宍戸 翼(The Cheserasera) インタビューvol.43

—”自分が自分に飽きたくない”

—2人のメンバーからの共感という意味ではどうですか?

宍戸:確かにメンバーを1番近くで見ているので、メンバーから生まれた感情もあるし、そういう歌ももちろんあります。逆に2人は「声が良い」って言ってくれるので、僕はあんまり口に出して言わないんですけど (笑)、見てるなとは思いますね。

—では折角なので(笑)、宍戸さんから見た2人の良い変化はありますか?

宍戸:2人はやっぱり演奏家として素晴らしくなってきたと思います。色んな人に観てもらいたいと思うぐらい、ドラムもベースもすごく巧くなっていますし、最初に組んだときとは全然違いますね。

—今作の「Time To Go」では、具体的にどの要素に感じられますか?

宍戸:まず、キレも全然違いますし、ギミックの効いたフレーズだったりとか、侘び寂びの部分ですね。例えば、西田くんは詰め込みがちだったんですけど、今は引くときは引くからすごく色気が出てきたと思います。

—メジャーデビューから丸2年が経ちますけど、その短期間で今作を含め4枚のアルバムを生み出していて、アルバム毎の成長角度が異常に高いとも思えるのは、個々のそういった変化があってこそですよね。

宍戸:確かに、本当に身を削ってる感じはすごくあります。だから全然余裕じゃないし、お客さんの期待も背負ってるので「絶対良い作品を作るぞ」という意地ですね。

—その意地の源泉となっているものは、ファンを裏切らないという想いがあると。

宍戸:「お客さんの期待に応えたい」っていうのはあります。でも1番は「自分が自分に飽きたくない」っていうことなんですよね。自分が「こんなクソみたいな作品を出して」って思うと、ツアーもライブも全然身が入らないですし、自信を持ってできないんですよね。こうやって、偉そうにインタビューで話をするのが嫌になっちゃうと思うので、そこだけはちゃんとしておきたいんですよね。

—”身を削る”っていう表現は確かに納得があります。自分のハードルを毎回越えないと作品として成立しないんですもんね。

宍戸:そうですね。自分がちゃんと納得したものを作るのがモチベーションな分、絞り出している感じはありますね。

—「Time To Go」は全11曲となりましたが、納得という部分ではバンドとしての納得も必要な訳で、選ばれていく楽曲出しも含めて大変そうですね。

宍戸:メンバーはもちろんのこと、色んな人が関わってくれてるので、スタッフも含めて決めていますね。歌詞がないものや些細なネタを含めて、30~40ぐらいアルバム毎に作っていてますけど、歌詞があっても「ダメなものはダメ」っていうのを毎回やってますね。

—アルバムの冒頭を飾る「ファンファーレ」は、まさしく今のThe Cheseraseraを表す楽曲となっていますし、そう考えるとアルバムのキーになり得る楽曲については、割とすんなりといくのかな?とも思うのですが。

宍戸:いやぁ、とてもすんなりとは思えないな(笑)。僕は出したいものを作っているんですけど、みんなは期待してるからこそ「もうちょっと良い曲が出るんじゃないの?」って、締め切りギリギリまでやってくれてるんですね(笑)。

—完成度の高いアルバムを聴いている分、その期待の仕方は分かる気がします(笑)。

宍戸:やった分だけ良くはなっていってるので、悪いことじゃないんですけどね(笑)。だから絞り出していくんです。

—“僕にとっての音楽は救いのもの”

—「ファンファーレ」も、この位置に収まるまで紆余曲折あったんですね。

宍戸:代案の時点で10〜20曲ぐらいが出揃って、毎週会議をして決まっていきました。実は僕、「ファンファーレ」がリードになるとは予想していなくて。ちょっと爽やか過ぎて「これはなぁ」って思ってました。もともと、たくさん作っていく上での気分転換ぐらいに作った曲だったので、驚きましたね。でも、この曲は明らかに1番ポップだった分、アレンジを攻めまくれたのが強みでしたね。イントロですごくワクワクしたり「このアルバムってどんなんだろう」って期待させる”自分たちの節”が炸裂してる感じの曲になったと思います。

—しかも「Time To Go」は、すごくバラエティに富んでると思うんですけど、壮大に言うと人生っぽいし、身近に置き換えても景色が全て違う印象を受けました。

宍戸:それはあると思います。今回のアルバムの曲は、主人公が全部変わってるんで、この曲はこの人だなっていうイメージがあって「人を歌う」ぐらいのスケール感がありましたね。

