2000年代から日本のロックシーンを牽引し、今も絶大な影響力を誇る、Pay money To my Pain(以下、PTP)。11月17日、彼らのこれまでの軌跡を収めたドキュメンタリー映画『SUNRISE TO SUNSET』が、劇場公開された。
本作は、04年にK(vo)、PABLO(g)、08年脱退のJIN(g)、T$UYO$HI(b)、ZAX(ds)によってPTPが結成され、12年のKの急逝を乗り越え完成させた4thアルバム『gene』と、13年12月の『From here to somewhere』の活動休止ライブを経て、20年に開催された『BLARE FEST.2020』の一夜限りの復活まで、5,623日に及ぶ膨大な映像を基に完成した。 活動休止後も、年を追うごとにそのカリスマ性がますます高まっていくPTP。そんな彼らだけあって、この『SUNRISE TO SUNSET』は、22年12月30日に約40秒間の告知動画が公開されると、SNSを中心に大きな話題を集め、前売り券は非常に好調なセールスを記録。公開初日から、映画館のPTP関連グッズがほぼ売り切れという盛況ぶりだった。
開演時刻の19時、会場となった新宿バルト9のロビーには、PTPのロゴが入ったTシャツやパーカーを身に付けた、新旧の幅広い年齢層のファンが集まっており、活動休止から約10年の歳月が過ぎた今も、バンドに対する根強い人気を実感する。
17日の舞台挨拶にはPABLO、T$UYO$HI、ZAX、監督の茂木将が登壇し、ZAXが「PTP日和ですね今日は、ありがとうございます」と、17日昼までの雨とKが最後にボーカルを収録した『gene』の「Rain」を連想させる、彼らしい小粋なコメントで久々に集結したファンを和ませる。また、ZAXは「印象は変わんないです。大好きやったんで。ほんまにKって奴はとんでもない奴だった。素晴らしいボーカリストで詩人。この映画で改めてそこに気付かされた」と語り、「何回も観たけど、素晴らしいものができた。いいバンドやなって思いました。どうしても苦しかったり、寂しかったりした想い出が強くて。でも、結成当時からの映像を観て感動しました」と、嬉しそうに自身の想いを述べた。
茂木は「『BLARE FEST.2020』のトータルディレクションをしていて、イベント終了時にたくさんのファンの方から『PTPの映像をどこかで公開しないのですか?』という声をもらい、なんとか形にしたいと思っていました」と語り、「配信など色々な方法がありましたが、こういう場所にPTPを愛している皆さんが集まれて、また思い出として人生の一部になるような体験を作りたかったので、タナケンさん(田中健太郎プロデューサー)に相談しました。映画として公開するなら、彼らのアーカイブからヒストリーを作るべきだと思いました」と、製作を決意した経緯を述べた。
茂木の説明にもある通り、『SUNRISE TO SUNSET』は、04年PTPの結成から13年の活動休止までのアーカイブ映像と、奇跡の復活を果たした『BLARE FEST.2020』の伝説となったライブ演奏という、2つの要素で構成されている。茂木は「自分で脚色せずに、事実だけを抽出することを心掛けました。劇中のインタビューに関しては“PTPが残したものは何か?”というコンセプトを基にしています」と語っていたが、本作のアーカイブとして、彼は3,000本以上の膨大な動画ファイルを丁寧に吟味しながら、この濃密な145分のストーリーを、見事にまとめ上げていった。
前半のヒストリー映像では、PTPと同世代のJESSE(The BONEZ、RIZE)、Kj(Dragon Ash)、PTPに多大な影響を受けたより若い世代のMasato(coldrain)、葉月(lynch.)、Taka(ONE OK ROCK)、KoieとTeru(Crossfaith)、Hiro(MY FIRST STORY)といった、現在のロックシーンを牽引するミュージシャンの愛情あふれるメッセージが収録され、彼らの喜怒哀楽に満ちたPTPとの様々なエピソードは、どれも興味深いものだった。
T$UYO$HIは「『BLARE FEST.2020』が終わってから編集された映像をもらい、日が経ってからそれを観たら、とんでもなくいいものだったので、それを俺たちだけの思い出の映像にしておくのはどうなのかなと。やはり世に出すべきなのではないかという話をしました」と、『BLARE FEST.2020』で復活を果たしたPTPのパフォーマンスに、明確な手応えを感じていたことを語った。
