine」ではステージ・ドリンクを飲みながらヒップ・ダンスを披露。「Forever Young」ではついにジャケットを脱ぎ捨て、会場はヒートアップ。お待ちかねの「Maggie May」では、ギタリストがイントロを失敗してロッドにツッコミを入れられるという一幕も。バンドメンバーたちとの良い関係が垣間見える貴重なシーンだった。

そう、このバンドがとにかく素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。ドラム、ベース、ギター2本、サックス、キーボード、パーカッション、ハープ兼パーカッション、コーラス隊3名、フィドル兼バンジョー、フィドル兼マンドリンの大所帯。ハープとフィドルがいることからも分かるように、ルーツであるスコットランド民謡のフレーバーを感じるサウンド。前回の来日公演では休憩時間が挟まれたというが、今回はぶっ続けの120分。「I’m So Excited」や「Lady Marmalade」など、彼らにステージを任せてロッドが袖に下がり衣装替えを行うシーンも何度か見られたが、演奏力の高さで会場のテンションを保ち続けた。ソロの度にバンドメンバーを称えるロッドの姿が印象的だった。

程よい休憩が挟まれたこともあってか、ロッドもライヴ終盤まで元気そのもの。「You’re in My Heart (The Final Acclaim)」

では「君たちにも関係の深い曲なんだよ!」と紹介があり、スクリーンにはセルティックFCのエース、古橋亨梧選手のゴールシーンが映し出される(同曲の歌詞にセルティックが登場するため)。お馴染みのサッカーボールのパフォーマンスこそなかったものの、「It Takes Two」ではドラムとキーボードが設置された台に登って熱唱、「Some Guys Have All the Luck」では華麗なサイドステップを見せ、ラストは7分を超えるロング・バージョンの「Do Ya Think I’m Sexy?」を観客全員で大合唱。

アンコールの「Sailing」では、ロッドとコーラス隊がキャプテンハットを身に着け再登場、スクリーンには大海原を行く船が投影され、ロッドがこれまで歩んできた長く深いキャリアを思わせる。これで感動の締めくくりかと思いきや、間髪入れずにチャック・ベリーの「Sweet Little Rock’n’ Roller」。アップテンポなロックンロール・ナンバーで、ロック・スターらしくラストを飾った。

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