運命と対峙し困難を乗り越えてきたバンドの、万感のロック祝祭空間。 5万人を動員した3年半ぶりの東京ドーム公演「THE YELLOW MONKEY SUPER BIG EGG 2024 “SHINE ON”」開催

“第2の充電期間”を終えたTHE YELLOW MONKEYは、2024年元日にリリースされた「ホテルニュートリノ」を皮切りに「SHINE ON」「ソナタの暗闇」と次々に新曲を発表しており、自身10作目となるアルバム『Sparkle X』もすでに完成させている。が、ここまでに至る道程は困難の連続だった。

2020年4月に開催予定だった東京ドーム2Days公演は、コロナ禍のため開催中止。同年11月に行われた東京ドーム公演も、“観客の声出しはなし”、“客間の距離を保つためキャパシティの半分以下の動員数1万9000人”という形での開催となった。さらに、今回の再始動に先立って、吉井和哉(Vocal & Guitar/以下「吉井」)が喉の病気の治療を受けていたことが発表され、当初昨年12月28日に予定されていた日本武道館での復活ライブも吉井の体調の万全を期して開催中止となった。それでも、THE YELLOW MONKEYは2024年4月の東京ドーム公演の実施を発表、さらに前進することを選んだのである。その瞬間を見届けようとドームに集まった5万人のファンが客席を埋め尽くし、ライブはいよいよ開演の時を迎えた。

巨大ビジョンの開演時刻カウントダウンが「000,000,000 SECONDS」を示し、「SHINE ON」のツアータイトルが映し出されると、広大な空間は割れんばかりの大歓声に包まれる。メンバー登場に先駆けて、ステージ両翼でセッションを始めた2人のキーボーディストは、90年代からTHE YELLOW MONKEYの活動を支えてきた三国義貴、そして2016年の再集結以降サポートを務めてきた鶴谷崇。2人の熱演と客席の熱い拍手喝采を受けて、いよいよ舞台に吉井・菊地英昭(Guitar/以下「エマ」)・廣瀬洋一(Bass/以下「ヒーセ」)・菊地英二(Drums/以下「アニー」)が姿を現わすと、この日を待ち侘びたオーディエンスから割れんばかりの大歓声が巻き起こる。

「ついにこの日がやってきました。今宵は”SHINE ON”、みなさんと俺たちが最も輝く日でありたいと思います! 2020年に声が出せなくなった時、みなさんからたくさんの声を集めて、この東京ドームで小規模でやらせてもらいました。その時の声を今夜、ここで一緒に復活させたいと思います。今日は遠慮なく、たくさん大きな声で騒ごうぜ!」

そんな吉井の言葉とともに、ドームに鳴り渡った歌声は「バラ色の日々」。ライブでのシンガロングも歓声も叶わなかった2020年11月、歌声募集企画「Sing Loud!」企画を通して届けられた国内外ファンの歌声による“合唱”である。困難な現実に抗いながらもロックとライブを貫き続けたバンドの足跡、その証とも言うべきあの時の“合唱”が、2024年の観客の熱唱とリアルタイムで共鳴し合っているのである。広大な客席は開演早々、クライマックス級の感動と高揚感で包まれていく。客席一面の歌声を「ビューティフル!」と讃えた吉井は、そのまま「バラ色の日々」をパワフルに歌い上げてみせる。病を乗り越え、オーディエンスを歓喜の頂へと導く姿は紛れもなく、稀代のロックスターの魔性と訴求力に満ちていた。

その勢いのまま、バンドは2024年の楽曲「SHINE ON」へ。ロックの王道真っ只中を闊歩するような、ヒーセ&アニーのミディアムテンポの8ビート。妖しく美しく絡み合う、吉井&エマのWギター。現在の4人ならではの、タフでワイルドな魅力に満ちたグラムロックナンバーが、すでにファンにとって最新最強のアンセムとして浸透している――ということを、客席の熱狂ぶりが如実に物語っていた。

「本当に、ここまで長かったです! 今夜はとにかく、THE YELLOW MONKEYのロックンロールを、久々にぶちかましたいと思いますんで! そんなにヒット曲はないけど、代表曲のオンパレードでいきます!」と万感の想いを伝える吉井の言葉通り、そこから「Romantic Taste」「Tactics」とキラーナンバーを立て続けに披露していく。「聖なる海とサンシャイン」のメランコリックな世界を経て、「BURN」では圧巻のクラップ&シンガロングを呼び起こし、「ROCK STAR」では客席をダンスの渦へと巻き込んでみせた。

中盤のMCでは「俺たちだけじゃなく、みなさんも大変な4年間だったと思います。そして何より、4年間のブランクがあるにもかかわらず、平均年齢58歳のバンドであるにもかかわらず……」と感謝の言葉を言いかけて、ヒーセに目をやる吉井。「ヒーセね、興奮しすぎて一睡もしてません! いないだろ、こんな61歳! 遠足じゃねえし!」という吉井の言葉に、客席がどっと沸き返る。

