SUGIZO

SUGIZO 聖誕半世紀祭 HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.

DAY 1

LUNA SEA、X JAPANで活躍するSUGIZOの聖誕祭半世紀を祝う『SUGIZO 聖誕半世紀祭 HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.』が、SUGIZOの誕生日である7月8日と、誕生日の前日である7月7日の2日間、中野サンプラザホールで開催された。
その初日、7月7日の模様をレポートする。

定刻より30分ほど押しての開演。
SUGIZOのユニットS.T.K.メンバーである谷崎テトラが、DJとして会場時に実験的アンビエントを奏でる。シンセサイザーとPCで幻想的な音を鳴らし出す中、SUGIZOが登場しS.T.K.としての演奏が始まった。

SUGIZO

S.T.K.(Sensual Technology Kooks)のことを簡単に記しておくと、谷崎テトラは環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどのジャンルで活躍する作家、放送作家、メディア&音楽プロデューサー、トラックメーカー。その谷崎とSUGIZOのヴァイオリンが組み合わさった電子音響ユニット。2005年より活動を始め、これまでアースデイやピース・オン・アースなどメッセージを発信する重要なイベントに数多く出演してきた。
ステージ上で二人の醸し出す音はまるで、海の中にいるかのような神秘的で深淵だ。しかも、ステージには海の映像が映し出された。続いて映像が森へと変わり、二人の演奏も森の中にいるような壮大なものになる。
海から森へ……それはまるで生命の進化を辿っているかのようだった。そこへ、女性ヴォーカルのYaeが登場し、祈りのような美しい歌声を重ねて行く。
この地球の歴史を考えた時、人類の誕生は、大いなる変化をもたらしたと同時に、地球を破滅的な方向へとシフトさせてしまったのはご存知の通りだ。
果たして、この美しい歌声は、地球を破壊から逃がすための祈りなのか。それとも、破壊とも知らず、文明を謳歌する人類の無邪気な声なのか…。
この日、S.T.K.が約20分の持ち時間で演奏した曲は「Breath」という呼吸音をベースにしたアンビエント・サウンドスケープと六ヶ所村の核燃料再処理工場の問題を謳った「ROKKASHO」という2曲のみ。この壮大な曲は、オーディエンスに色々なことを語りかけた。
SUGIZOはギタリスト、ヴァイオリニスト、コンポーザーとしてだけではなく、環境問題、エネルギー問題、難民問題にも深くコミットしているアクティビストの一面があるが、
自らの聖誕祭の開幕に、今SUGIZOが最も関心を抱いていることをオーディエンスに問いかけるという、実にSUGIZOらしいものだった。

SUGIZO

S.T.K.はオープニングアクト的な立ち位置だったので、聖誕半世紀祭の事実上のトップバッターを務めたのがlynch.だ。 
SEの「AVANT GARDE」が流れると、満員の中野サンプラザは総立ちになり手拍子鳴らす。そこにメンバーが登場し1曲目「LAST NITE」を演奏。lynch.は1ケ月前の6月6日に自身の中野サンプラザ公演を大成功に収めたばかり。この日も貫禄すら感じるパフォーマンスで、1曲目からオーディエンスを熱狂へと引き込む。2曲目の「GALLOWS」が始まる前にヴォーカルの葉月が「中野!ようこそ処刑台へ」と煽り、葉月自らもデスヴォイスで会場のヴォルテージを更に上げた。
lynch.を体感すると、二つのことがくっきりとわかる。
一つが音の太さ。この日の演奏でいうと、3曲目に演奏した「CREATURE」でそれが顕著だったと思う。特に明徳のベースの鳴りは是非ともライヴで体感して欲しいし、ここ最近の骨太さが足が地に着いたlynch.の演奏を聴いていると、一音で観客をぶっ倒すベテランのパンクバンドあたりとの対バンが見たくなる。「実は僕は最近のヴィジュアル系のバンドが嫌い。個性がないし、演奏のクオリティも低いから」と公言するSUGIZOが自らの聖誕半世紀祭にlynch.を呼んだのがよくわかった。
二つ目がエロさだ。6曲目の「pulse」のMCで葉月が「全員でSEXしようぜ!」と言っていたのが象徴的だが、骨太でありながら、このバンドには色気というかエロさがある。それがまたこのバンドの魅力だし、ライヴではそれが毎回遺憾なく発揮されている。

