The Smile、ロンドンのマガジンで行われたオンライン配信ライヴ

The Smile

レディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、サンズ・オブ・ケメットのドラマーであるトム・スキナーによるサイド・プロジェクト、ザ・スマイルがロンドンのマガジンで行ったライヴを配信で観た。昨年5月に行われたグラストンベリー・フェスティバルによる配信ライヴにサプライズで出演して初お披露目されたこのプロジェクトだが、あの時の配信ライヴは観ていないので、自分にとっては今回がザ・スマイル初体験となる。自分が観たのは3回目のうち2回目のアメリカの時間帯向けに行われたライヴだった。

公演の冒頭ではウィリアム・ブレイクの作品『ザ・スマイル』がドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』への出演で知られる俳優のキリアン・マーフィーによって読み上げられた音源が会場には流される。カメラが後ろから付いてくる形でステージに登場した3人が1曲目に演奏したのは“Panavision”だった。今回の配信では、まだスタジオ音源としては未発表の楽曲も冒頭で曲名が表示される。トム・ヨークがキーボードを担当しながらヴォーカルを披露し、ジョニー・グリーンウッドはベースを担当している。こうした面も含めて当然のことながらレディオヘッドとは一線を隠すプロジェクトとなっていて、トム・スキナーのドラミングも含めて各メンバーのフィジカルの比重が非常に高いパフォーマンスとなっている。

2曲目に演奏されたのは、先日スタジオ音源が公開されたばかりの“The Smoke”だった。早速、客席からは歓声が起こる。こちらではトム・ヨークがベースを担当し、ジョニー・グリーンウッドはギターを手にしている。配信ではここから映像がモノクロからカラーへと変更になり、360度、光の柱に囲まれたようなステージの全貌が明らかになる。ジョニー・グリーンウッドのキーボードから始まった3曲目は“Speech Bubbles”。ジョニー・グリーンウッドのキーボードがなだらかなサウンドスケープを描き出し、トム・ヨークはその上でギターをアルペジオで弾きながら静謐な印象のナンバーを歌い上げていく。曲の途中ではジョニー・グリーンウッドがピアノとハープへと楽器を変えており、3人ながら様々な音色が加えられていく。

画面越しながらパフォーマンスの熱が一段と上がったように感じたのが4曲目の“Thin Thing”だ。ジョニー・グリーンウッドがハンドピッキングでテンポの速いギター・フレーズを弾き始め、途中からディストーションをかけたギターとトム・ヨークによるベースが疾走していく。リズムは6拍子だが、自然と身体が動いてしまうようなグルーヴがある。曲が終わると会場からは一際大きな歓声が上がる。浮遊感のあるシンセサイザーから始まったのは“Open the Floodgates”だった。過去に2010年にアトムス・フォー・ピースのライヴで披露された楽曲であり、レディオヘッド関連の未発表曲として数えられてきた曲だ。元々ピアノの弾き語りで披露されていた曲だけあって、この曲はドラムがなく、トム・スキナーもトム・ヨークと共にキーボードを担当して、その上にジョニー・グリーンウッドのギターによるアルペジオが乗るという形となっている。今回のザ・スマイルによるバージョンはその繊細なアンサンブルがパフォーマンスの肝となっていて、原曲の良さをさらに引き上げている。

同じく最初はドラムがなく、トム・ヨークのギターの弾き語りを主体に披露された“Free in the Knowledge”など、ザ・スマイルの存在意義はトム・ヨークの弾き語りだけで成立してしまっていた曲に新しい命を吹き込んでいくことにもあるのかもしれない。一方、速いビートの“A Hairdryer”は3人のインタープレイとフィジカルが主体になっていて、ザ・スマイルの別の側面を映し出す。“Waving a White Flag”はエレクトロニックなサウンドが最も前面に出た楽曲だったが、ドラムの表情が豊かで、そこに肉体的な熱を与えていく。「明日何が起こるか誰も分からない」と題された“We Don’t Know What Tomorrow Brings”はこの日最も直線的なビートで、ストレートなメッセージと共に披露されていて、会場の熱を上げていく。そして、アトムス・フォー・ピースやレディオヘッドのライヴでも披露されてきた未発表曲“Skirting On The Surface”が披露される。

これまたドラムがなく、シンセサイザーのサウンドを主体にピアノとベースが絡んでいく“The Same”もトム・ヨーク主体の曲に新たなサウンドを与えた曲のように聴こえたし、“The Opposite”はトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドの弦楽器のアンサンブルが際立った3ピースならではの肉体性を感じた。本編最後に演奏されたのはザ・スマイルの最初の楽曲として公開された“You Will Never Work in Television Again”。こちらもライヴの映像で観ると、当然のことながらスタジオ・バージョン以上の熱量で、このプロジェクトでやりたかったことの一つを体現している曲であることが伝わってくる。

アンコールで披露されたのは“Just Eyes and Mouth”とジョー・ジャクソンのカヴァーである“It’s Different for Girls”の2曲だった。“Just Eyes and Mouth”はギターが前面に出た楽曲で、そこにドラムのリズムが絡んでいく形で構成されており、事実、トム・ヨークはギターを弾くジョニー・グリーンウッドのことを指差して観客からの歓声を生み出している。

この日のライヴを観て、このザ・スマイルというプロジェクトには大きく2つの役割があるんじゃないかと思った。一つはこれまで最終形態となっていなかった曲に新たなサウンドと命を吹き込むこと、そして、もう一つは3人というバンドとしてはかなり少ない編成でライヴをやることでフィジカルを開花させること。今後リリースされるであろうアルバムがレディオヘッドという孤高のバンドにどんな影響を生むことになるのか、それを見るのが面白くてずっとファンをやっているわけだが、その答えはもう少し先になるのだと思う。

Panavision
The Smoke
Speech Bubbles
Thin Thing
Open the Floodgates
Free in the Knowledge
A Hairdryer
Waving a White Flag
We Don’t Know What Tomorrow Brings
Skirting on the Surface
The Same
The Opposite
You Will Never Work in Television Again
Encore:
Just Eyes and Mouth
It’s Different for Girls

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