続く「楽園」から、ライブはさらに熱量を増していく。「SPARK」では吉井が舞台下手袖の花道を駆け下りると、足場がリフトアップされ、アリーナ/スタンド下手側の観客から大歓声が沸き起こる。熱唱を振り絞った吉井が足場に倒れ込むと、場内のクラップは割れんばかりの大音量へと高まりを見せていった。そこから一転、最新楽曲の「ソナタの暗闇」でダーク&ミステリアスな疾走感を描き出すと、続く「天道虫」でそのスリルをさらに加速させていく。再集結期のアルバム『9999』の中でも、ひときわ鋭利でダイナミックなロックの魅力に満ちていたこの曲。スクエアなビートの強度が観客を揺さぶり、高らかなクラップの輪を生み出してみせる。楽曲終盤の特効の花火が、ドーム会場ならではの非日常的な狂騒感をかき立てたところで、さらに「太陽が燃えている」へと雪崩込む。今度はエマがアリーナ中央へ移動、リフターで高く持ち上げられると、大歓声とシンガロングはさらに熱を帯びていった。

ここで場内が暗転、舞台の巨大ビジョンには4人のドキュメント映像が映し出されていく。2022年1月に吉井の病が明らかになった後の、4人の表情とそれぞれの想い。命と向き合う場面で、それでもメンバー全員が「その先」を信じる不動の覚悟。「『死にたくない』って思ってたけど、ずっと。癌になってから、不思議とその恐怖はなくて。『下手したら死んでるんだな』っていうふうに思ったら……人はみんな死ぬし、過去には戻れないし。そこは怖がる必要はないかなって」というまっすぐな吉井の言葉。そこへ鳴り響いたイントロは「人生の終わり(FOR GRANDMOTHER)」。スクリーンには演奏するメンバーの姿とともに歌詞が映し出され、《続くどこまでも続くこの生命力/僕は死神に気に入られた旅人》と切々と歌い上げる吉井の姿に、誰もが魅入られている。

ライブは早くも終盤。「SUCK OF LIFE」ではエマのギターの弦に吉井がマイクをスライドさせ、客席一面のハンドウェーブとシンガロングを受けながら、吉井は気迫のロングトーン絶唱を響かせる。「LOVE LOVE SHOW」では真っ赤なレイをまとった吉井が上手リフター、ヒーセがセンターのリフターで掲げられ、観客の祝祭感を歓喜のレッドゾーンへと誘ってみせる。そして、《人生の7割は予告編で/残りの命 数えた時に本編が始まる》……本当にそう思って、この曲を作りました。一緒に、“本編”を楽しみたいと思います」という吉井の言葉とともに本編の最後を飾った楽曲は「ホテルニュートリノ」だった。タイトなスカのビートに、哀しくも愛しい人の性を重ねたこの曲が、弱さも不安も抱えながら挑戦し続けるTHE YELLOW MONKEYの象徴のように思えた。

アンコールではアコースティックギターを抱えた吉井の「東京ブギウギ」から「アバンギャルドで行こうよ」へ突入して客席を熱く揺らしてみせる。再集結期の狼煙を上げたナンバー「ALRIGHT」は、今やすっかりTHE YELLOW MONKEYスタンダードとしての風格を備えて、オーディエンスの力強い歌声を呼び起こしている。曲中、吉井がフロアのセンター、エマが上手、ヒーセが下手のリフターに陣取ると、舞台上のアニーも含め、広いアリーナを自分たちの表現領域として駆使してみせる4人の姿に、ファンの熱狂はなおも刻一刻と高まっていく。

特効の花火が轟き、金銀の紙テープが舞い踊った「悲しきASIAN BOY」で、ドームを歓喜と狂騒の極致へと導いたTHE YELLOW MONKEY。「俺、完璧な声じゃないけど、少しずつ治っていくから。何の確証もないまま東京ドームやっちゃって申し訳ないけど、みんなの歓声があるからできると思った。願えば叶うと信じて、これからもTHE YELLOW MONKEYと人生を共にしてください!」……吉井のメッセージとともに披露されたのは、バンドにとって大切な楽曲「JAM」。癒されぬ悲しみも孤独も矛盾もすべて抱きしめるような、豊潤な包容力に満ちたアンサンブルの中、鬼気迫る歌声を突き上げる吉井の凄絶な姿が、感激や感動では言い表せない衝撃的な余韻を残していった。

4人と2人が舞台を去り、ビジョンには『Sparkle X』収録曲「復活の日」を歌う吉井の映像が映し出されて、ライブは終了……かと思いきや、メンバー4人が再度ステージに登場。「我がTHE YELLOW MONKEYは、永久に不滅です!」の吉井の絶叫とともに最後に披露したのは「WELCOME TO MY DOGHOUSE」。残りの一滴のエネルギーまで完全燃焼させるような激走感。最高のロックバンドだからこそ体現し得る、最高のロックアクトだった。

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