
興味深かったのは、初期からずっと長きにわたり演奏され続けてきたことで特別な存在感をまとうようになった楽曲が多々あるばかりでなく、ステージ上で披露される機会がほとんどなかったからこそ希少価値的な魅力を増してきた楽曲もあるということだ。lynch.は始動当初から揺るぎないものを持ちつつも、2011年のメジャー・デビューを挟みながら、彼らなりの音楽的変遷を経てきた。そうした過程の中で、ある時点での方向性にそぐわず一時的に封印せざるを得なかった楽曲というのもあったはずだし、逆にその封印を解くような局面もあったはずだ。

しかしこの夜のライヴから感じられたのは、今現在の彼らには、クローゼットの奥にしまい込む必要のあるものは皆無なのだということだった。それは単純に「どんな曲だろうと、この5人でやればlynch.然としたものになる」ということでもあるが、そこで重要なのは、いわば彼らが“lynch.らしさ”を確立させる以前の楽曲さえも、そのように聴こえるという事実だろう。少しばかり具体的に言うならば、彼らの初期楽曲の中には直球型でほとんど捻りのないハードコア的なもの、90年代的なギター・リフのあり方や2000年代前半なりの時代性を感じさせるニューメタル的な感触のものもあれば、いわゆるV系/名古屋系的な空気感をまとったものもある。そうしたギャップを埋めているのが烈しさと妖艶さを併せ持った葉月の歌声だったわけだが、以降ふたつのディケイドの中で自分たちなりの洗練の過程を経てきた現在の彼らは、20年という時差をも埋めてしまっているのだ。あくまで20年前の楽曲群を中心としつつも、随所にメジャー・デビュー以降の楽曲が散りばめられた演奏プラグラムが進んでいく中で、違和感をおぼえる瞬間が皆無だったのもそれゆえだろう。
そうした彼らの成熟のあり方を象徴していたのが“GOD ONLY KNOWS”だった。この楽曲は『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』に収録されている唯一の未発表曲なのだが、完全な新曲というわけではない。2008年の時点ですでにその原型が生まれていながらも、以降のアルバムには似つかわしい置き場所がみつからず、世に出ぬままになっていたものだ。つまりインディーズ期の代表曲の数々と同じ頃に生まれていたアイディアが今現在のlynch.として新たに書き下ろされて体現されたものであり、まさに今回のリリース作品のコンセプトと合致するものだといえる。そして、初期衝動にも似たものと、年輪を重ねてきたからこその説得力が共存するこの楽曲が、この夜は二度にわたり披露されることになった。完全ソールドアウトとなったこの夜、フロアを埋め尽くしていたオーディエンスは、この“GOD ONLY KNOWS”が特別な楽曲になった瞬間の目撃者となったといえるだろう。
この刺激的なツアーはこの先、全国各地のライヴハウスを巡演しながら、6月20日まで続いていく。それ以降のことについては「神のみぞ知る」と言いたいところだが、アンコール時に葉月の口から、「lynch. 20th ANNIVERSARY PROJECT」の第6弾、第7弾の概要が発表された。その詳細については下記を参照して欲しいところだが、こうして惜しみなく情報が明かされるということは、その先にはさらなる何かが待ち構えているということでもあるだろう。記念すべき節目を迎えているlynch.の“今”を、一瞬たりとも見逃さずにおきたいところである。
(取材・文 増田勇一)
lynch. 20th ANNIVERSARY PROJECT 特設ページ
https://pc.lynch.jp/lynch._XX/index.html
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