—「butterfly (in my stomach)」では完全に意表を突かれました。曲といい歌詞といい、ある意味、音楽に純粋なThe Cheseraseraの一面が見られた気がします。

宍戸:僕にとっての音楽って、救いのものだったんですよ。自分がスッキリしたりどうしようもない気持ちをどうにかするための特効薬みたいなものだったし、尊い扱いだったんですよね。今作では「YES」を作り終わってすぐ作ったこともあって、自分の中の毒が抜けきってる状態で作ってるんです。だから、自分たちのやりたい音楽を純粋に求められたし、自分が書きたい詞とか「こういうのをやってみたい」という挑戦や遊びの部分がすごく出た曲だなと思いました。音楽との接し方も、ウィットに富んだ感じっていうのは今回が1番やれたんじゃないかなと思いますね。

—「The Cheserasera」を広げてくれたことは間違いないですね。

宍戸:自分たちって、為すがままの直観で音楽を作ってきた部分があるんですけど、今回は「自分たち好きな音楽って、もっといっぱいあるよね」っていう話とか「洋楽も邦楽も好きだし、色んな好きな要素を出したい」って話をしてて。自分たちの根っこにある部分をもっと広く持って音楽性を表したのが「Time To Go」だと思います。

—特に「butterfly (in my stomach)」の間奏の部分とか、洋楽ファンは喜ぶぞと思いましたね(笑)。

宍戸:3ピースだからこそ、リズム隊が売りなので。4ピースよりもガンガン目立っていただこうと思ってます(笑)。2人ともその気概があるっていうか、すごいプレイヤーだと思うので、その色を存分に発揮できたと思いますね。

—”自分が成長したかを見られるのがツアー”

—「YES」リリース後もライブ・ツアーを行いながら、こうやってアルバム制作が成されていますが、そこでもたらしてくれる要素も多いんでしょうね。

宍戸:まず、出会いがあるし好きなんですよ。もちろん、自分の体調管理に気を使わなきゃいけないことは楽ではないすけど、得られるものはすごく多いですね。自分の知らない自分が見えるというか。「このスケジュールでどれだけいいライブにするのか」っていうのが怖い部分でもありますし(笑)、逆に乗り越えるときの気持ち良さを感じられる機会でもあるから、自分が成長したかを見られるのがツアーですよね。

—初めて訪れる場所でも?

宍戸:もちろんです。行ったことない地に行くのが好きなんですよね。散歩が好きなんですけど、街並みってその地の人が作ったものなので、そこで感じることとかあって、よく景色を観ていて。あとは単純に、ライブハウスで集まった人と話すのもすごく好きだから。

—時間があればライブハウスの周りを散歩したり?

宍戸:しますね。前、金沢へ行ったときも感動しましたね。駅前から芸術が入り混じっているというか「これは和なのか?洋なのか?」っていう集約のされ方が、良い意味ですごくカオスなんですよね。居酒屋一つとっても、すごく味のある建物しかなかったり、歩いていて感動の連続でしたね。兼六園にも行こうとして、その前に楽器屋で有り金を全部使っちゃってて、結局入れないで帰ってきたんですけど(笑)、周りを歩いてるだけでも全然楽しかったから。

—どこか印象深い街はありますか?

宍戸:札幌かな?札幌って、エモーショナルだなって勝手に思ってるんですよね。

—季節によって、街並みの表情も違ってくると思うんですけど、それはどのタイミングでも感じられるんですか?

宍戸:あ、真夏には行ったことなくて、逆に寒い時期の方が多いですね。そうすると、芯に迫る寒さから色んな感情を想起させるというか。あと雪が降った街並みだと、歩きにくいから綻んだ表情を見やすいっていうところもあって、味があるなと思いますね。

—散歩は1人で行かれることが多いんですか?

宍戸:1人ですね。マイペース過ぎて、逆に誰かを連れていくのが申し訳ないっていうか(笑)。

—(笑)。

宍戸:もちろん友達ともあるんですけど、本当に無計画で「北に行こうかな」とか言うんで(笑)。「どこに行くの?」とか言われても「いやどことかじゃないんだよ!」って(笑)。それにあんまり付き合わせるのも、あれかなって思っちゃうんですよね。

—セレンディピティの醍醐味を味わいたいのもあるんでしょうね。

宍戸:楽しいからやってるし、街並みって駅前だけじゃないし。駅と駅の間にディープなゾーンがあったりとか、車とか電車だと気づかないような場所とか人の作ったものが観れるっていうのは、すごく醍醐味だなって思いますね。

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