SUGIZO

また、この日のステージでは、4曲目にSUGIZOが登場し、LUN ASEAの「IN FUTURE」をSUGIZO+ lynch.で演奏。この曲はライヴの際、ギターソロが終わった直後のリフをSUGIZOが一回ずつ止めるのか慣例だが、その部分をSUGIZO→玲央→悠介の順で回す演出をして会場を大いに沸かせた。
40分のステージだったが、lynch.はFESのトップバッターの役割を見事に果たした。

SUGIZO

lynch.の余韻が冷めないままの会場が暗転。
静寂の中、sukekiyoが登場。
sukekiyoとはDIR EN GREYのフロントマン・京のアザープロジェクト。SUGIZOが京のことを天才と称しているのを聞いたことがあるが、実際、DIR EN GREYのライヴを観る度に京ほどの唯一無二のヴォーカリストはいないと実感する。そして、そんな京が率いるバンド・sukeiyoも唯一無二の世界観を持っている。
1曲目は「偶像モラトリアム」。曲の世界観もさることながら、この曲を京は観客に背中を向けたまま歌い切った。実は、sukekiyoのライヴは、ライヴの常識をことごとく打ち破る、表現への挑戦がひとつのアイデンティティになっている。ワンマンライヴでは、ライヴの終盤までステージに網のような幕がかかっていたままだったり、オーディエンスは着席したままライヴを鑑賞することになっているし、京は歌う意外に言葉を一切発しない……など、エンタメ化・パターン化した昨今のライヴとは真逆の立ち位置にいる。エンタメ化したライヴをハリウッド映画とするならば、sukekiyoは単館系アート映画と言ってよい。実際、京はヤン・シュヴァンクマイエルの大ファンだと書けば、映画好きならsukekiyoの媚びないシュールな世界観は伝わると思う。
この日のライヴはsukekiyoのワンマンではないので、初めてsukekiyoのライヴを観る人もいて、1曲目の「偶像モラトリアム」の演奏開始時はスタンディングのオーディエンスも居たが、曲が進むにつれ、sukekiyoの世界観に引き込まれて、見渡せば全員が着席してsukekiyoの演奏、京の表現を食い入るように見て聞いている。所謂FESTで会場全員がこれだけ集中して演奏を観ている光景は珍しい。それくらい、sukekiyoのライヴは緊張感というか吸引力がある。
それでも、曲順が進むにつれ、オーディエンスは立ち上がり、身体を音楽に預けるようにライヴを楽しみだした。ワンマンでは観られない光景だが、それもあってか、バンドの演奏もどんどんエモーショナルになって行く。
そして、3曲目にLUNACYの「SHADE」が演奏された。「SAHDE」はLUNA SEA結成の年1989年に出来た曲。そうした意味のある、しかもマニアックなカヴァーをするあたりも流石は京だ。そして、この曲で着席モードだったオーディエンスはみな立ち上がり聖誕半世紀祭モードへ。聖誕半世紀祭という非日常×sukekiyoという掛け算でオーディエンスは、常識や慣習といったものから完全に解き放たれた。

