スクエアプッシャーは真鍋大度(Rhizomatiks)と映像ディレクターの清水憲一郎(Pele)がディレクションを手掛けた“Terminal Slam”のミュージック・ビデオがオーストリアのリンツで開催されるメディア芸術祭「アルス・エレクトロニカ」でコンピューターアニメーション部門の「栄誉賞」を受賞している。
真鍋大度は「アルス・エレクトロニカ賞 2011」で石橋素との共作「particles」がインタラクティヴ・アート部門で準グランプリを受賞しているほか、「アルス・エレクトロニカ賞 2013」で「Perfume Global Site Project」が栄誉賞を受賞、「アルス・エレクトロニカ賞 2014」で「Sound of Honda / Ayrton Senna 1989」が栄誉賞を受賞、「アルス・エレクトロニカ賞 2016」でノサッジ・シングのミュージック・ビデオ“Cold Stares ft. Chance The Rapper + The O’My’s”が準グランプリを受賞して以来5度目の受賞、清水にとっては初めての受賞となる。
アルス・エレクトロニカでは“Terminal Slam”のミュージック・ビデオについて「このミュージックビデオは、実写映像と、コンピューターで処理された画像が、視覚的にも音楽的にも息をのむほど美しく組み合わされている。しかしそれだけではなく、現代社会が日々直面している、プライバシーの喪失や、データマイニングやマーケティングなどのデータ解析、監視社会などのテーマにも触れている。AI によって歩行者たちのグリッチがはじまるとともに、広告スペースをハッキングしていくように映像が変化する。音楽がクライマックスに近づくにつれて、看板やスクリーンから激しく脈動するCGも効果的に使われており、この作品は広告的エンターテインメント性、技術的な進歩や芸術的な革新、さらには人々の意識を高めていくという重要な文化的観点とともに、社会がバランスをとっていかなければいけないというよい例を示している」と評価している。
“Terminal Slam”のミュージック・ビデオはこちらから。
真鍋大度は受賞について次のようにコメントしている。「機械学習、AIによる自動化を用いた表現は現代では珍しいものではなくなってきました。本作品でも人のシルエットを取得する部分に関しては Semantic Segmentation の技術を用いて全て自動で行っています。しかし、本作品ではVFXのチーム、Nomadが広告のエリアを手作業で取得したり、グリッチの表現を極限まで高めるためにスクエアプッシャーと共に一フレームずつコマ送りして、肉眼で確認作業を行い、何度もグリッチ生成のパラメーターを変える作業を行うなど、人間が時間をかけて行わないと実現できない作業があるということを再認識できる良い制作となりました。アルスのようにアウトプットだけでなくコンセプトも重要視される場所で本作品を評価してもらえたことをスタッフ一同喜んでおります。今後は本MVのアイディアを元にAR・MR技術を開発する企業と協業し、新たなコンテンツをリリースすることを予定していますので、楽しみにしていてください」
清水憲一郎は受賞について次のようにコメントしている。「まずはこのような名誉ある賞をいただき、大変光栄です。MVの制作に当たり、スクエアプッシャーと真鍋さんが考えたテーマや技術的アイディアを初めて聞いたときは、どのように映像化し、視覚的に表現していこうか、とても悩みました。『街頭広告が自在に変化する』というコンセンプトを軸に、渋谷や原宿、六本木など街を歩きながらリサーチし、撮影を重ねました。さらに、スクエアプッシャーのMVとして、ファンの皆様に楽しんでもらえるよう、楽曲の盛り上がりに合わせて、映像の配分や背景の使い方などにこだわり、躍動感を加えていきました。広告の著作権や人々の肖像・プライバシーの問題を、あえて逆手にとって、エフェクトに変えていくという発想の転換で、撮影、プログラミング、CG、とそれぞれのプロフェッショナルがアイディアを出し合い、数々の困難も解決しながら、素晴らしい作品を創り上げることができました。『街の広告』という日常にある光景が、社会的テーマを持った映像になっていく過程は、とても刺激的でした。このような機会を与えてくださったスクエアプッシャーや真鍋さん、そしてスタッフの皆様に心より感謝申し上げます」
スクエアプッシャーは2021年2月に来日公演を行うことが決定している。