中田裕二 バシの暮れだよ裕二だよ2018:謡うロマン街道日本橋 ひとり忘年会

毎年恒例、中田裕二の年忘れ公演。東京の二日目は弾き語りだった。セットリストは特になく、気の向くまま、時には客のリクエストに応じて次々と歌が始まっていく。オリジナル曲が半分、残りは吉幾三「酒よ」やゴダイゴ「ガンダーラ」などの昭和歌謡、またノラ・ジョーンズなど洋楽ヒット曲だ。本人も一人カラオケに近いと笑っていたように、終始リラックスしたムードが続く。
中田裕二
それで二時間のコンサートが成立するかといえば、しっかりするのだった。ただ有名曲を並べても満員のファンが心酔できるのは、歌い手が中田裕二だからに他ならない。彼の声は官能的だと言われる。確かにそうなのだけど、最もシンプルなかたちで届く生の歌声は、ひとつずつの音符に対する装飾・演出が抜群に優れていた。いわゆるビブラート(震え)、フェイク(即興的な外し)、そして何より強烈なのがコブシ。演歌的、民謡的ともいえる音符の転がし方だ。
中田裕二
話は飛ぶが、「津軽海峡・冬景色」をカラオケで歌う女性はけっこういる。サビで力が入るのは最初の〈あぁああ〜〉、そして音階がぐっと上がる〈かぃい〜〉の部分だが、だいたいの日本人はア段やイ段のコブシなら回せるものだ。だが中田の場合はオ段が凄い。あえて文字にするなら〈おぉぅンおあ〜〉という感じで、発声後からぐっと喉が膨らみ、歌の奥行きが10倍くらい豊かになっていく。〈恋人よ〉〈震える私の〉〈そばにいてよ〉とオ段の締めが続く五輪真弓「恋人よ」のカバーが特に絶品だった。普段はごく普通の好青年に見える彼の、急激な歌の膨張に飲まれてしまう感覚。このゾクゾク感を人は官能と呼ぶのだろう。なるほど、これは他では味わえないものだ。
中田裕二
時代に構わず我が道をいく。歌謡曲に対する強烈な愛情と、突出した血の濃さ。オリジナル曲で魅了するのは当然だが、井上陽水「リバーサイドホテル」や椎名林檎「丸の内サディスティック」など、歌い手の強烈な声質ありきで成立する名曲までを難なく自分色に染めていたのも見事だった。普遍的な有名曲に、特別な魔法をかけて酔わせていく。弾き語り=こじんまり、という概念が崩れるような濃厚さを堪能させてもらった。

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