THE BOHEMIANS 地元山形での初ワンマン ライブレポート

2018年11月10日(土)、THE BOHEMIANSのツアー「BEST OF THE BOHEMIANS TOUR 2018」のファイナル公演が、彼らの出身地・山形で行われた。会場はミュージック昭和セッション。これまでthe pillowsと対バン形式のライブはやったことはあるがワンマンは初めて。会場のキャパシティはおよそ300人。ライブハウスの規模としては普通だが、それは東京の感覚。地元のレコード店のオーナー曰く「ミュージック昭和セッションを満員にするのは大変ですよ」。平田ぱんだも「山形のロック人口を考えると、日比谷野音やZepp Tokyoを埋めるようなもの」と語っていた。ボヘミアンズはアマチュア時代にこの会場のステージに何度も立ったそうだが、ガラガラの客席しか見たことがなかったという。今夜、そのミュージック昭和セッションがソールドアウトしたのだ。全国からボヘミアンズのファンが駆けつけた結果ではあるが、ファンを駆けつけさせたのもまた彼らの実力だ。

18時5分、会場が暗転し、開演を告げるBGMが流れ、千葉オライリー(と無法の世界)(dr)、本間ドミノ(key)、星川ドントレットミーダウン(ba)、ビートりょう(gt)の順番でステージに登場。1曲目「おぉ!スザンナ」のイントロで平田ぱんだが勢いよく登場。ここから37曲2時間55分(!)に及ぶロックンロール・ショウが始まった。今回はTHE BOHEMIANSのベスト盤『That Is Rock And Roll〜Best Of THE BOHEMIANS〜』のリリース・ツアーだ。ロックンロールのベスト盤を表現するベストなステージは言うまでもなく曲順通りに演奏することだ。コンセプトが「現在のボヘミアンズの究極のライブのセットリスト」だったら、ベスト盤の16曲+アンコールで2時間のショウと考えるのが普通だ。ところがベスト盤を上回るロックンロール・ショウを目指していたボヘミアンズは各地で2時間半のショウを展開。当初、山形発20時40分の最終の新幹線で東京へ戻れると踏んでいたが、その時点で計画はあえなく破綻した。それどころか平田ぱんだは東京公演終演後の楽屋で「ミュージック昭和セッションの音出しは21時までなんですよ。そのギリギリまでやろうかと思ってるんです」ととんでもないことを言い出した。それを本当に実行してしまったのだ。

「おぉ!スザンナ」で早くも会場は大合唱。「こんばんは、ザ・ボヘミアンズです」という挨拶につづき「THE ROBELETS」を披露。つづいて「GIRLS(ボーイズ)」へとなだれ込む。ここまではべスト盤の曲順通りだ。「遠慮のひとつもなくぶち上がってくださいよ。天井なんて吹き飛ばそうぜ!」と言って「シーナ・イズ・シーナ」を、つづいて「太陽ロールバンド」を演奏。ベスト盤でいうと後半の盛り上がりのキーになる曲をいきなり冒頭で投下した。会場は早くも熱狂の渦の中へ。平田ぱんだ曰く「今日の日だけに照準を合わせてやってきました」。それはどうやら本当のようだ。この5曲だからこそ、天井が高くステージも広いホールのようなこの会場で熱狂が生み出せたのだ。当然、バンドもフルスロットルで応戦。開演して10分もしないうちに観客もメンバーも汗だくになっていた。ロックンロール・ライブのお手本のような展開だ。

