[ kei ]

[ kei ]、改名後初ライブで「歌ってるシングルを出すとか夢にも思わなかった」

バンド休止後、これまでもソロとして活動を続けてきたBAROQUEの圭が、[ kei ]へとアーティストネームを変更。2月25日、東京・SHIBUYA STREAM HALLにて改名後初となるライブ<MAKE A MIRACLE>を開催した。[ kei ]として記念すべき第一歩を踏み出したこの日の公演のレポートをお届けする。

 オールブラックでビシッときめたサポートメンバーの高松浩史(Ba/THE NOVEMBERS/Petit Brabancon)、植木建象(Dr)に続いて、ステージにやってきた[ kei ]は黒い上下の衣装のなかに真っ白いドレッシーなノースリーブシャツを着て登場。
圭から[ kei ]へ。その新たなる幕開けとなるオープニング。彼はギターを身につけず、代わりにハンドマイクを持ってステージの中央に立ち、新曲「PANDORA」を軽やかに歌い始めた。この曲はBAROQUE活休後、初めて作った歌ものの曲で、本公演ではそれを過去に披露したものからアップデートさせた[ kei ]バージョンで、改めて披露。
元々はバンドのギタリストとしてヒーローになることを夢見ていた[ kei ]。だがバンド活休後、1人で活動する道を選んでみたら、パンドラの箱を開けたように様々な困難が降り掛かってきた。
けれども、困難を乗り越えたあと、その箱の中を覗き込んでみたら、現在のように舞台の中央で歌ってギターを弾く自分が想像もしていなかった[ kei ]というアーティストがいた。

今回の公演は、彼が自分の夢や理想にはなかった[ kei ]にたどりつくまでの物語を描いたものになっていた。
ライブはこの後一気にソロの出発地点となったアルバム『silk tree.』へとさかのぼる。
どんな壁にぶちあたろうが、それでも自由を求めた「17.」をなぜ自分は歌ものとして作ったのか。幼い頃のピュアな気持ちにコネクトしていく「pitiful emotional picture.」をなぜ歌ものとインストが合体したような独特な曲で表現したのか。
まずは[ kei ]としてのアーティスト像を最初に切り開いていったヒントが、ソロの原点であるこれらの過去の創作物にあったことを曲を通して明かしていく。
ソロになって、一時期は歌ものとインストのライブを分けるなど、ライブのあり方を模索していた時期もあった。
だが、いまでは様々なトライを経て、インストと歌ものを1本ライブのなかに美しく同居させる独自のライブスタイルを築き上げた[ kei ]。
ジャケットを脱いだ[ kei ]は次にインスト曲「longing star.」をパフォーマンスして、キラキラと星が輝く夜空の彼方へと観客たちをロマンチックなサウンドで誘い出す。
そこから「the blueroom.」では変則的なビートに乗っかって、歪んでいく時空を飛び跳ねながら移動。「eve.」では音とともに揺らめきながら空間を気持ちよく浮遊していたら、ギターソロが始まったとたんに猛烈なエネルギーのシャワーを浴びるなど、ここでは[ kei ]ならではの音世界が、聴き手の五感、想像力をじわじわと刺激。
最初は曲ごとに細やかな映像が添えられていたこのようなサウンド主体のセクションも、いまは歌ものと同じような感覚でオーディエンスは音を全身で受け止め、自由に楽しんでいる。アーティスト同様、ファンもライブの楽しみ方を手探りで模索しながらここまでたどり着いたのだろう。フロアからはそんな背景がうかがえた。

このあと、柔らかいトーンの歌声でバラード「Home sick」(Cover)をごくごく自然に届けて、オーディエンスの感情をそっとナチュラルモードへと引き戻したあと、[ kei ]が不意にステージ上でフロアに背中を向け、着ていた白シャツを脱いで、黒いロングスリーブシャツに着替え始めた。
会場の空気がそこでさっと切り替わり、曲はインスト曲「vita.」へ。アンビエントな暗闇が広がり、体の奥底を浄化するようにギターの音がさりげなく静かに体を侵食していくところから曲はスタート。
そこから、ライトの点滅が激しくなると同時に、サウンドは豹変。アルバム『4 deus.』のアートワークのように、はだけたシャツから肉体をあらわにしながら、[ kei ]が魂の奥底で悶え、叫んでいる自分をさらけ出していったところは圧巻だった。
パンドラの箱を開いた後、自分の中から吹き出してきたすべての苦悩や恐怖、怒りをぶちまけるように、ステージで3人の音が激しくぶつかり、絡み合い、狂気を撒き散らしていったアンサンブルはまさに音の洪水。そんなエキサイティングなステージが15分以上も繰り広げられ、その渦に引き込まれたままのフロアは、極限状態までカオスが極まった状態になっていった。
こんな、誰も見たことがないような深い狂気体験ができるのも、いまや[ kei ]のライブの醍醐味。演奏が終わった後、[ kei ]自身も「凄い体験でした」とさっきのプレイを振り返る。
そして、この先「こういうところにも新しい曲を入れたい」と意欲を示してみせた。「次は歌詞はスーパー闇だけど、みんなのジャンプを見せて」とフロアを煽り、軽快なポップチューン「STAY」からライブは後半戦へと突入。

「STAY」のサビ前、[ kei ]が自ら「3.2.1ジャンプ!」と掛け声をおくり、フロアを一斉ジャンプへと導くシーンや、ストレートな歌声で爽快なポップチューン「青空に吹かす夜、晴れ渡る日」(Cover)を高らかに歌い上げる姿は、バンド時代は想像もしなかったパフォーマンス。
パンドラの箱を開け、苦悩を出し切ったあとに箱の中に残ったもの。それは、想像もしなかった意外な自分の姿だったのだ。
陽気な2曲の連投でフロアを気持ちよく盛り上げたあとは、歌もののダークサイドへと繋いで、破壊力抜群のエレクトロなダンスチューン「SIN QUALIA」をラップを交えながら歌い、「I LUCIFER」ではエモーショナルに叫びながら、ギターをエネルギッシュに弾き倒して場内を激しく熱狂させていった。
興奮したフロアからは“[ kei ]”と叫ぶ声が沸き上がり、ソロになって以降初の声出し公演を体験した[ kei ]は、たまらず嬉しそうな笑顔で観客に応えていく。

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