Sting

Sting、昨夜の幕張公演はアンコールを含め全20曲をパフォーマンス

『マイ・ソングス』の制作を通じて、自身の名曲群を徹底的に見つめ直したスティングが新たな想いで臨んだ、究極のベスト・ソングス・ライヴ。
スティング、約2年ぶりの日本公演。東京エリア初日、10月9日、幕張メッセ公演は、「孤独のメッセージ」からスタートした。今からちょうど40年前の1979年秋に発表されて、多くの音楽ファンに強烈な衝撃を与え、ザ・ポリスというバンドと、そのフロントマンにしてメイン・ソングライターでもあるスティングの存在を、一気に、広く知らしめた曲だ。70年代から80年代へと移行していくあの時代を象徴する名曲が、国際展示場7・8ホールの直方体の空間を満たしていく。力強く、美しく、響き渡る。

つい1週間前、彼は、68回目の誕生日を迎えたばかり(つまり、あと2年で古希!)。しかし、鍛え上げられた肉体でマイクに向かう立ち姿と、豊かな声量と、そして知的で鋭い表情は、以前とまったく変わっていない。逆に、これは歳を重ねた結果といえるのかもしれないが、ヴォーカルはさらに深みを増し、愛用のフェンダー・プレシジョン・ベースからは、しばしば、軽い目眩を覚えてしまうような、キメのフレーズが耳に飛び込んでくる。正直なところ、「こんなに素晴らしいベーシストだったのか」と、あらためて感心してしまったほどだ。

Sting

Photo: Yuki Kuroyanagi

そのスティングを支え、彼のヴォーカルとベースに導かれながら、完璧でしかも生きいきとしたサウンドを築き上げていくのは、長年の相棒ドミニク・ミラーを中心にした7人のミュージシャンたち。ギターにはもう1人、ドミニクの息子のルーファス、ドラムスにはガンズ・アンド・ローゼズに在籍したこともあるジョシュ・フリース、キーボードにはジャマイカ出身のケヴォン・ウェブスター、バッキング・ヴォーカルにはジーン・ノーブルとメリッサ・ムジーク、ハーモニカにシェイン・セイガーという布陣だ。ケヴォン、ジーン、メリッサの3人は、2018年にスティングとアルバム『44/876』を共作したシャギーの人脈に属する人たちで、バンド全体の音に厚みを加えながら、とりわけレゲエ色の強い曲で独特の存在感を発揮していた。

「孤独のメッセージ」を歌い終えるとすぐ、ほとんどメドレーのような感じで92年のソロ作品「ルーズ・マイ・フェイス・イン・ユー」、ソロ初期の「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」と「セット・ゼム・フリー」、ポリス時代の「マジック」と、快調なテンポでつづいていく。どれも彼のファンにはよく知られた、いや音楽好きの人であればかならず何度か耳にしてきたはずの曲ばかり。スティング=ゴードン・サムナーが書き上げ、サウンドやヴォイシングやリズムの方向性を練り上げ、あの声で歌い上げ、そして多くの人たちに聴き継がれてきた、まさにツアー・タイトルどおりの『マイ・ソングス』であり、ある意味ではイメージの確立された作品であるわけだが、今回は、「孤独のメッセージ」と同じように、どの曲からもどこかこれまでと違う印象を受けた。

今年5月、欧州から『マイ・ソングス』ツアーをスタートさせたスティングは、同時期、同タイトルのアルバムを発表している。彼自身が「自分の人生そのもの」と語る曲たちを、徹底的に見つめ直し、再考し、再構築してつくりあげた、今までに誰も取り組んだことがない、まったく画期的な作品集だ。その制作を通じては多くの発見があったはずであり、そのことが、現在のステージから感じられる新鮮でポジティヴな印象とつながっているのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。

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