伊藤ふみお(KEMURI)インタビュー

伊藤ふみお(KEMURI)インタビュー

伊藤ふみおが6年半ぶりのアルバム『FRIENDSHIP』をリリースした。
作曲陣に、斉藤和義、難波章浩(Hi-STANDARD/NAMBA69)、マイク・パーク(Skankin’ Pickle/The Bruce Lee Band/The Chinkees)、津田紀昭(KEMURI/ THE REDEMPTION)という盟友が名を連ね、レコーディングには高田 漣、K5(NAMBA69)、tatsu(LÄ-PPISCH)、山口美代子(BimBamBoom)、岡愛子(BimBamBoom)、田中‘T’幸彦(KEMURI)、コバヤシケン(KEMURI)が参加という、KEMURIファンのみならずSKAファン必聴の作品となった。
『FRIENDSHIP』に込められた想い、そして伊藤ふみおとしての今を語ってもらった。

本当に最高の1枚ができた

伊藤ふみお

- 3月27日を迎えられて、率直な気持ちを教えてください。

めちゃめちゃ嬉しいし、またすごい頑張れそう。このアルバムをこうやって作り終えて、また次に向かえるぞっていう気持ちです。

- それは作り終えた直後と世に放たれたこのタイミングと、アルバムに対して同じ気持ちですか?

今のところはあんまり変わってないですね。これから色んな声が聞こえてくると思うんですけど、それを受けて自分がどう変わっていくかが逆に楽しみな感じかな。すごく自分的に確信できてるのは「本当に最高の1枚ができた」っていうこと。懐古主義でもなく気負い過ぎてもいなくて、本当に歌が真ん中にあって、自分が作りたいグルーヴを作れた曲も多い。そういった意味ですごく釈然とした、ベストを尽くしたアルバムなので。

- 今のふみおさん自身をちゃんと出し切って、好きなものを投影できていると。一方で、KEMURIの『Ko-Ou-Doku-Mai』を聴いても、すごくKEMURIらしさを尽きてめられている気もしていたので、その上でふみおさんにとってこのアルバムの立ち位置みたいなものとは?

それはですね、昔も今も変わらず好きなものが、このソロアルバムに詰まっているんですけど、それは必ずしもKEMURIと全てリンクするわけじゃないんです。KEMURIであんまり曲を書いてないのもありますけど、KEMURIにはKEMURIのグルーヴがあって、もうちょっと伊藤ふみおとしてやってみたい、別のグルーヴを今回は本当にやりたかった。あとは、伊藤ふみおの好きな音と録り方で音楽を全て作りたいっていうのが、このアルバムを作った経緯ですね。

- それは別にバンドへのジレンマとかではなく、純粋な音楽への欲求の場所としてソロという場所を選んでいったんですか?

そうね。特に復活してからのKEMURIの活動は、肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいなくらい頑張ってたら、あっという間に月日が経ってて。充実はしているけど、良い意味でも悪い意味でもバンドはバンドだから、メンバー全員がそれぞれ個人がやりたいことを全てやる場じゃないですよね。そういった意味でKEMURIだからやれることと、KEMURIではやりたくないことが明確になったことが、ソロという場所に繋がっていきました。

- 例えばサッカーで言えば、ふみおさんはKEMURIという名の下でフィールド上のFW的な位置にいるとして、ソロではそこに加えて監督の要素に近い俯瞰的な目線も生まれたりするんですか?

それはあるかもしれない。もちろんKEMURIだと、気心知れたメンバーたちとだけど、ソロは自分で多くの曲を書いたし、特にバンドで録った曲は4人のうちの2人は初めてだったから、そういう視点は心掛けました。初めてのドラムの美代ちゃん(山口美代子)やギターの愛ちゃん(岡愛子)が、どういう音が出したくて得意な要素はどこでとかをすごく考えたからね。

- 当然、ふみおさんが中心にいる上で、今回のレコーディングメンバーとの化学反応を起こしたわけですが、何よりふみおさん自身の幹がしっかりしていたからこそ、その視点の中で楽曲の枝葉に成り得ていったと思うんですよね。それには、先ほど仰ったKEMURIとソロの明確化という部分が、より必要不可欠だったのかなと。

思ってたより、それはやりながら感じたね。監督的なこと…プロデュース的なこととも言っていいのかな。今の自分がソロで出したい明確なものがあって、その上でこんなことも考えるんだなっていうのは、ここにきてすごくありましたね。

- こういった形で自身の作品との関わり方は初めてですか。

初めてですね。ここ何作かはベースのたっちゃん(tatsu)にプロデュースの方はほとんど任せてあったし、今回の方がより口を出しました(笑)。

1つのライフワークとしてずっとやっていきたい

伊藤ふみお

- (笑)。実際に聴くと、楽曲のバリエーションが豊富です。そこで敢えて伺いますが、この『FRIENDSHIP』はアコースティック形式とバンド形式のものに分けられるとも思ったのですが、これはそういうコンセプトで最初から構想さていたんですか?

