水曜日のカンパネラ・詩羽が初日本武道館ワンマンで見せた「笑顔の涙」、桃の中や宙に浮かび歌った、とびっきりのエンターテインメント

水曜日のカンパネラが2024年3月16日(土)に、7年ぶり、詩羽体制になって初めての日本武道館単独公演「METEO SHOWER」を開催した。

以下、その様子をレポートする。

【ライブ本編】
水曜日のカンパネラのボーカルがコムアイから詩羽へ引き継がれたのが、2021年9月のこと。

そこからわずか2年半にして、新体制の水曜日のカンパネラが日本武道館のステージに立つとは誰が予想しただろう。

少なくとも、水曜日のカンパネラのメンバーである3人――詩羽、サウンドプロデューサーのケンモチヒデフミ、何でも屋のDir.Fはこの日を信じていたに違いない。

日本武道館はミュージシャンにとって特別な会場だ。それは水曜日のカンパネラにおいても例外ではない。

初代歌唱のコムアイは武道館公演を機に、よりディープでアートな方向へと進んでいった。

詩羽は、この日をどのような想いで迎えたのだろう。事前のインタビューで彼女は「本当に良い意味で皆さんも軽い気持ちで来てよ、くらいの感じで今の段階では考えています」と発言していた。

いざ本番当日、果たしてどのような公演になるのか。

春のように暖かく晴れた土曜日。

会場には水曜日のカンパネラの記念すべき1日を見届けようと、老若男女多くのファンたちが詰めかけた。

会場が暗転し客席から大きな歓声が湧き起こると、徐々にスピードアップしていくビート音に合わせてセンターステージから天井に向けて光が放たれた。

4人のウサギの仮面を被ったダンサーたちが花道をゆっくりと渡っていきビート音が鳴り止むと、センターステージの床からウサギの仮面をつけた詩羽が登場。湧き上がる声援の中、詩羽体制はじまりの楽曲「アリス」を歌い始めた。

途中で曲が鳴り止み、詩羽が仮面をとって素顔を見せると、「水曜日のカンパネラです! 今日は最高に楽しんでいきましょう!」と笑顔で叫び、さらに大きな歓声と手拍子が起こった。

再びアリスの続きをパフォーマンスすると、続けて同じく詩羽体制の初楽曲「バッキンガム」を強いアタックのビートに乗せて歌った。

そのままコムアイ時代に誕生した楽曲「シャクシャイン」に繋げると、「ラー」「アラジン」と初期水カン時代の楽曲をノンストップメドレーでパフォーマンス。「アラジン」では、ほうきでステージを履くお茶目なパフォーマンスも見せた。

詩羽が「やっほー!」とセンターステージを歩き回りながら、お客さんたちに手を振り挨拶すると「かわいー!!」とレスポンスが起こった。

衣装は、ビックラブを表現した装飾を3Dプリンターで作成し胸元につけた詩羽らしいデザインだ。

「最高!」「いつも通りのライブをこの大きい会場で最高に楽しんでいけたらと思うんですけど、盛り上がる準備はできてますか?」と語り、初代カンパネラから歌い継がれてきた「ディアブロ」へ。

お風呂について歌ったユニークな楽曲で、「いい湯だね♪」という歌詞に合わせて起こるコール&レスポンスがお馴染みの楽曲だ。

振り付けの練習をお客さんたちとすると、一緒に声出し振りをして一体感を生み出した。

続けて、高速道路にまつわる単語と忍者の世界観を掛け合わせた「シャドウ」を披露。「聖徳太子」のイントロが流れると、銀の服を着た同じ髪型のダンサー6人が登場。

ステージの詩羽と合流すると、「ハンズアップ!」という詩羽の掛け声をきっかけに観客たちも手を左右に振り盛り上がりは加速していった。

ステージ中央から詩羽が消えると、「オードリー」のダンサブルなインストトラックと観客の手拍子に合わせて6人のダンサーたちが踊って観客たちを魅了した。

ダンサーたちがステージを後にすると、モニターにはオオカミの独占インタビューが映し出される。

これまでライブで「赤ずきん」を披露する際に登場して一緒にダンスをするなど、ファンにはお馴染みのキャラクターだ。

画面には「独占取材に成功」という文字とともに、オオカミのインタビューが映し出されていく。

「なぜ騙すのか?」という問いに、意気揚々と気持ちよさそうに語り出すオオカミ。

オオカミは「詩羽はビジネスパートナー」と語りながら、武道館公演への意気込みを調子に乗って語っていく。

映像が終わると、ステージ中央に置かれたコタツにうつぶせて寝ているフリをしたオオカミに向い、衣装チェンジした詩羽が「赤ずきん」を歌いながら歩いて近づいていく。このまま騙されてオオカミに食べられてしまうのか?と思いきや、「さすがにバレてるぞ!」という歌詞と連動して、オオカミは慌てて動き始めた。

サビになると、詩羽と背中合わせにステージの端に立ちダンスをする。見た目に反して、オオカミによるダンスの動きはしなやかだ。楽曲の途中でコタツに頭から顔を突っ込み隠れたオオカミ。キラキラのジャケットを身に纏い「祝武道館」と書かれたコタツ布団とともにステージを後にした。