6曲目に「恋はスウィンギン・イン・ザ・レイン」を披露したあと、「ボヘミアンズのライブの総括なので、今夜は長尺になります。清志郎風に言うと、オレんちだと思って最後まで楽しんでいってくれ!」とMC。「私の家」を始め、「ガール女モーターサイクル」「ビート!ビート!ビート!」「憧れられたい」といった楽曲で、ポップ・ワールドを炸裂させた。言うまでもなく勢いで圧倒するだけがロックンロールではない。洋楽を熟知している彼らはそのことをよく理解している。「私の家」のようなクラシックモダンな楽曲をサラッとうたえるロックンロール・バンドだからこそマニアックな層からも評価されているのだろう。「明るい村」をプレイしたあと、「こんな機会じゃないとやらない」と前置きをして、メンバーを紹介。「余計な話は抜きにして楽しもうと思う」(千葉オライリー)、「ここで平田ぱんだとビートりょうを初めて見た。ガラガラだったけどすごくかっこよかった。今、隣にいるのは誇らしい」(星川ドントレットミーダウン)、「みんな感謝しています。今日はベストを尽くします」(本間ドミノ)、「自分が楽しいからやっているけど、今日、みんなの顔を見たらみんなと一緒にやった方が楽しいと思った」(ビートりょう)、「10何年もやっていると上がり下がりもいっぱいある。こういうふうに(バンドが)仕上がりました」(平田ぱんだ)とそれぞれがコメント。ずいぶん優等生な発言ばかりだが、それほど今日という日は彼らにとって特別なのだ。

「ここにたどり着くまでいろいろあったのでセンチメンタルな曲をやります」と言って、平田ぱんだがアコースティックギターを抱え、マイクの前へ。「BROTHER」と「THE BIKE」を披露。「THE BIKE」の切なさを放つ曲だ。ロックンロールは時に激しく、時にポップで、時に切ないものなのだ。ロックンロールの要素を巧みに取り込む術を知っているボヘミアンズならではの楽曲だ。あらゆるロックンロールの要素はロックンロール・バンドによって消化と昇華を繰り返し、継承されていくのだ。「Rock’n’Roll Can Never Die」だ。つづいて「THE LENS」、そして「THE ALWAYS」を演奏。「THE ALWAYS」は平田ぱんだとビートりょうの出会いを描いた曲だ(と思う)。「目的地もわからぬままいつまでもどこまでも」を積み重ねた結果が今日のこのステージならば、ロックンロール・バンド人生もまんざらではない。

「センチメンタルな時間はこれで終わりだ。ここからはロックンロールの時間ですよ。大騒ぎ、馬鹿騒ぎでしょ。“Don’t Think!Feel!” 」というMCを合図に「male bee, on a sunny day. well well well!」がスタート。ライブのクライマックスへ突入するときに必ずと言っていいほど演奏される怒涛のロックンロール・ナンバーだ。「ここで騒がないで、いつ騒ぐんだよ!」と平田が観客を煽り、「I ride genius band story」で客席へダイブする。次の「ダーティーリバティーベイビープリーズ」ではビートりょうがダイブ。そしてコール&レスポンスの応酬。「あとは簡単、飛びまくるだけだよ!」というMCを合図に始まった「I am slow starter」で客席は興奮のピークへ。つづいて「君はギター」「bohemian boy」と次々にロックンロール・ナンバーを叩き込み「TOTAL LOVE」で本編が終了した。このロックンロール・コーナーはボヘミアンズの真骨頂だ。シリアスなロックンロールも楽しいが、それを突き抜けたロックンロールも楽しい。ところが多くのロック・バンドはなかなかこの境地までたどり着けない。シリアスさや不安が心の大部分を支配しがちだからだ。もちろんボヘミアンズだって不安や葛藤があるだろう。しかし彼らはそれをもポップに昇華させてしまう力がある。東京公演のとき、ステージ真上の2階席から見たオーディエンスの笑顔を見て、それを確信した。“Don’t Think!Feel!” とはこういうことを言うのだ。

この日、ボヘミアンズがアンコール曲に選んだのは「ロックンロールショー」「ハイパーデストロイでクラッシュマグナムなベイビージェットよいつまでも」「もしも〜if〜」。この3曲は山形時代の定番曲。1曲目〜3曲目で必ず演奏していたという。4曲目は「チャックベリーはアメリカ人」。この曲は平田ぱんだとビートりょうが出会った次の日に、ビートりょうが書いてきた曲だそうだ。アンコールは山形時代の歴史を辿るような構成になっていた。そしてアンコールの最後は山形時代の代表曲、というかボヘミアンズの代表曲とも言える「ロックンロール」で大団円。「扉を開けるのも、扉を閉じるのも 僕らいつだって寂しがりやなのさ」というフレーズに何も感じない人は一生ロックンロールを理解できないだろう。メンバー全員がロックンロールを思う存分やり終えた清々しい表情でステージを降りた。ツアーファイナルはこの「ロックンロール」で終わり。今回のライブの模様はDVD化されるらしいが、その撮影もここで終了した。時計は20時25分を指している。27曲2時間20分のショウ。タクシーを飛ばせばギリギリ新幹線の最終に間に合う。しかしライブは終わらない。