その通りで、実は第1期と第2期で分かれた制作だったんです。その第1期に当たる時代は、バンド形式ではなくアコースティックのミニ・アルバムにしたいと思ってて。斉藤和義くんとか難ちゃん(難波章浩)、津田(津田紀昭)くん、Mike Parkには”アコースティックで”っていうオーダーをして、アルバムの最後に収録した『HOME』の5曲をその時代に作ったんです。やっぱり、踊れることや盛り上がってダイブとか、お客さんを煽ってすごい汗だくの激しいライヴも良いんだけど、それは既にKEMURIでやっている。そんな経験をしているからこそ、例えば5~6人の前で歌を歌うような景色の中に、いつか自分がいれたらいいなと思ったことがあって、もう少し歌をしっかり歌いたいっていうのがあったんです。

- そう伺うと、アコースティック形式の必然性や、ソロとしての在り方にも納得出来ますが、その後の2期目でもその流れを引き継ぐこともできたと思うのですが、敢えてバンド・サウンドを求めていったんですね。

それが不思議でね(笑)。ソロの制作期間をちょっと停止してた間に、クラッシュやボブ・マーリーとか、昔の音楽をすごく聴いてて。もちろん、KEMURIでバンドはやってるし管楽器が隙間なく入っている良さを知っているんだけど、少人数編成でスカやロックステディ、レゲエの括りで音が作れないかなって思い始めたんです。

- ある種、回帰的な部分もありそうですね。

そうなんですよ。自分の中では、結構ツートン回帰みたいなところが大きくて。スペシャルズやセレクター、マッドネス辺りは聴きまくったんですよね。今のPro Toolsとかのデジタル録音に関して全然否定はしないんだけど、もうちょっとラフなだけどエネルギーがるものに惹かれ担ですよね。

- それって、KEMURIの始まりもそれに近しいものだったんじゃないですか?

そうね。当時はそこまで考えてはできてなかったんだけど、そういう時代ですよね。例えば今回の録音って、Pro Toolsを使ってるんですけど、バンドの時はガイドのクリックを出してないんですよ。全部、1フロアをでパーテーションで区切って録音したから、音が被りまくりなんだけどライヴ録音なんです。

- それはチャレンジですね!あってもカウントくらいとか?

カウントもなしなの。だから『Rusty Nail』なんかは、「せーの、ドンドン!」って始まるんだけど、そのコンセプトで作ったんです。エンジニアもメンバーも「面白いからやってみましょう」って、快く言ってくれたからできたんだけどね。

- ある意味、ミュージシャンシップというか。ガチガチのクリックに合わせても良いけど、その場の雰囲気で拍子に対して多少の揺れみたいなものが、最高のグルーヴになっていく醍醐味みたいな?

そこなんですよね。その場にいた人しかわからない感覚なのかも知れないけど、その時に感じた”正しいと思えるもの”を求めていたいっていう。まだこのバンドでライヴをやってないからどうなるか分かんないんだけどさ、1つのライフワークとしてずっとやっていきたいと思ってる第1作目が、この『FRIENDSHIP』なんです。

- 当然、各個人のセンスも問われるし、その現場の緊張感もすごそうですね。

そうですね。いろんな意味でのフィーリングが合わさっていたし、レコーディングはすごい面白かったですよ。例えばダブのパートは、エンジニアが後からミックスしてるわけじゃなくて、ライヴを想定して足元でやってるとか。あとリズムだけを聴けば、テンポが一定じゃない部分もある。ただ、それが曲のグルーヴとして正しければ、よほど外れ過ぎていなければ正解だと思ってたし、聴いてても嫌な感じが全然しないからそのままやってみようみたいな。それを是として、もう1回音楽と向き合ってみようかなって。

- このグルーヴをもたらしたメンバーですが、レコーディングでは初めてとのことですが、ふみおさん自身は顔見知りだったんですか?

