「グランプリ」の高揚感を受け継いで、ライヴはどんどん楽しさを増していく。大貫が「いちばん楽しい曲です」と語った「ふたりの星をさがそう」は、曲をアレンジした網守将平が今回のオーケストラ・アレンジも手がけたそうで、大貫は楽しそうに体を揺らしながら歌う。そして、ミラーボールが輝くなかで歌う「Shall We Dance?」の幸福感。「Shall We Dance?」は同名映画の主題歌だが、スラリとした指揮者の佐々木と大貫が、映画の主人公の役所広司と草刈民代のようにも見えた。歌い終わったあと、「この前、テレビをつけたとたん、〈Shall We Dance?〜〉って曲が流れてきてびっくりしました」と大貫は愉快そうに微笑んだ。そして、ラスト・ナンバーは坂本龍一の曲に大貫が歌詞をつけた「3びきのくま」。「果てない宇宙で 今日も夢を見た」という歌い出しの一節を聴いた瞬間に心が宇宙に飛ぶ。祈りに似たような歌を、オーケストラが音の銀河となって包み込むような感動のエンディングだ。
「3びきのくま」を歌い終わった大貫は「素晴らしいオーケストラのおかげで幸せに歌わせてもらいました」とグランドフィルハーモニック東京の演奏を絶賛。オーケストラが全員立って一例する。大貫が退場しても拍手はなりやまず、ステージに戻ってきた大貫は「はあ〜」とため息。「これは嬉しいため息なんです」とコンサートに感無量の様子。観客から「誕生日おめでとう!」と声がかかると「ありがとうございます。過去には戻れないので前向きに生きます」と応えて、アンコール曲の「ピーターラビットとわたし」を歌った。「ピーターと仲間たち」ではオリジナルに忠実なアレンジだったが、ここではピアノから始まってしっとりと。そして、バンドが戻ってきてオーケストラも交えて「色彩都市」。コンサートを締めくくるのにふさわしい幸福感に満ちた歌と演奏だ。4年前には教授がピアノで伴奏していたことを思うと胸が熱くなる。
すべての曲を歌い終わった大貫は、再びメンバーを紹介。さらに編曲で参加した網守もステージに呼んで、「本当に素敵なミュージシャンに支えられてここに立っています。今日は本当にありがとうございました」と観客に手を振った。満面の笑顔を浮かべる大貫の姿を見て、「歌いながら きれいになるのよ 私だけの秘密」(「色彩都市」)という一節が頭に浮かぶ。今年、大貫に取材した際、「ようやく緊張せずにライヴが楽しめるようになってきた」と語ってくれたが、そんな気持ちの変化が歌声からも伝わってきた。オーケストラ・サウンドも素晴らしく、これまでのシンフォニック・コンサートのなかでは、いちばん映画的だったような気がした。2025年3月には山弦とのビルボード・ライヴ東京/大阪/横浜での公演、4月には八ヶ岳高原音楽堂のコンサートが決まっているが、いま絶好調の大貫が来年はどんな歌声を聴かせてくれるのか、今から楽しみだ。
TEXT:村尾泰郎
公演名:大貫妙子 シンフォニック・コンサート 2024
出演:大貫妙子
指揮:佐々木新平
管弦楽:グランドフィルハーモニック東京
日程:2024年11月30日(土)
会場:昭和女子大学 人見記念講堂
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