SUGIZO

極めつけは7曲の「ただ、まだ、私。」。耽美的なピアノから始まるこの曲は、決して激しい曲ではないが、その抒情的な世界に完全に引き込まれてしまった。
そして、最後に「漂白フレーバー」を演奏。変拍子の不思議な曲で、GREATFUL DEADの 丁度半世紀前1969年の名盤『Live/Dead』の世界に迷い込んだ感覚にとらわれた。曰く、JAZZYでACID、懐かしくて斬新な音の世界だ。こんな曲を作り、表現し仕切れる京というヴォーカリストはどこまで深化するのか、その才能に改めて脱帽すると同時に、SUGIZOの“京は天才”の言葉が腑に落ちた。

SUGIZO

そして、トリはSUGIZO COSMIC DANCE QUINTET。 
COSMIC DANCE QUINTET(C.D.Q.)はSUGIZOのソロプロジェクトの核となるバンドだが、知らない方のために書いておくと、ヴィジュアル系音楽とは全く違うアプローチで、テクノ、サイケデリックトランス、ダブ等を基調としたエレクトロニクスサウンドで、バンドもドラム、パーカッション、マニュピレーター&シンセサイザーの3人+SUGIZO(ギター、ヴァイオリン)に加え、映像作家&VJ、という5人編成でのインストがメインだ。

SUGIZO

19:50会場が暗転。ステージのスクリーンにはSUGIZOがタトゥーにも入れている<フラワー・オブ・ライフ>の模様が映し出され、SEの「THE LAST IRA」が流れる中メンバーがステージに登場。続いてSUGIZOも登場し「改めてSUGIZOです。一緒に昇天しましょう」と短いMCを挟んで、1曲目の「IRA」がスタートした。ソリッドなリズム、レーザービーム、そしてSUGIZOのエモーショナルなギターで、早速サイケデリック&アヴァンギャルド・ワールドを満開にさせ超満員の中野サンプラザを昇天させる。

SUGIZO

2曲目もサイケデリックトランスな「MESSIAH」。曲の途中でSUGIZOがクルクルと回るのを見て、SUGIZOは重厚でありながら華麗な稀有なギタリストなんだなぁと実感した。また最初の2曲で中野サンプラザが海外のレイブパーティーのように揺れていたのが印象的だった。3曲目は「Lux Aeterna」。一転して耽美的で深淵な音の世界が繰り広げられた。しかも、VJが繰り出す映像は、戦争や難民の子供たちを映し出す。

SUGIZO

「MESSIAH」で躍らせ、「Lux Aeterna」でメッセージをぶち込んでくるのは音楽人生30年のキャリアを持つSUGIZOならではの構成だ。というのも、大切なことは、机で勉強しているだけでは、頭で理解しても、心が付いていかず、生きた知識にはならない。ダンスで身体を揺らし、汗をかきながら、メッセージを体感する方が、より人の奥の方へ届く。そんなことをSUGIZOは30年というキャリアの中で自然と得したような曲順だった。余談だが、50年以上のキャリアを誇るアメリカのソウル・グループ、オージェイズが最後のアルバムをリリースした。ダンスフロアからメッセージをというのがテーマにあるアルバムで、最高のダンスチューンのみが収録曲だが、社会問題を扱っている名盤。このアルバムの構成も素晴らしく、フィジカルに躍らせて、問題を身体に沁み込ませてくる。

SUGIZO

4曲目は「Proxima Centauri」。SUGIZOがヴァイオリンを奏でる宇宙的な壮大な曲だ。こうした壮大の曲を聴くと、人間の小ささと同時、人間の傲慢さみたいのものに気付かされてしまう。SUGIZOの曲はインストだが、ヴァイオリンもギターもどこまでも雄弁だ。

5曲目は京をゲストに迎え「絶彩feat.京」を演奏。2017年のアルバム『ONENESS M』に収録されているが、アルバムの音源同様にライヴで京をフィーチャーしたのは今回が初。しかもSUGIZO自身が「ライヴで京くんを迎えてこの曲を演奏するのはこれが最初で最後だと思う」と公言していてスーパーレアなライヴ演奏だけに、オーディエンスはその演奏をかみしめるように聴いていた。

SUGIZO

1

2 3