David Byrne、7年ぶりとなる新作『Who Is The Sky?』に寄せて

David Byrne

デヴィッド・バーンが2018年に発表された『アメリカン・ユートピア』以来、7年ぶりとなるニュー・アルバム『フー・イズ・ザ・スカイ?』を9月5日にリリースした。ちなみにNME Japanではこれまでワーナー・ミュージック時代を踏襲して、デイヴィッド・バーンと表記していたが、新しいレーベルに変わって、デヴィッド・バーンという表記が採用されている。ここではそれに準じることにする。

しかし、アルバムとしては7年ぶりということだが、デヴィッド・バーンが不在だった印象はまったくない。前作『アメリカン・ユートピア』はそのコンセプトが発展して、2019年にはミュージカル化されて、新型コロナウイルスを挟みながら、長期にわたってブロードウェイで上演されることとなり、2020年にはコンサートを収録したドキュメンタリー・フィルムがスパイク・リー監督の手によって公開されることになった。なお、UKの『NME』は『アメリカン・ユートピア』のツアーを「史上最高のライヴ・ショウ」と評して、それがそのままタイトルに付けられたライヴ・アルバムもリリースされている。



トーキング・ヘッズへの再評価もとどまることがなかった。2023年、映画『ストップ・メイキング・センス』の4Kリマスター版の配給権をあのA24が獲得し、同年9月にトロント国際映画祭でプレミア上映されて、4人のメンバーが一堂に集まると、ニュースは世界を駆け巡ることになった。自ずと再結成への期待も持ち上がることとなり、コーチェラ・フェスティバルや大手プロモーターが再結成でのライヴについて接触したことまでが報じられている。

そうした評価も、解散から数えても30年以上が経つというのにトーキング・ヘッズの音楽が新しいリスナーを獲得し続けているからだろう。それは映画『ストップ・メイキング・センス』の4Kリマスター版の公開に合わせて、昨年5月にリリースされたトリビュート・アルバムの参加アーティストを見ても明らかだ。ロード、パラモア、ザ・リンダ・リンダズ、ガール・イン・レッド、ブロンドシェル、ケヴィン・アブストラクト……リアルタイムでは接していなかった世代の名前も並ぶ。今年6月には1975年の結成から50周年というタイミングで、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』の主演で知られるシアーシャ・ローナンが出演する“Psycho Killer”のミュージック・ビデオも初めて製作されている。



そんな状況下で届けられたのが今回のニュー・アルバムになる。ロック/パンクのアートとしての価値を体現するアーティストとしての評価が何世代にもわたって確立された状況でリリースされることになったわけだが、73歳のデヴィッド・バーンはいつにも増して解き放たれているように見える。『アメリカン・ユートピア』とそのツアーで提示された「楽観的なテーマ」をさらに発展させたという新作だが、一つ大きな特徴となっているのはそのユーモアだろう。“Moisturizing Thing”は保湿液のアンチエイジング効果を取り上げた曲であり、“She Explains Things to Me”ではすべてパートナーの女性に説明されてしまう悲哀ある男性が描かれている。そのユーモアに疑問を呈する声もなくはないが、その他愛のなさも含めて本作には童心にかえったようなところがある。

デヴィッド・バーンは次のように語っている。「僕くらいの年齢になると、人の目なんてもうあまり気にならなくなるんだよね。これまでの経験もあって、自分がどんな人間か、何をやっているのかってことをある程度わかっている。だからこそ、自分の『快適ゾーン』から抜け出すことにも抵抗がなくなる」

もちろん、デヴィッド・バーンがこれまでも探求してきた実験性や多様性は失われていない。ニューヨークのストリート詩人・パフォーマーであるムーンドッグの楽曲を演奏してきたゴースト・トレイン・オーケストラが新作には参加しているのだが、パラモアのヘイリー・ウィリアムスが参加した“What Is the Reason for It?”はホーンを使ったマリアッチ風のナンバーで、アルバムを締めくくる“The Truth”ではラテン・ミュージックの要素が前面に出されている。



けれど、あくまでポップ・ミュージックであり続けているのがデヴィッド・バーンがデヴィッド・バーンたる所以だろう。本作には“The Avant Garde”という楽曲もあるが、自身がアヴァンギャルドと見られることについてアップル・ミュージックのゼイン・ロウに次のように語っている。

「自分がアヴァンギャルドの会員のように見られていることは自覚しているけれど、ある種ラディカルだったり、新しいことをやってもポップ・ソングを作ることができるという信念を持っているんだ。決まったやり方でなくてもいい。そういうフォーマットで新しいことをやっても人々にはアピールできる。そこに絶対的な矛盾はないし、そういう経験もしてきた。そういう世界が好きなんだ」

その意味でプロデューサーを務めたキッド・ハープーンの存在は大きかったかもしれない。ハリー・スタイルズの『ハリーズ・ハウス』やマイリー・サイラスの“Flowers”で世界的な大ヒットを手掛けてきた人物だが、サウンドとメロディーへの繊細なアプローチで現代のヒットを生み出している。キッド・ハープーンとはパーティーで出会ったということだが、デヴィッド・バーンは彼に委ねることにしたようだ。ゼイン・ロウに次のように語っている。

「彼のような人と仕事をするということは、ある程度の信頼関係が伴ってくる。こっちの楽器でもドラムでもいいサウンドにしてくれるだろうと信頼するんだ。細かい指示をする必要はない。昔はそうしていたところがあった。『聴かせてもらっていい? チェックさせてくれる?』なんてね。でも、今は放っておこうと思った。もっとリラックスできるようになったんだ」



その上でキッド・ハープーンは本作で描かれている物語やユーモアはデヴィッド・バーンが私たちと同じ目線に立っている表れなのではないかと指摘する。より一層、混迷する時代においてデヴィッド・バーンが提示するのは、トーキング・ヘッズの伝説的なミュージシャンによる暫定的な回答ではなく、こんな時代においても小さなことに悦びを見出す私たちと同じ立場なのかもしれない。キッド・ハープーンはプレス・リリースで次のように語っている。

「すぐにはわからなかったけれど、これは明らかにデヴィッドの個人的な物語であり、同時に彼独自の世界の捉え方が色濃く反映されている作品だと思った。ニューヨークの街を歩きながら“Everybody Laughs”のデモを聴いていたときは、本当に幸せな気分になったよ。僕らはみんな同じなんだって思うことができたから。誰だって笑うし、泣くし、歌う。デヴィッド・バーンが多くの人の心をつかむのは、たぶん、彼自身もそのジョークの一部になっているからだと思う」



しかし、楽しみなのは『フー・イズ・ザ・スカイ?』を引っさげて行われるツアーだ。『アメリカン・ユートピア』の時もアルバムが出た時点では賛否両論があった。しかし、テクノロジーを使って多様性を見事に表現したツアーによって『アメリカン・ユートピア』というプロジェクトは一回りも二回りも大きく花開くことになった。

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