ロバート・クラムはアメリカのアンダーグラウンド・コミックを代表する漫画家、イラストレーターである。カウンターカルチャーを象徴するキャラクター「フリッツ・ザ・キャット」、「ミスター・ナチュラル」を生みだし、またジャニス・ジョプリンのアルバム「チープ・スリル」のジャケットを手掛けるなど、60年代後半のアメリカにあって、一躍脚光を浴びる存在となった。本作は、風刺に富み、過激で辛辣、ときに性的なオブセッションをあらわにしたコミックを描き続けたクラムにカメラを向けたドキュメンタリーである。戦前のブルースへの偏愛、ともに精神を病んでいる兄チャールズ・弟マクソンからの影響、LSDの使用、女性に対する過度な恐怖心と特異な性的嗜好など、そのコミックに劣らず異例ずくめの人物像と背後にあるアメリカ社会の闇が映し出される。
監督は、クラムとともにストリングス・バンド「チープ・スーツ・セレネーダーズ」で活動し、のちにアメリカの人気コミック作家ダニエル・クロウズ原作の『ゴーストワールド』(2001)を撮ったテリー・ツワイゴフ。
1995年にはサンダンス映画祭グランプリ(ドキュメンタリー部門)、ナショナル・ボード・オブ・レビュー・ベスト・ドキュメンタリー賞、全米監督協会賞等数々の映画賞を受賞。また、アメリカの映画批評サイトであるロッテントマトでは95%、オンラインデータベースIMDbでもスコア8.0と高い評価を得ている。
日本では1995年の山形国際ドキュメンタリー映画祭での上映、1996年の一般公開以来の劇場公開となる。
今回お披露目となった新しいビジュアルには、クラム自身が後ろからピストルを突き付けられている姿を描いた自画像が採用されている。その周りには、クラムが創造したキャラクターたち、そしてクラムの兄弟や両親の写真などがコラージュされ、「むき出しの現実は、残酷だ。」とキャッチコピーが添えられている。
日本では、その極端な過剰さ故に、未だ広く紹介されているとは言い難いロバート・クラム。本作『クラム』にある正気と狂気を行き来する滑稽な淀みは、善と悪が瞬時に色分けされる窮屈な世界を生きる私たちに、別の地平を示唆してくれるに違いない。
2022年に<ロバート・クラム>に出会えることを首を長くして待っていて欲しい。
クラム
監督:テリー・ツワイゴフ
プロデューサー:リン・オドネル/共同プロデューサー:ニール・ハルフォン/エグゼクティブ・プロデューサー:ローレンス・ウィルキンソン、アルバート・バーガー、リアンヌ・ハルフォン/撮影:マリーズ・アルベルティ/録音:スコット・ブラインデル/編集:ヴィクター・リヴィングストン/音楽:デイヴィッド・ボーディングハウス
出演:ロバート・クラム チャールズ・クラム マクソン・クラム エイリーン・コミンスキー
原題:CRUMB
1994年/アメリカ/カラー/ヨーロピアン・ビスタ(1.66:1)/モノラル/120分
2022年2月18日(金)新宿シネマカリテほか全国順次公開