数分のインターバルを挟み、メンバーが再びステージに登場。ここからはアンコールというよりもエクストララウンド。ボヘミアンズは音出し禁止になる21時まで、ロックンロールの名曲のカバーを次々に披露した。まず1曲目は山形時代からよくやっていたという「I Fought The Law」。クリケッツがオリジナルでクラッシュが有名にした曲だ。チャック・ベリーの曲でキンクスがファーストアルバムの1曲目でカバーした「Beautiful Delilah」が2曲目。山形ではけっこうやっていたらしい。東京ではほとんどやってないという。ボヘミアンズが命名した邦題は「僕のバズーカ」。次がベンE.キングの「Stand By Me」。この曲もライブでは聴いたことがない。珍しいカバーが2曲つづいたところで「次はボヘミアンズの曲をやろうかな」と言って、山形限定シングル「SKI IN Y.M.G.T」をライブ初公開。というか、今日、この会場で初めて売り始めたCDなので、オーディエンスはここで初めて曲を聴くことになる。1分38秒の楽曲からは「たかがロックンロール。されどロックンロール」というメッセージが読み取れる。ふざけているけど痛快で楽しい曲だ。こういう曲をサラッとやれるからこそ「ロックンロール」のシリアスなメッセージも生きるのだ。会場の盛り上がりを物足りなく思ったのか、もう一度「SKI IN Y.M.G.T」を演奏。さすがに2回目の客席の盛り上がりは半端なかった。

エクストララウンドもクライマックスへ突入。6曲目は「The Golden Age Of Rock’n’Roll」。「ロックンロール黄金時代」という邦題で親しまれているモット・ザ・フープルの名曲だ。7曲目はザ・フーの「I Can’t Explain」。彼らはこの曲を「てやんでぇ」と意訳してうたった。つづいて「I Saw Her Standing There」。ビートルズのファーストアルバムの1曲目を飾るロックンロールの名曲だ。この曲の冒頭でポール・マッカートニーが叫ぶ「1,2,3,4」を合図にロックンロールの、ポピュラー・ミュージックのすべてが変わった。そんなことは百も承知なボヘミアンズは当然「1,2,3,4」と叫んで曲に突入した。9曲目はライブでおなじみの「Great Balls Of Fire!」。邦題は「火の玉ロック」。ジェリー・リー・ルイスのロックンロール・ナンバーだ。本間ドミノは「“火の玉ロック”の頃には足がつりそうになった」そうだ。もうかなりの時間、ステージに立っている。音出し禁止時間も迫っている。ロックンロールの祝祭もいよいよ終盤だ。

そして、この記念碑的なライブの最後を飾ったのがベスト盤『That Is Rock And Roll〜Best Of THE BOHEMIANS〜』のタイトルにもなっているコースターズの「That Is Rock’n’Roll」だ。ボヘミアンズのライブでは定番中の定番。今やボヘミアンズのオリジナル曲と同等の扱いだ。今夜一番の盛り上がりを見せた。「That Is Rock’n’Roll」が終わった瞬間、ちょうどタイムアップ。時計の針は21時を指していた。合計37曲2時間55分に及ぶロックンロール・ショウはこうやって終演した。メンバーは「最高」というワードを何度も繰り返し、何度も「ありがとう」と言いながら、ステージを去った。「ロックンロールが好きでよかった」という平田ぱんだの素直な言葉がすべてを物語っていた。しかし、ここは到達点ではない。彼らは「始まりの地」で「新たな始まり」を迎えただけだ。

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