ガンズ・アンド・ローゼズ、5月5日一夜限りの来日公演のライヴレポートが到着

同じくショウの中盤においては、ガンズのライヴにおいて史上初となる出来事があった。彼らのステージには、これまでもダフがカヴァー曲を歌う場面というのが設けられていたが、今回はそこで、お馴染みのミスフィッツやザ・ダムドの楽曲ではなく、初めてシン・リジィの“Thunder And Lightning”が披露されたのだ。この楽曲は、同バンドにとって最後のオリジナル作品となった同名のアルバム(1983年発表)からの選曲だが、そこでギターを弾いていたのが、昨年末に他界したジョン・サイクスだったことは言うまでもない。この曲を歌い始める際、ダフがステージ袖にいた愛妻スーザンに向かって「Happy Birthday, Susan」と呼びかけていたことを考えると、もしかするとこれは彼女のフェイヴァリット・ソングだったりするのかもしれないが、きっとサイクスに対する哀悼の意も込められていたに違いない。彼とガンズには接点がないように思われるかもしれないが、実は復活劇以前の2009年当時、彼をバンドに迎え入れる話があったとされており、現メンバーであるもうひとりのギタリスト、リチャード・フォータスとも懇意にしていたのだった。

そうしたサプライズも盛り込まれたショウは、冒頭にも記したように3時間にも及ぶものとなった。そしてふと思い返してみると、『Appetite For Destruction』(1987年)と『Use Your Illusion Ⅰ/Ⅱ』(1991年)からの楽曲がバランス良く並び、さらには『Chinese Democracy』(2008年)からも4曲がセレクトされ、再集結後に新曲/未発表曲としてリリースされてきた“Hard Skool”や“Absurd”、前述の“Perhaps”なども盛り込まれた、至れり尽くせりの演奏内容だったことに気付かされた。

そうしたさまざまな時代の楽曲を歌うアクセル・ローズの声に、かつてのようなけたたましいほどの迫力はもはや伴っていない。彼の特徴のひとつであるハイトーンからもダーティな攻撃性は影をひそめ、むしろファルセットが多用されるようになっている。しかし筆者はそこに妥協や衰えではなく成熟を感じさせられた。かつての自分が投影された楽曲たちとの今現在の自分なりの付き合い方を確立させてきた、と言い換えてもいいだろう。『Chinese Democracy』や近年の来日公演の際にも感じられた変化が、次なる次元へと向かいつつあるのではないかと筆者は感じている。

そして詰まるところ、やはり何よりも実感させられたのは、ガンズ・アンド・ローゼズがいかに名曲の宝庫であり、比類なきロック・アイコンの集合体であるかということだった。最初に“Welcome To The Jungle”のイントロが聴こえた瞬間の興奮から、最後の最後に披露された“Paradise City”での至福の一体感まで、本当に素晴らしい時間の連続だった。今回のジャパン・ツアーがたった1公演のみで終わってしまったことについては残念としか言いようがないが、この先もツアーは台湾、タイ、インドと続いていき、夏には欧州各地を巡っていくことになる。その先に、前々から噂されている現体制での新作が登場することになるのか、それともその噂が噂のままで終わるのかはわからない。しかし、さまざまな伝説的バンドのツアーからの引退が続いている昨今ではあるが、ガンズ・アンド・ローゼズにはまだまだ未来があるはずだと確信できた一夜だった。

文:増田勇一

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