受難が歓喜へ、回帰が進化へと転ずる瞬間。圭が3ヵ月ぶりのライヴで提示した、未知の可能性。

ステージは、深海を思わせるような青く暗い照明の中で幕を開け、その主人公たる圭はまずブラック・スーツで登場。トータル1時間50分ほどに及んだライヴには二度の場面転換が設けられ、その中盤にヒョウ柄のコートで花道を闊歩する彼の姿はまるでファッション・モデルのようにも見えたし、邪悪ささえも持ち合わせているかのように感じられた。が、後半に純白の衣装をまとって現れた際には、まさしく少年期の純真さを連想させるまばゆさが感じられた。もちろんそうした演出は、彼の音楽自体の多面性や、そこで表現される物事の二面性といったものとのリンクを形にしたものではあったはずだが、表現者としての彼の柔軟性、変幻自在とまで言うと大袈裟だろうが、パフォーマーとしての彼が秘めている未知の可能性といったものも感じずにはいられなかった。

圭

そもそもはギタリストである彼が、ギターをほぼ弾かない曲もあった。最後の最後に披露された“ring clef.”では、ピアノ演奏をしながらの歌唱となった。BAROQUEの楽曲も披露されたが、BAROQUEもkannivalismも動いていなかった2009年に発表された2枚のソロ作品『silk tree.』『for a fleeting moment.』からの楽曲もライヴにおける重要な位置を占めていた。12年前に生まれたそうした楽曲たちについて、ステージ上の圭は「この曲たちと成長していきたい」と発言していた。この言葉は、今現在の彼が、12年前の理想をより確実に具現化できる術を持ち合わせているのを自覚できていることを意味しているのではないか、と思えた。そして重要なのは、このライヴが「BAROQUEの圭」のライヴではなく圭自身のライヴであること、同時に、何かとの差別化を図るようにわざわざソロ・ライヴと銘打たれたものではなく、単純に「圭のライヴ」だったということではないだろうか。

信頼のおける音楽仲間たちとの演奏をすべて終えると、圭は「また来月、会いましょう」と言い、その場を去った。再会の場は、8月12日、渋谷ストリームホール。すでにいくつかの境界線を越えてきたはずの圭が、そこでどのような進化と成熟の形を披露してくれるのかを楽しみにしていたい。また、今回の『THE SCRIPTURE -回帰の受難』については、7月13日(火)の23:59までアーカイヴ映像が公開されているので、是非今のうちにこの重要局面を目撃しておいてほしい。

文●増田勇一
ライブ写真●上溝恭香(TAMARUYA)

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