ビーチ・ボーイズのイメージはどのようなものだろう。ピーカンの夏空と青い海に響く爽快なハーモニー?1962年に発売されたデビュー・アルバム『サーフィン・サファリ』公開から今年で60周年。長男であるブライアンと弟であるカールとデニスの3人の兄弟と、いとこのマイク・ラヴ、そして近所の友だちであるアル・ジャーディンと共にビーチ・ボーイズは結成された。サーフィン愛好家だった次男デニスの提案により、西海岸で流行っていたスポーツをテーマにした楽曲を作っていくことに。しかし、バンドメンバーの中でサーフィンをするのはデニスだけだったという。底抜けに明るいカリフォルニア・サウンドで青春を謳歌していたのも65年までのわずか数年間。ビートルズがアメリカ中を席巻するようになると、ブライアンはそのライバル心からツアーに参加することを拒否し、作曲に専念する。今でこそ名盤とされる『ペット・サウンド』は売上不調。そして、幻のアルバム『スマイル』の空中分解を経て、徐々にほかのメンバーとの確執が生まれ、距離が開くようになり、ブライアンとビーチ・ボーイズは長い低迷の時期へ突入していく。ブライアンはプレッシャーに苛まれ精神疾患などから薬物依存となっていき、1982年メンバーから解雇を言い渡されてしまう。追い打ちをかけるように、グループの出発メンバーにして愛すべき弟のデニスが水死。そのころから、精神科医ユージン・ランディによる洗脳まがいの治療を受け、長い間隔離生活を余儀なくされてしまう。映画の中では、9年もの間、家族や友人たちとの連絡を絶たされたこと、床に落ちたスパゲッティを食べさせられたことなどが赤裸々に語られる。当時の体重は140kgを超え、心身ともにボロボロになるも、1990年代初頭にランディから解放された時に訪れた、下の弟のカールの死。失意の中、それでもブライアンには音楽があった。音楽が彼を世に導き、最悪の環境から救い出した。そして、新たな家族。この映画は単なるロック界の成功者の記録ではない。家族とともに人間的な復活を遂げたひとりの男の勝利をも描いている。
ビーチ・ボーイズの成功までの歩みを人生の第1幕とするなら、その後の薬物中毒や精神疾患との闘いを第2幕、そこからの脱出と復活を第3幕と考えていい。その再出発の日差しの中で人生の喜びと悲しみを振り返ったのがこのドキュメンタリーなのだ。8月19日(金)には、音楽評論家の萩原健太さんと能地祐子さんによる公開記念トークイベントも開催される。
イベント詳細:https://www.cinequinto.com/white/topics/detail.php?id=593
ブライアン・ウィルソン/約束の旅路
監督:ブレント・ウィルソン 製作:ティム・ヘディントン、テリサ・スティール・ペイジ、ブレント・ウィルソン
製作総指揮:ブライアン・ウィルソン、メリンダ・ウィルソン、ジェイソン・ファイン 共同プロデューサー:ジャン・ジーフェルス
出演:ブライアン・ウィルソン、ジェイソン・ファイン、ブルース・スプリングスティーン、エルトン・ジョン、ニック・ジョナス、リンダ・ペリー、
ドン・ウォズ、ジェイコブ・ディラン、テイラー・ホーキンス、グスターヴォ・ドゥダメル、アル・ジャーディン、ジム・ジェームズ、ボブ・ゴーディオ
2021年/アメリカ/英語/93分/原題:Brian Wilson: Long Promised Road/字幕監修:萩原健太
配給:パルコ ユニバーサル映画 宣伝:ポイント・セット Ⓒ2021TEXAS PET SOUNDS PRODUCTIONS, LLC
universalpictures.jp 公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/brian-wilson