そしてサビは宍戸たっての希望で会場全員で大合唱。
幾重にも重なる歌声はまるでゴスペルのような美しい響きを生み出し、改めてこの日が実現したことへの感慨が押し寄せてきた。
続いて披露された「月は面影」も「幻」と同じく、アルバム『幻』で開花した今までの音楽性とはひと味違った魅力を持つ曲だ。
洒落たリズムとフワリと軽いハイトーンのヴォーカルが新しい。美しいアンサンブルの「透き通っていく」を経て、「止まらないで進め、僕らの日常」と自らに、そしてステージへと向けられた視線に言い聞かせるように呼びかけて始めた「横顔」も名演だった。
バンドの新たな側面が前面に押し出されたこのパートで感じたのは、演奏と音楽の持つスケールの大きさだ。
MCでもあったが、本当にWWWが狭く思えるほどだった。
いよいよ迎えた最終局面。
堰を切ったように宍戸がここに至るまでの想いを吐露する。
彼にとっての音楽は、苦しくて何もかもがうまく行かない時にすがるように始めたもので「自分のためだけの歌を作ってきた」のだと打ち明けた。
けれどその歌は、だんだんと同じようにもがく人たちに届き、その心に寄り沿う結果となったのだが「寄り沿ってくれたのはみんなの方」だと宍戸は言う。
そして彼は自分達の音楽を愛してくれる人たちを「本当に深い所で繫がっている大切な友達」と呼んだのだ。
それは誰にも言えず、言葉にも出来なかった想いを託した音楽を分かち合えた歓びが詰まった、最上級の感謝の言葉だった。
だからこそ、ステージに立っている限りは一番かっこいい姿を見せ続けることで、少しでも聴く人たちの力になりたい。
信じられるものが少なくなってきた世の中でただひとつ、信じられるものでありたいと思う。
そう約束して、不屈のナンバー「たわけ」をぶちかます。
そして「自分だけのため」だった歌の代表作とも言える、「愛しておくれ」で、ステージの空気が一変。
宍戸は憤りを叩きつけるように歌い、それに引っ張られるように演奏も荒々しさを増してゆく。そうだ。この待ちに待った日は単純に「成功して良かった」なんかじゃ収まらない。
晴れ晴れとした気持ちと同じかそれ以上の10年分の悔しさとナニクソが、彼らの中に渦巻いているはずだ。