怒髪天、“50代なんてひよっこ”。 バンド最高!全国ツアー大団円にて終了

怒髪天

怒髪天の全国ツアー『古今東西、時をかける野郎ども』が6月2、3日、東京・恵比寿LIQUIDROOMにてファイナルを迎えた。今年3月より始まった本ツアーは故郷・北海道から上京して30年、“東京30年生”を記念し、これまであまり演奏されてこなかったレアな楽曲を中心としたセットリストで怒髪天のロックバンドとしての生き様を見せつけた。そして、この情勢の中で集まったオーディエンス、俺達界隈(怒髪天ファンの呼称)との絆を深めた2日間でもあった。

怒髪天

「マスクしててもわかるよ、いつも来てる顔」

“痛快!ビッグハート維新’21 ~遅すぎたレコ発ツアー~”と銘打たれた1日目。「よく来たぁ!」若き日を思い出すよう肩まで伸ばした長髪を振り乱す増子直純(Vo)の威勢よい掛け声から、「江戸をKILL」でライブの口火が切られた。巧みなアンサンブルとグルーヴに圧倒された「ソウル東京」、続けざまに「酒燃料爆進曲」でダミ声を高らかに恵比寿の夜に響かせる。
「今日はレア曲祭りですから。今後10年20年単位でやらないだろうという曲もいっぱいありますから」
この日は昨年12月にリリースした、廃盤となったインディーズ時代の再録アルバム『痛快!ビッグハート維新’21』収録曲を軸にレア曲を次々と投下。タイトル通りの坂詰克彦(Dr)による屈強なリズムで始まった「マテリアのリズム」、上原子友康(Gt)は「チャレンジボーイ」で小気味良いカッティングギターを聴かせ、「己DANCE」ではシュレッドなギターソロをキメていく。
「何があっても俺のせいじゃない、逆恨みこそ青春」と、若かりし時のスタンスを増子が振り返る。昔の曲をあらためて披露することは、“恥ずかしい若い頃の写真を見せて笑ってもらうような感覚”だといい、この状況下でもライブに来てくれるのは近しい人であり、安心できる場所であると集まってくれたオーディエンスに感謝の意を述べた。
「人前で何を言ってるんだ。3、4人しかいないのに」と当時を振り返りながら、若すぎた2人を歌ったミディアムテンポのラブソング「夕立ちと二人」を丁寧に歌い上げ、降りしきる雨は清水泰次(Ba)の魅惑のベースフレーズで始まる「優しい雨」となり、〈耐えて咲かせる 花もある〉〈今日という日を生き抜いて 僅かながらも笑えたら〉と、「明日の唄」へ繋げた。
「ロックコンサート中だった、忘れてました」というほど、少々勘違いしてた若気のファッション談義に花を咲かせ、古い曲だけど楽しい曲だと「新宿公園から宇宙」へ。本編ラストは「星になったア・イ・ツ」。最後のキメフレーズ〈お前は輝く星となれ〉を「俺がやりたい(清水)」「俺も(上原子)」「最後だから俺が(増子)」「じゃあ俺が(坂詰)」「どうぞどうぞ」の流れで請け負った坂詰が、華麗なフィルを叩きながら「コ・マ・オ・ク・リ・モ・デ・キ・マ・ス・ヨ」と想像の斜め上を行く昭和懐かしCMネタで締めた。
アンコールは札幌時代の秘蔵曲だという「遠くの君から」、最後は働く人に送るほろ酔いソング「赤ら月」で締めくくった。
「つたなかった時代の(曲)を見せたから、もう親友ですよ。マスクしててもわかるよ、いつも来てる顔。コンビニであだ名つけられるタイプだから(笑)」
フロアいっぱいの俺達界隈(怒髪天ファンの総称)の顔を1人ひとりゆっくり見渡しながら、増子の優しい言葉で1日目は終了した。

50代なんてひよっこで、まだまだ怒髪天はぶっ飛ばしていきます

関ジャニ∞への提供曲「あおっぱな」でスタートした2日目は“タイムリープ’22 ~あなたのド髪きっと生えてくる~”。ハードコアな「天誅コア」、暗い世界情勢へ向けた「セイノワ」でピースサイン掲げると、「それではお手を拝借!」と増子の言葉を合図にフロアいっぱい高く上がった両手が右へ左へ大きく舞う「オトナノススメ」へとなだれ込む。
「昨日で呪縛は解かれた部分があるので、今日は楽しくやりたいと思います」
レア曲オンパレードの昨日とは打って変わって、と思いきや、怒髪天最古の曲「YOUNG DAYS」や「青嵐」「うたごえはいまも…」と再録アルバムからの選曲を立て続けに披露。再来年40周年を迎えるロックバンドは増子の例えを借りれば、“老舗和菓子屋”級だという熟練の引き出しの多さで魅せていく。
上原子の力強いストロークに合わせて歌い始めた「はじまりのブーツ」。〈どんな日もコイツといれば 少しだけ心強かった〉それはバンドのことであり、応援してくれる俺達界隈のことでもあると。歌は作ったときの意図とは変わった形で育っていくと増子がしみじみと口開く。
「コロナ禍前の状況に戻るとは思ってないんだ——」
他に楽しみを見つけた人、家にいることを選んだ人もいる。だから一からやり直す覚悟でいたけど、今日これだけ集まってくれたら一ではないと感謝した。
メンバー同士でもあり、バンドと界隈とのことでもある「欠けたパーツの唄」、己を奮い立たせる「孤独のエール」、硬派にキメた男の歌「ハナオコシ」、飾り気なしの怒髪天節が炸裂する「ド真ん中節」と、男らしいナンバーをビシッとキメていく。
「永ちゃんなんて70歳過ぎて50周年で全国ツアー、海外ではローリングストーンズが80歳近いのにバリバリロックンロールをやってる。50代なんてひよっこで、まだまだ怒髪天はぶっ飛ばしていきますんで。もっともっといい曲作って、もっとカッコいいバンドになります!」
そう語った上原子の意気込みを表すようにロックバンドの本懐を歌い上げた「HONKAI」、そして最後は怒髪天というバンドをこんな端的に表した言葉があっただろうかと思うほど、時世に捧げた新しいアンセム「ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イエー!」を派手にぶちかました。
アンコールは寺嶋由芙に提供した「夏’n ON-DO」を茶目っ気たっぷりにセルフカバー。ラストのラストは「俺様バカ一代」で大団円。
「バンド最高! 怒髪天最高! (俺達)界隈最高!」
増子が強く口にすると、最後はいつものセリフ「生きてまた会おうぜー!」が高らかに響いた。
声援もシンガロングもないが、ライブを取り巻く状況は徐々に良くなっている。それを象徴するような笑顔に包まれたピースフルな2日間であった。

Text by冬将軍
Photo by菊池茂夫(DYNASTY)

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