美代ちゃんは偶然の出会いなんですけどね。去年、KEMURIのツアーでsmorgasと宇都宮でライヴをやったんですけど、smorgasのサポートメンバーで美代ちゃんが来てたんですよ。
観たらめちゃめちゃドラムがカッコよくて、リズムも跳ねてて最高だったから、その後すぐに「今度、ソロの録音をするから、その時はよろしくお願いします」って。ベースのたっちゃんにはその前から声を掛けてたんだけど、すぐ連絡して「ドラムが見つかったよ」って。「曲は?」って言われて、「いや曲まだできてない」って(笑)。

- (笑)。でも曲在りきではなく、人・プレイ在りきっていう方がバンドマンですよね。

そうですね。美代ちゃんは、ナチュラルにスイングするんですよ。それをもっと意識してもらって、スクエアな8ビートにならないようにその感覚のままやってもらいたいって伝えたんです。あとはKEMURIでは絶対に出せない、ルックスのすばらしさね。

- (笑)。男性にはなかなか超えられない美しさ。

女性っていうね。で、せっかく美代ちゃんに決めたから、テレキャスターを弾く女性もいないかなって思ったわけ。美代ちゃんに相談したら、「一緒にやってるバンドのギターがテレキャスター弾くんですけど」って。それでBimBamBoomを観たら、愛ちゃんも16ビートをすごく理解できてるし、出してる音もすごく良かったし。それで愛ちゃんに決めて、今出そうとしてるテレキャスターの音がすごく好きだから、基本的にそれを追求してもらいたかったのと、シングルコイルのテレキャスターの音もやってもらおうとなりました。

- そうやって伺うと、バンド編成の曲がこの音になった理由がとても頷けます。

そうなの。クリックなし・カウントなしにしてもそうなんだけど、レッチリのチャドとかポリスのスチュワート・コープランドが使ってるキャノンタムっていうのを使いたくて、美代ちゃんに相談したら持ってたんですよ。美代ちゃんは「使ったことがないから、どうやって入れたらいいのか分かんないんだけど、面白そうだからやってみますか」ってセットに組み込んでくれて。どれだけの人に理解されるか分からないけど、1からやるからこそ、やりたいことを本当に思う存分にできたんですよね。

ソロをやるには相当な理由付けが自分の中で必要だった

伊藤ふみお

- それがなぜKEMURIじゃなくてソロなのかっていう部分ですね。それは歌詞にも表れてることだと思いました。特に『Rusty Nail』では、所信表明的な受け取り方もできるなと思っていて。

色んなことがあっての今じゃない?だからその色んなことのどこを切り取るかっていうのは、すごく注意深く意識しました。自分の中で最初は”錆びた釘”のイメージだったんだけど、カクテルの”Rusty Nail”に繋がって。それから自分の中で掘り下げて、上っ面だけ取ると結構ポジティヴというよりは、暗いネガティヴなマイナー調の曲によくあった歌詞だと思うんだけど、”錆びた釘”って出てきた時の気持ちや”Rusty Nail”を飲んだときの気持ちを真剣に考えて。それに対してはポジティヴとかネガティヴとか元気が出るとか、優しいとか綺麗とか汚いとか、一切気にせず自分に対して説得力のある歌詞を書いた感じです。

- その中で例えば『Silly Love Song』では、より身近な人の存在の情景が浮かぶフレーズがあって、それはソロだからこそ見せれる景色なのでしょうか?

それは”伊藤ふみおしか見てない景色”を言葉にしていった感じですね。例えばKEMURIのときだと、津田紀昭の曲には津田紀昭と伊藤ふみおが共有した景色、Tの曲にはTと伊藤ふみおが共有した景色っていうテーマがあるんですよ。だけどソロは、基本的には伊藤ふみおだけっていう感じ。

- 1期のアコースティック編成は、その”景色を共有”するが含まれるんですか?斉藤和義さんとの『Beautiful Dreams』では、細野晴臣さんの『恋は桃色』に近い印象があったのですが。

嬉しいですね。最初は全部英語だったんだけど、飲みに行ったり話したりして日本語に書き換えたんです。そういう意味では、僕から見た”斉藤和義が見ていた景色”の歌詞になったと思ってます。最初はドラムも入ってなかったんだけど、日本語の歌詞で歌い直したときに、クリックを使わないでドラムを彼が入れて。

- ここでも!難波さんとの『LOVE』でもそういった経緯はありますか?

