The Cheserasera インタビュー

より音楽的なディスカッションを掛け合わせていった(美代)

ー 実際に『幻』を聴くと、驚くほどに幅広いバリエーションのある楽曲が収められていて、まさに伺ったことが頷ける作品だと思います。そこには、今までのThe Cheseraseraで見せてくれていた白黒つけない曖昧さの面白さもそれぞれに成立していて、それは『12人の主人公の他愛ないお話』というコピーにも集約されていると思います。

宍戸:1人のThe Cheseraseraっていう作者の短編小説集みたいな感じです。昔から曖昧さっていうのを脈々と言われ続けてきたことだけど、作品性そのものなんですよね。例えば『ワンモアタイム』とかも、ストーリーは行ったり来たりするじゃないですか。街中を歩いてて「そういえばあれもやってないな、これもやってないな、けどあれやりたいな、次まだやってないな、あいつのことめちゃくちゃムカついたな」とか考えながら移動したりするわけじゃないですか。全てがそのものの瞬間の歌なんですよね。

ー それがリアルだし、そうやって言語化していくと” ぶれないもの”が『ワンモアタイム』を象徴する一節の1つだと思えました。

宍戸:その前に出てくる『夜は勝手に終わるから』の夜は、1つの盛り上がりで、必ずどんどん別のものに転がっていくじゃないですか。そういうものを追いかけるよりも、ぶれないものを持ちたいよねっていうことを、ここで言っているんですよね。この辺が『ワンモアタイム』で1番面白いし言いたいことなんですよね。

ー 加えて”nineteen eighty nine”を英語表記にされた部分にちょっと驚きました。勝手な思い込みかもしれませんが、宍戸さんの歌詞は英語に逃げないっていう印象だったので。

宍戸:なるほど、確かにそうですね。

西田:あんまり出てこないよね。

宍戸:実際に表記をすごい悩んだところでもあります。カタカナか数字で書こうかとも思ったけど、当たり前ですけど1番”nineteen eighty nine感のあるのって、これでしかないし、いろんな意味があるような単語でもないんで(笑)。

ー そうですよね。変な深読みをしてしまいました(笑)。序盤で印象的だったのが『残像film』で、歌詞の情景的にもイントロのフレーズから持っていかれる曲だなと。

西田:出来てみてなんですけど、ライヴで1番どういうポジションになっていくのが楽しみだなっていうようなリズム感ですよね。これ、イントロのベースフレーズはほとんど宍戸が考えてきて。スリーピース独特の不思議な雰囲気を出したかったのかなって思ってます。

宍戸:この曲はメロディーがすごく自然に浮かんできて。そのままイントロのフレーズやリズムパターンとかのイメージも出てきて、基本的なグルーヴは維持して守ってもらいながら、幅広げてもらった感じですね。

美代:このアルバムの中で落ち着いたというか、そんなキーワードが当てはまる曲なんですけど、僕はジャズも好きでジャズミュージシャンがやるような繊細なムードを演出したつもりですね。

ーしかも『Random Killer』のあとにですからね。

宍戸:いろんなバリエーションの曲をどう並べるかってもちろん悩んだんですけど、幅の広さと面白さがあるなっていうところですね。

ー 『幻』への流れはグッとくるものがあります。アルバム・タイトルにもなりましたが、曲名とセームタイトルになるのは『WHATEVER WILL BE, WILL BE』以来じゃないですか?

宍戸:確かに、楽曲名をアルバム名にしたのはそれ以来ですね。

ー アルバムのタイトル自体は楽曲完成前から決めていたんですか?

宍戸:完全に後です。いつもそうなんですけど、曲が出揃ってきてから「このアルバムはどういう感じだろう?」って考えています。その中で『幻』っていう曲が、僕たちの中ですごく新しくて、その割に肌に馴染んで。詩の世界観をとっても、何とも言えない脱力感となんとも言えない真理感みたいなのを僕は感じていて、それがアルバムの深みをより一層出してくれたなっていう意味でも、選んでいいなと思ったんです。

ー そのバンドにとって”新しい”ことを、具体的にあげるとしたら?

宍戸:横乗りが強いっていうところはそのうちの1つですし、曲のコードも凝っているんですけど、AORでよく出てくるようなビート感を前からやりたいと言っていて、この曲に落とし込めたんですよね。

美代:AOR、山下達郎さんのような感じだったりとかですね。他にも、シューゲイザー的なものもありますし。一方で『Random Killer』とかは結構ハード・コアかな思うし、ちょっと音楽で遊ぶって言えて、音楽で幅を持たせてバリエーション提供できるっていうのが、新しい部分かなとは思ってます。音楽的な偏差値じゃないですけど、みんな各々が高まってきてるのもあるし。宍戸がこういうアプローチで弾きたかったとか西田がこういうの弾きたかったみたいなものに僕のアイディアも入れて、より音楽的なディスカッションを掛け合わせていったこと自体も新しかったりします。

ー ジャンルで括るより”The Cheserasera”って括った方がむしろしっくりくると思います。

宍戸:確かにそうですね。

美代:もっとそうしていきたいですけどね、そういう意味では聴き応えもあると思います。

ー “まぼろし”っていう言葉を使っていながら、ここまでポジティブさが垣間見れる歌詞は深いと思います。

宍戸: 30歳にもなって、今はこういうことを思うってことですよね。辛いなっていうことをずっと吐き出し続けてきたんですけど、この曲だって辛いことがあってのこの答えで。辛いことありきだと思ってるんですけど、そういうことをわざわざ説教くさく垂れるんじゃなくて、こういう言い方でポジティブになれたらいいなっていう深みは、表現できた気はしますね。

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