9月21日(土)、姉のMonaと妹のHinaによるユニット・Kitriが、京都教育文化センターにてメジャーデビュー5周年を記念したワンマンライブ『Five years pieces』を開催した。これまでのKitriの軌跡を辿りつつも、最新のクリエイティブも提示した、濃厚で特別な夜となった。今回はそんな一夜限りの素敵なライブの様子をレポートしよう。
今回の公演は、“Five years pieces=5年分の作品”というタイトルが冠された通り、2019年のメジャーデビュー以来、彼女たちが作り上げてきた楽曲たちと、開催してきたライブたちのピースをギュッと詰め込んだ、現時点の集大成とも言えるものだった。
会場は京都府左京区にある京都教育文化センター。京都府公立学校の教職員が力を合わせて1964年に設立した文化施設だ。佇まいからも60年の歴史を感じる、趣のあるホール。京都在住のKitriにとっては、地元での公演ということで特別感はひとしお。ロビーには、関係者から届いた5周年を祝うお花がたくさん並んでいた。
ステージには、下手にグランドピアノ、中央に2台のキーボードやシンセ、上手にチェロ、ギター、マンドリンがセッティングされていた。この日サポートをつとめるのは、2019年〜2022年まで年に2回ずつ行われたワンマンライブ『キトリの音楽会』にもずっと出演していた羊毛(Gt.&Mand./羊毛とおはな)と吉良都(Vc.)。Kitriとは気心の知れた関係性だ。
ライブはKitriのデビューからの歩みを辿るように、アンコールを除く全3幕のパートから構成された。MCはほとんどなし。パートごとに衣装を変えながら、丁寧に、ある種ストイックに、約2時間のライブを走り抜けた。
ケイト・ブッシュの『Night Scented Stock』が流れ、MonaとHinaが登場すると、客席は大きな拍手でふたりを迎える。第一幕のテーマは“Rouge”。Kitriのデビュー当時のイメージカラーである“赤”のワンピースを身に纏い、グランドピアノ前に置かれた長椅子にふたりで腰掛ける。照明によって赤く染められたステージで、早速連弾を奏で始めた。左側に座ったMonaが低音域を、右側に座ったHinaが高音域を担当し、各々フレーズをループさせていく。徐々に強度を増す波のような高音の美しさに浸っていると、赤い衣装を着た羊毛と吉良がジョイン。一気にサウンドの厚みと表情が変化し、MonaとHinaの<ハーァー>というコーラスが重なって最高の高まりを見せたかと思うとパッと演奏が止み、余韻が会場を包み込んだ。
Hinaがピアノを離れ、ステージ中央にハの字型に置かれたキーボードの前へ移動すると、Monaの前奏から始まったのは『Akari』。伸びやかで少しかすみのかかったMonaの歌声は、美しくどこか寂しさも感じられる。Hinaはコンサティーナを弾きながら柔らかくコーラスを重ねていき、羊毛と吉良はふたりの演奏をしっかりと支えながら、息ぴったりで4人で良い空気を作っていった。
Monaはピアノに座ったまま後ろを振り向き、「皆さん、今日はKitri『Five years pieces』にようこそお越しくださいました。今日は一緒に楽しい時間にできたら嬉しいです。ぜひたくさんたっぷり楽しんでください」と笑顔を浮かべ、控えめな声量で挨拶した。Hinaもニコニコ微笑む。ふたりともはんなりおっとりした雰囲気ながら、演奏中に見せる力強さや表現力のギャップがたまらない。
羊毛のカウントから始まったのは『水とシンフォニア』。Hinaは再びMonaの隣に座り、跳ねるように鍵盤を叩く。良質でポップなメロディーに爽やかなMonaの歌声が乗って会場を満たしていく。途中でグリーグ作曲の『ペール・ギュント組曲』の『朝』が組み込まれる展開も面白い。<ドラマチックな旅路><少しずつ行こう>という歌詞や、原曲よりも軽やかで疾走感のあるアレンジは、今日のライブの幕開けを祝福しているようにも感じ取れた。
続き、原曲のシャッフルビートの代わりに吉良のチェロがボトムに広がって不思議な無機質さを感じさせた『人間プログラム』、Hinaがボンゴを叩き、抜群のストーリー性と情熱的なハーモニーで異国感を醸し出した『赤い月』、超絶グッドメロディーと優しく染み渡る歌声、共感性の高い歌詞がリスナーの背中を押した『ヒカレイノチ』と、実にバラエティ豊かな楽曲たちを紡いでいく。
そして、まだ音源化されていないがファンの間でも人気の高い『時の詩』を、羊毛のギターに乗せて歌う。語るように歌う彼女の声には吸い込まれるような魅力があり、クライマックスに向けてパワフルになるアレンジに、オーディエンスはすっかり耳を潤し酔いしれたのだった。第一幕は2020年〜2021年にリリースされたアルバム『Kitrist』『Kitrist Ⅱ』の楽曲を中心にセットリストが組まれていた。MonaとHinaはスッと立ち上がり、ステージをはける。
照明が青に変わり、まるで海の底のような空間の中で、羊毛と吉良がゆったりと音色を奏でて場を繋ぐと、黒いワンピースに着替えたMonaとHinaが再び登場し、第二幕の“Noir”のパートへ。2022年に『キトリの音楽会』を一旦終了し、2023年夏から新たに始まった「Blanc Noir」シリーズへと歩みを進める。“黒い、暗闇、毒のある”という意味の“Noir”は、MonaとHinaふたりだけのステージで、デジタルサウンドを取り入れた楽曲や、Kitriの影の部分を感じる楽曲を演奏していった。
最初に演奏されたのは、未音源化の新曲だ。MonaとHinaはそれぞれキーボードとシンセの前に立ち、PCでの同期やコントローラーも使いながら、低音のデジタルビートをどんどん繰り出し、第一幕とは違う世界へとオーディエンスを連れていく。ピアノを弾いていた時は客席に背中を向けていたが、正面を向いたことでふたりの手元がよく見え、オーディエンスも“どこからこの音が鳴っているんだろう”と言わんばかりに、食い入るように演奏を見つめていた。曲の途中ではHinaがMonaのキーボードの隣に行って力強く連弾をする場面もあり、展開の多さに驚きを隠せない。壮大な世界観の中にどこかひんやりした印象を感じるナンバーだった。
続いては、TVアニメ『事情を知らない転校生がグイグイくる。』に書き下ろした『ココロネ』。Monaは打ち込みのビートに乗せてキーボードを弾き、なめらかに早口ボーカルを繰り出していく。後半のコーラスワークは思わずぞわりとするほどのテクニックが光り、ふたりのバックグラウンドに裏打ちされた実力をひしひしと感じることができた。Hinaがコントローラーを操ってルーパーのようにフレーズを繰り返す様子に目を奪われていると、いつのまにかシームレスに次の曲に移行していたことに気付く。
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