詩羽が、この日2着目の衣装を見せながらステージを歩き回ると、「かわいー!」と客席から声があがった。

この日の衣装は、THE FIRST TAKEの「エジソン」の衣装も制作したDOKKA vividが全て制作したという。

「今日、一番私がかわいいと思う!」と笑顔で語った詩羽は告知タイムへ。

オオカミの持つカンペを見ながら、アナログ版をリリースしたこと、コラボスニーカー受注開始、グッズの販売に加え、6月に3rd EP『POP DELIVERY』にリリースすること、7月にZeppツアー「POP DELIVERY」を開催することを発表すると大きな声援が会場を包んだ。

子供たちの声が聞こえ、「そんな幸せなことあっていいのかというくらい幸せです! 

いつかみんなここに立つんだと!」と子供達に向けてメッセージを伝えた。

「まだまだ盛り上がれますか?」と観客たちに投げかけ、ステージの空中で揺れる赤と白が入り混じる照明の下で「キャロライナ」を熱唱。詩羽の伸びと声量ある歌声が武道館を包んだ。

詩羽が観客たちにスマホのライトをつけるようアナウンスすると、スマホのライトが360度から照らす中で「織姫」へ。

まるで宇宙にいるようなドリーミーな光景の中、じっくり歌い上げた。

そのまま激しいビートの展開が続いていく「卑弥呼」を披露すると、最新曲「たまものまえ」では刑事の格好と鑑識の格好をしたダンサーたちが登場。

刑事と鑑識がキレ良く、どこか無機質にダンスする光景は、異世界にトリップしたかのような錯覚に誘われるようだった。

続く「かぐや姫」では、詩羽がハーネスを身につけ、武道館の宙へと舞い上がった。

空中に浮かんだ詩羽は、竹のように天に向けて光る緑色のライトの中、水カン歴代楽曲の中でも最も荘厳で静と動の対比が強く浮かび上がる同楽曲を丁寧に熱唱した。ステージ上には立体的で宇宙的な照明が燦々と輝き、「かぐや姫」の世界を見事に表現してみせた。

会場に雑踏の喧騒音が流れると、スーツを着た人たちや女子高生などが登場し、ステージに渋谷の街が再現された。

「モヤイ」のトラックが流れ、詩羽が同楽曲を歌い始めると、路上ライブをやっている雰囲気にステージ上の通行人たちが集まってくる。

観客となった彼らは詩羽のライブに手を挙げ盛り上がる。

「日本武道館、最後まで盛り上がれますか?」と、ステージ外の観客達にも呼びかけると、会場にいる観客たちとともに大きな盛り上がりを生み出していく。

同楽曲を歌い終え、詩羽が女子高生たちと写真を撮っていると、ブッブーとクラクションが鳴った。

そして「ティンカーベル」のイントロが流れ始めると、ステージ上の通行人たちは時間が止まったかのように動かなくなってしまう。

真っ暗な中、懐中電灯で光を灯しながら、ステージ上を歩き回りながら歌い上げる不思議な世界観を演出し、再び詩羽はステージから姿を消した。

ちゃぽんちゃぽんと水が流れる音が流れると、画面には桃太郎の物語が流れ始めた。

至ってスタンダードな桃太郎の物語だ。一通り物語が終わると、「と、ここまではみんなが知っている桃太郎ですが、こんな桃太郎もあるそうです」と暗転。

「桃太郎」のイントロが流れ、アリーナ後方に光る桃が登場した。

会場がざわめく中、パカリと桃が割れると、中には衣装チェンジした詩羽の姿が。

すると桃が動き始め、センターステージの周りをグルグルと進んでいく。その周りには猿と犬と雉もいる。桃の中で詩羽は「桃太郎」を歌いながら、きびだんごを模したボールを客席に向けて投げ入れていく。

楽曲を歌い終え、花道に到着した詩羽は桃から降り、ステージ中央へ。

初代水カン時代から変わらぬ振り付けを観客とともに行い盛り上がりをみせる。

そして、初代水カンのヒット曲「一休さん」、「ツイッギー」を連続して披露、盛り上がりはさらに加速していく。

続けて5人のダンサーたちが登場すると、中央の詩羽を起点にソウルフルなダンスチューン「金剛力士像」で艶っぽいダンスを見せた。

ダンサーたちの立膝の上に腰掛け歌う見事なフォーメーションなど、ステージ上のパフォーマンスに観客たちは魅せられた。

詩羽は普段のツアーやライブでステージにお客さんを上げる演出を行なっていることを語り、アリーナ席から4人をステージにあげてパフォーマンスすることを明らかにした。

ステージにあがったメンバーに年齢を尋ねると、20歳、9歳、21歳、還暦というバラバラの4人。

パフォーマーとして参加することになった4人とともに詩羽は「一寸法師」をパフォーマンス。打出の小槌を手に持った4人のパフォーマーたちとともに、ステージ上を駆け巡りながら詩羽は飛び跳ね、客席もジャンプをしながら盛り上がりを見せた。