それこそ、KEMURIのツアーでNAMBA69に出てもらったときに、楽屋で「こんな感じなんだけど」って聴かせてくれて。その時も『I LOVE YOU』って歌詞が最初にあったから「じゃあこれは『I LOVE YOU』で難ちゃん作りましょう」って始まったんです。あとはK5が本当に素晴らしいギターを自分で色々と考えてアレンジしてくれて。

- まさに『FRIENDSHIP』のタイトルそのものを表しますね。このタイトル自体は最初から決めていらっしゃったんですか?

後からですね。制作中にだったから途中からって言った方がいいのかな。

- 敢えて伺うのですが、ふみおさんは『FRIENDSHIP』という言葉をどう解釈されているんですか?

“支えてくれるもの”っていうよりも、その存在がいるお陰で自分が頑張れるっていうか。そういう意味で”奮い立たせてくれるもの”だと思ってます。あいつもやってるから俺も頑張る、あいつに負けたくないから俺も頑張るみたいなね。いつも仲が良いとか悪いとかじゃなくて、自分のいる世界で何か共通なものを持ってる人や存在かな。

- とても逆説的ではあるのですが、ふみおさんのソロアルバムなんだけれど、そういう周りの人がいないと出来なかったアルバムな気がします。

本当にそうですよ。人によっては、自分の楽曲をドラムのリズムパターンからおかずまで、全部を作り込む人もいるわけじゃない?それに比べたら、みんなが良いプレイをやってくれて、それは自分が100%好きなことでもあって。不満なことなんて何にもないですから。ただ、それの始まりも自分を奮い立たせるような人に出会えたからね。楽曲を提供してくれたり、演奏で協力してくれたり。頑張んなくちゃと思うような人に会えたから出来たアルバムですね。やっぱり、ソロをやるには相当な理由付けが自分の中で必要だったんですよ。”なんで伊藤ふみおのソロをやるのか””なんでKEMURIじゃ駄目なのか”、その辺がすごい釈然としたから今日を迎えられてるし、これからはKEMURIとソロの両軸でやってきます。

- それに対しては、バランス云々じゃなくて”両方大事なんだよ”っていう、とてもフラットな気持ちでそれぞれに向き合えている表れな気がします。

本当にそうですね。『FRIENDSHIP』はスカと呼ばれるような曲が多いけど、KEMURIはスカパンクで。それはスカタライズのスカとは全然違うし、スカパラのスカとも違う。今回の4人のバンドメンバーだからこそ出せたグルーヴと、2019年の伊藤ふみおのスカだと思うんですよね。

- ある種、伊藤ふみおのファーストアルバムだと言っても良いのではないでしょうか。

本当にね。今までやってきた3枚はそれとして、これだなっていうのは出来ましたね。2019年の伊藤ふみおのスカ、レゲエ、初期のパンクかな。クラッシュやボブ・マーリーやポリスといった人たちへ、大きな括りの中での音楽へ、愛と尊敬をたくさん詰め込めた『FRIENDSHIP』になったと思います。


インタビュー:3月27日
text / Photo Atsushi Tsuji(辻 敦志) @classic0330

FRIENDSHIP

FRIENDSHIP
購入はこちら
CD+DVD 3,900円(+税)品番:CTCR-14959/B
CD 2,900円(+税)品番:CTCR-14960
1. Rusty Nail
2. Brave Heart for Glory
3. Long Train Running
4. POSITIVE (津田紀昭(KEMURI/THE REDEMPTION)作曲)
5. Pizza Margherita
6. Beautiful Dreams(斉藤和義 作曲)
7. Silly Love Song
8. YOU (Mike Park(Skankin’ Pickle/The Bruce Lee Band/The Chinkees)作曲)
9. Lonely Shadow
10.Shooting Star
11. LOVE (難波章浩(Hi-STANDARD/NAMBA69)作曲)
12.HOME(Instrumental)
DVD収録
・Brave Heart for Glory(MUSIC VIDEO)
・FRIENDSHIP recording documentary

Fumio Ito show 2019 vol.1
『FRIENDSHIP』

開催日:4月7日(日)
開場:18:30
開演:19:00
会場:新代田FEVER W/THE REDEMPTION,SKA PUNK ZOMBIES
ゲスト出演:コバヤシケン、田中’T’幸彦
チケット:adv 4000円(税込) Door 4500円(税込)
ぴあ146-947
ローチケ72874
e+https://eplus.jp/sf/detail/2897900001-P0030001