矢野顕子 渋谷パルコ8階で「アッコちゃんとイトイ。」展『矢野顕子ミニライブ(イトイもいます)』開催

「死ぬまでには何とか1101曲作りたいと思っているんです。ぼくはどこかのタイミングでひとりで仕事をするスタイルに戻るような気がするんだけど、そのときに何をするかというと作詞をすることを決めている。そうすると、これから1000曲くらい作らないといけないんだけど(笑)」(糸井)
「まあ、1000曲くらい軽いですよ、私たちだったら(笑)。私と糸井さんのタッグはCM音楽を請け負って作ることからスタートしたんです。でも、そのうちCMとは関係なく作るようになっていき、できた曲はそのままアルバムに入るようになっていった」(矢野)
「そうそう。『自転車でおいで』という曲は、当初CM用の“自転車でおいでよ 僕の家はすぐそこだよ”という一節しかなかったけど、いいねと言われ始めて曲にしようかということで楽曲化されたこともあったりね。こうやって松本大洋さんに絵を描いてもらうと、21世紀の宮沢賢治になったような気がするよ(笑)」(糸井)

矢野顕子

ふたりの構えないスタンスと関係性がわかる軽妙なトークがひとしきり続いた後、キーボードの弾き語りによる矢野のライヴがスタートした。1曲目はPARCOとかつて同じグループであったことにちなみ、糸井が考案した西武百貨店のキャッチコピーを曲にした「おいしい生活」。軽やかに鍵盤を弾きながらふくよかで丸みを帯びた独特の歌声が空間をたっぷりと満たしていった。続いては「春咲小紅」。歌い出しでつまずくものの飾らないトークで笑いが起こり、より親密で距離感の近い雰囲気が醸し出された中で再びスタート。歌い継いできた年輪を刻む表現力と、当時と変わらないみずみずしさを共に感じさせる歌唱と矢野の天使爛漫な笑顔に観客も自然と笑みをこぼしていた。演奏後、「春咲小紅」の思い出を語る一幕も。

矢野顕子

「口紅買えって曲ですが(笑)、この口紅のアイデアはすごく良かったと思うんですよ。小紅というから本当に小さなサイズで、たくさんの色があったし。口紅を使い切ることってなかなかないですよね? リーズナブルだったので普段使わない色のものも買ってみようかという気持ちにさせてくれた。今やってもいいと思うな。やるか! ほぼ日で」と、笑いが巻き起こったところで、91年に発表した「いいこ いいこ(GOOD GIRL)」へ。母親の心の中にある思いを可愛らしく描いた糸井の歌詞を、さらに可愛らしく歌い上げる矢野。このふたりは音と言葉を介しておしゃべりをしているようだと思える瞬間だった。
「へびの泣く夜」と「Happiness」が披露された後、「ふたりで作っている曲は哀しみをベースにした曲が多い。冬の寒い日にこたつの中で怪談ではなく、哀しい話をしようかというような歌かな」と糸井が述べると、矢野も「そうだね。悲しいではなく、哀しいの方ね」とふたりの楽曲の成分について語り合った。その後は「クリームシチュー」12月8日(日)に行なわれる矢野の「さとがえるコンサート2019」で演奏するからと一旦はやらないそぶりを見せたものの、「でも、やってもいいけど。やる?」という呼びかけに観客は大きな拍手で応えて演奏されることに。そして、東日本大震災で被災した気仙沼市の人たちを応援する「気仙沼においでよ」、センチメンタルな情景を描いた「夕焼けのなかに」、そしてラストは「SUPER FOLK SONG」の続編である「SUPER FOLK SONG RETURNED」へ。演奏前にその曲の誕生秘話が糸井によって語られた。

1

2

3