PABLOが「初期の頃のカリフォルニアのスタジオでのレコーディングの映像、あれ、ウチの下駄箱の中にMiniDVのテープが入っていた(笑)」と語ると、T$UYO$HIが「タナケンさん今はワーナーだけど、昔バップに在籍していたから、あるならバップの社内にあるんじゃないって、Zoom会議で話したよね」と、マスターテープ発見に関するエピソードを披露すると、会場のファンから驚きの声が上がる。
『SUNRISE TO SUNSET』を観て、筆者が特に興味深かったのは、PTPが1stシングル『Drop of INK』(06年)をレコーディングした時の光景だ。このレコーディングは、SYSTEM OF A DOWNやTOOLといったモンスターバンドを手掛けた、モダンメタル界の“名手”シルヴィア・マッシーをプロデューサーに迎え行われたのだが、この時、既に彼らを象徴する、激しく繊細で切ない“あの音”がバンドに宿っていたことが、とても強く印象に残った。
PABLOは「アメリカのバンドに負けないくらい巧いのは当たり前。そこに独自の“何か”を加え、試行錯誤を重ねることで、それがPTPのスタイルになっていった」と語る。この映画を通して、彼らを象徴するラウドロックという、独自の音楽性が確立していく経緯を体験できるのも、『SUNRISE TO SUNSET』の大きな魅力のひとつだ。
劇中、田中プロデューサーが「常識に囚われず、彼らはいつも自由であり続けた。自分にとって、こんな経験は、後にも先にもPTPだけだった」と話していたが、変化を恐れず、常に貪欲に音楽性を発展し続けたからこそ、PTPの音楽性は、今も唯一無二であり続けているのだと、強く確信した。
数々のドラマティックなシーンを経て、映画はいよいよハイライトとなる『BLARE FEST.2020』の衝撃的なパフォーマンスへと向かう。13年の活動休止後にPTPを知ったファンのために出演を決めたという、coldrain主催の『BLARE FEST.2020』。このライブでは、ゲストボーカルにMasato(coldrain)、葉月(lynch.)、MAH(SiM)、N∀OKIとNOBUYA(ROTTENGRAFFTY)、KoieとTeru(Crossfaith)、Taka(ONE OK ROCK)ら、現在のシーンを代表する実力派たちが集結し、セットリストはPTPの代表曲と、アルバム『gene』のナンバーをメインに構成された。PTPのメンバーや茂木監督も語っていたが、この『BLARE FEST.2020』のPTPのライブパフォーマンスは、凄まじいほどに圧巻。筆者は、これまで約20年もの間 、取材を通して国内外、数多くの素晴らしいバンドの演奏を目にしてきた。しかし、この『BLARE FEST.2020』のPTPの演奏ほどにエモーショナルで、ケタ違いのスケール感を内包したサウンドは、これまで一度も体験したことがない。これこそがPTP、そしてラウドロックの“真骨頂”なのだ!
ライブのラストナンバー「This life」で、スクリーンに『AIR JAM 2011』のエネルギッシュなKの姿が映し出されると、観客からは「K!」と、一際大きな歓声が上がる。そして、この感動的なシーンの中、筆者は劇中にT$UYO$HIが語り、映画のタイトルにも繋がる“Sunsetの幸せな高揚感”を体験したのだった。
映画終盤のインタビューシーンで、coldrainのMasatoがPTPに対する想いを語る。「PTPはひらたく言えばメチャ売れていたわけではないし、知らない人もいる。でも、刺さる人には刺さるし、人生を変えてしまうバンド。それが何よりも凄いし、ズルい!」。PTPを心からリスペクトし、現在のラウドロックを牽引するMasatoのこのコメントに、筆者は強く頷かされた。自分も多くのファンと同じく、PTPの音楽に出会い、それが今も心に刺さり続け、彼らの音楽が、それからの人生に“なくてはならないもの”になったからだ。
バンドメンバーとその仲間たち、そして、今も彼らを愛し続けるファンと関係者の強い絆が結実し完成した、『SUNRISE TO SUNSET』。この映画が、PTPと様々な音楽ファンを繋ぎ、多くの人々の心に残り続けることを、筆者は今、強く確信している。
Text by 細江高広