Char LIVE 2023 ~ Smoky Medicine ~ 日比谷野音ライブレポート

日比谷公園大音楽堂(以下、野音)は、今年7月に開設100周年を迎える。その節目を祝うイベントが毎週のように開かれているが、5月13日はロック・ギタリストのCharがそのステージに立った。 

日本のロックの重鎮のひとりであるCharは、1979年7月に『Free Spirit』と題した無料コンサートを開催。入れ切れなかったファンが野音を何重にも取り巻き、動員記録を樹立し、伝説のライブとなった。その後もCharはたびたび野音でライブを行なっているので、まさに100周年を祝うのにふさわしいアーティストだ。

今回のライブのテーマは「Smoky Medicine」(スモーキー・メディスン)。1973年に結成されたこのバンドは、18才だったChar をはじめメンバーが超若かったのにもかかわらず、演奏力と表現力の高さで大きな注目を集めた。しかしプロ・デビューすることなく翌年解散してしまったので「幻のバンド」と呼ばれている。この日はオリジナル・メンバーのChar (G/Vo)、金子マリ (Vo)、鳴瀬喜博 (B)、佐藤 準 (Key)に加えて、09年に逝去したドラマー藤井章司に代わって古田たかしが参加。「幻のバンド」が50年の時を経て蘇るとあってチケットは即ソルドアウトし、約3000人のオーディエンスが野音に詰めかけた。

朝からの雨が上がった17時にライブがスタート。サポート・パーカッションを含む6人のメンバーがステージに登場すると、会場から大きな拍手と歓声が起こる。1曲目は「Going Down」だ。Smoky Medicineはオリジナル・アルバムを残していない。それでも当時の彼らはライブで実力を示した。その際、オリジナル曲の他、洋楽カバー曲でセットリストを構成していた。「Going Down」は第2期ジェフ・ベック・グループの曲で、Smoky Medicineはこのグループのナンバーを得意のレパートリーにしていたから、まずは自分たちのルーツを披露しようというわけだ。その心意気に会場は沸き、Charの力強いギターがバンドと野音を牽引していく。
「この舞台にこのメンバーで立つのは50年ぶり。まるで昨日のことのようだね。ジェフ・ベックがあっち側に行っちゃったんで、トリビュートも兼ねてやります」とChar。
ベックは今年1月に亡くなった。エリック・クラプトン、ジミー・ペイジと並んで3大ギタリストと称されたギター・ヒーローは、CharだけでなくSmoky Medicineの他のメンバーにも大きな影響を与えた。立て続けに5曲。追悼の気持ちがこもったセットリストだ。4曲目の「Tonight I’ll Be Staying Here With You」で、Charがベックを彷彿とさせる鋭い高音をギターで発すると歓声が上がる。オーディエンスも年季の入ったロックファンで、このライブの意義深さが感じられる瞬間だった。70年代前半の世界最先端のロックを日本の10代の若者たちが演奏していたのだから、当時の音楽ファンは驚いたに違いない。

オリジナル曲やメンバーのソロ作品などを取り混ぜてライブは進行する。Smoky Medicineはアマチュアのまま解散したが、メンバーたちはそれぞれその後のロックシーンをリードする存在となり、互いのレコーディングに力を貸し合った。金子マリの「Get To Paradise」や「Don’t Cry My Baby」は、Smoky Medicineがあったからこそ生まれた佳曲だろう。
中でも印象に残ったのは、日本語詞のラブバラード「HONEY」だった。金子が切々と歌えば、佐藤のピアノがそれを包み込む。鳴瀬と古田がどっしりとしたビートを刻み、そのすべてを受け止めて弾くCharのギター・ソロが出色の出来だった。静まり返って聴き入るオーディエンスからため息が漏れる。曇天の野音そのもののような演奏に全員が酔いしれたのだった。
ライブ後半はCharが鳴瀬に提供した「Sixty Sicks」など、アッパーな曲が並ぶ。本編最後の「SHOW WHAT YOU’VE GOT INSIDE OF YOU」で観客は総立ちになり、Charのリードするコール&レスポンスで野音の100周年を盛大に祝った。 

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