『Born in the U.S.A.』の前夜、彼は何と向き合っていたのかー
ロックの英雄、そしてアメリカの魂――
50年にわたり第一線を走り続け、今も世界中のスタジアムを熱狂させるブルース・スプリングスティーン。
世界の頂点に立つ直前、彼は、成功の重圧と自らの過去に押し潰されそうになりながら、わずか4トラックの録音機の前で、たった一人、静かに歌いはじめる。ヒットチャートも栄光も求めず、ただ心の奥底から掘り出した“本当の声”を、孤独と痛み、そして創造の原点とともに刻み込んだ――。
主演はエミー賞俳優ジェレミー・アレン・ホワイト「一流シェフのファミリーレストラン」、監督・脚本は『クレイジー・ハート』(アカデミー賞R受賞)のスコット・クーパー。
『ボヘミアン・ラプソディ』の20世紀スタジオが贈る、音楽映画の枠を超えた、心を揺さぶる体験がここに。
彼の魂の旅路が、いまスクリーンに映し出される。
『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は「Nebraska」の制作に焦点を当て、ブルース・スプリングスティーン自身が幼少期のトラウマと向き合い、「Born to Run」「Darkness on the Edge of Town」「The River」等の商業的大成功を収めた後、自身のアイデンティティを失うことへの恐怖と感情的に対峙する約6ヶ月間の物語だ。
近年のミュージシャン伝記映画に代表される『ボヘミアン・ラプソディ』『ロケットマン』『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』等にみられる、苦悩を描きながらも栄光の瞬間を織り交ぜた描写というより、スプリングスティーン自身の欠点、苦悩や悲しみに深く切り込んで、鬱に打ちひしがれながら誕生した、最高傑作の一つとなる「Nebraska」へと至る過程を描いている。
果たしてこの作品は、前述したような音楽伝記映画より魅力に欠けるかといえば完全に「ノー」だと言える。
今回はその理由を述べていきたい。
1つはスプリングスティーンのアーティスト性を損なわない描写にある。
先に述べたように、栄光の瞬間を織り交ぜた映画とするならば『Born in the U.S.A. 』での大成功までを描くはずだが(実際、映画では『Born in the U.S.A. 』に収録される曲の初期バージョンも聴くことができる)、彼の絶望がいかにして2枚の画期的なアルバムを生み出したのかというバランスを取ることなく、「Nebraska」のみに焦点を当てている。
「The River」のツアーを終えたスプリングスティーンは故郷であるニュージャージーへ孤独に引きこもり、長年埋もれていた幼少期の苦悩の記憶と向き合う。不幸な幼少期を反芻し、彼の恐怖感を浮き彫りにしたモノクロの回想シーンは、その後の暗く絶望的なソングライティングへと続いていく——。
ジェレミー・アレン・ホワイト(ブルース・スプリングスティーン役)は、スプリングスティーンの言葉数が少なく、物思いに沈み、引きこもりがちで、話すときでさえ声が震える様を巧みに演じ、壮大なカタルシスではない、打ちひしがれた男の本質を最大限に引き出している。
ジェレミー・ストロング(マネージャー:ジョン・ランダウ役)はスプリングスティーンとって、ときには父親のような存在となり、かけがえの無い愛情と揺るぎない忠誠心を静かに体現する。映画の感情的な核心となるシーンでもあるCBSレコードの重役との激しい対立においても、スプリングスティーンの芸術性を軽視しない姿勢を貫いている。
もう1つは「Nebraska」制作のプロセスが可能な限り映像化されていることだ。
サウンドエンジニアのマイク・バトラン (ポール・ウォルター・ハウザー) と共にニュージャージーの借家で、僅か4トラックのレコーダー『TEAC 144 PORTASTUDIO』を用いて録音した後、Eストリートバンドとそれらの楽曲をレコーディングする。だが、スプリングスティーンの思い描く音像には遠く、レコーディングは難航を極める。(セッションには後にアルバム『Born in the U.S.A. 』に収録される「Born In The U.S.A.」「Downbound Train」「Working On The Highway」「Pink Cadillac」が含まれており、後に正式にレコーディングされる)。
その試行錯誤の描写や、自宅録音時の雰囲気を歪ませることなく保つマスタリングの方法など、音楽制作の興味深い描写が多いこともこの映画の特筆すべき点だといえる。
ブルース・スプリングスティーンのロック・アイコンとしての姿ではなく、むしろ彼の人生の重要な転換期の1つと言える「Nebraska」制作時において、いかに絶望に苛まれ、創造性を蝕んだか。そしてその鬱の代償と共に生み出された「Nebraska」という珠玉の結晶を、余すことなく”偽りのない魂”の旅路として描いたスコット・クーパー監督作『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』は2025年11月14日(金)から全国公開される。
text:Atsushi Tsuji
スプリングスティーン 孤独のハイウェイ
監督・脚本:スコット・クーパー(原作:ウォーレン・ゼインズ著「Deliver Me from Nowhere」)
主演:ジェレミー・アレン・ホワイト(ブルース・スプリングスティーン)
共演:ジェレミー・ストロング(ジョン・ランダウ)、ポール・ウォルター・ハウザー(マイク・バトラン)、スティーヴン・グレアム(父ダグ)、オデッサ・ヤング(フェイ)、ギャビー・ホフマン(母アデル)、マーク・マロン(チャック・プロトキン)、デヴィッド・クラムホルツ(アル・テラー)
プロデューサー:スコット・クーパー、エレン・ゴールドスミス=ヴァイン、エリック・ロビンソン、スコット・ステューバー
製作総指揮:トレイシー・ランドン、ジョン・ヴァイン、ウォーレン・ゼインズ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2025 20th Century Studios
公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/springsteen






