そして、この日3着目となる衣装を披露すると、「かわいい!」という声が再び会場を飛び交った。

サイバー感があり詩羽になってからの水曜日のカンパネラらしさを表現したものだという。

「お客さんをステージにあげるのはどうしてもやりたかった」と詩羽は語り、好きなアーティストと同じステージに立つことで、もっとおもしろいことを探していけるようになってほしいと、お客さんを絶対あげたかった想いを明かした。

そして、このライブが残り4曲であること、アンコールがないことを伝え、この日最後のMCに想いを込めて語った。

「フォトエッセイを出版させていただきました。この書籍には、私が水曜日のカンパネラになるに至るまでの人生を書かせてもらったんですけど、結構重くて、苦しくて、誰かからしたら経験したことがあることが書かれてるんじゃないかと思うんです。水カンの活動がはじまるまで、高校生まで、上手に生きることができなくて。友達がいなかったり、すごいいろんなことがあって、生きているのが辛かった時期があって。死んじゃおうかなと思う時期がありました。なかなか愛のない生活をしていたんですけど、この活動をして、みんなに馬鹿みたいに愛されるようになって。歌っていると、みんながすごい優しい目で見てくれて。愛をたくさんくれて、私にとってかけがえのない時間になっています。自分のことを好きになれなかったけど、自分の好きなものを好きでいれる世界にしたくてこの活動をしています。私の明日を作ってくださるのは、ここにいるみなさんの大きな愛のおかげなので、あらためてありがとうございますと感謝を伝えたいです。愛しています」

鳴り止まない暖かい拍手に対して、笑顔のまま涙が止まらない詩羽。必死に笑顔でいながら涙が止まらない。

「自分の好きなものを好きといえるよう、自分の普通を大事にしていけるよう、少しでもよい社会にしていけたらと思うので、一日も長く一緒に生きていけたらと思います。生きるぞ、みんな!」。

詩羽が力強くメッセージを発すると、「ちびちゃんからおじおじまで、たくさんの人たちが来てくれているので、改めて自分のことを好きになってほしい。あんたたちは、あんたたちが大好きな私のことを元気にしているんですよ。そういう人が自己肯定感低いのはダメだから。あんたたちのおかげで元気になってるんだからね!」と再び精一杯の愛情を観客達に伝えた。

そして、水カンチームでいつもライブ前にやっている円陣の掛け声「みんなかわいい! 天才! さいこう!」を観客ととも全員で叫び、レゲエ調の楽曲「マーメイド」へ。

勢いある楽曲に呼応するように、6人の海を模した姿のダンサーたちが走って登場。

スモークがかったステージで動く姿は波のようでまさに海といった様相だ。レゲエのホーンとブレイクビーツが絡み合ったアゲアゲな楽曲に乗せて、タオル回しでステージ上だけでなく会場一体が真夏のように彩られる。

ステージの周りには大漁旗を振る海の男たちの姿も現れている。会場の熱がさらに上がると、腹に響くようなバスドラのキックと、パラパラをより入れたダンスというミスマッチさがユニークな「七福神」へ。

手拍子が沸き起こり詩羽が歌唱する。それを呼応するように、宝船に乗ったオオカミがステージの周りを駆け巡って盛り上げる。

再びオオカミがステージに乗ると、リズミカルにダンスをして観客たちをさらに勢いづかせた。

同楽曲が終わり大きな歓声が起こると、詩羽体制最大のヒット曲「エジソン」へ。詩羽が観客にマイクを向けると、合唱が起こった。

詩羽の頭上で煌めく照明と、客席で色とりどりに光るライトがあまりに綺麗な光景だ。

「エジソン」を歌い終え、客席に向けて愛を込めた投げキッスをすると、「本当に最後の曲です! 一緒に楽しんでいってください!」と、現在の水カンのライブの最終曲としてお馴染みの「招き猫」のイントロが流れ始め、巨大な招き猫が登場した。

普段のライブでは1匹だが、なんと3匹も登場。ステージ中央に背中合わせに鎮座した招き猫たちとともに詩羽は歌い、観客たちも福を招く振り付けを一緒に行った。

「最後みんなでバンザイやりますよ!」と、会場全員でバンザイをしながら同楽曲歌うと、小判のように金色に光る紙吹雪が武道館の宙を舞い散る中、水曜日のカンパネラ2度目の武道館ワンマンは大団円を迎えた。

「愛してるよ!」と力一杯叫び、花道を帰る詩羽は「みんなまた会おうね!ばいばい!」とメッセージを残し、ステージを後にした。

水曜日のカンパネラの活動をスタートさせる際、「みんなの自己肯定感を上げていきたい」と語っていた詩羽。

その想いはこの日武道館に集った数千人にしっかりと伝わったことだろう。

そして、その想いは、武道館公演を経ても変わらず、様々な会場で伝えていくことに違いない。

詩羽が何を大事にして、どうしてステージに立っているのか。

それが切実に伝わってくる、いまの水曜日のカンパネラの本質を改めて示した武道館ワンマンだった。

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