これで映画一本撮れるんじゃないかと思う程、良い詞だと思う。—鈴木
─1曲1曲の色やストーリーが濃い楽曲ばかりですが、アルバムトータルとしての構成はすんなり決まりました?
和嶋:いつもよりは難航しましたね。割と最初とかは決まったんですけど、今回は最後が決まらなくて、かなり迷いました。
─「マダム・エドワルダ」ではない想定もあったんですか?
和嶋:うん。でも、決まってみるとこの流れが一番良かったなって思うよ。
ノブ:僕もすごくしっくりきましたね。実は、曲順を決めるときは別なスケジュールがあっていなかったんですけど、曲順を話し合っていたであろう机があって、そこに曲名が書かれた短冊が並べてあったんです。いつもそんなやり方をするんですけど、それを見て「あぁ、なるほどね」ってすぐに思えて。さっき言ったみたいに、バラエティに富んでるんですけど、曲の繋がりもすごくしっかりしてると感じますね。
─そう伺うと「恐怖の大王」はアルバムを象徴する部分を担っていますね。
和嶋:そうかもしれないね。「怖い存在」っていうものをイメージしがちなんだけど、破壊する為ではなく、実は世の中を良くするために、光をもたらす為に来るってことが言いたかった。死をただ恐れるのではなく、死があるからこそ生が光り輝く。それを意識することで、精一杯生きられるのではという、このアルバム全体をいみじくも言えたなと。言ってみれば、ダースベイダーはダークサイドだけの人間ではなく、ちゃんと善の心を持っていたみたいな。
─確かに(笑)。1曲目でアルバムのコンセプトを示して、2曲目で怪談の世界に入っていくわけですが、これは鈴木さんをイメージされたんじゃないかと(笑)。
和嶋:形的に?いえ(笑)、これは鈴木くんが持ってきたヘヴィでカッコ良い曲の真ん中の部分で、お経をやりたいっていう話だったんです。
鈴木:お経までは僕がこうしようって言って、お経とくれば「芳一受難」でしょみたいな。
和嶋:これ以外ないと思ったね。ただ、それを耳なし芳一をなぞるだけじゃなく、あの感じをやってみたかったんですよ。ワンシーンを切り取ると言いますか、あらすじっぽくならないようにね。そして般若心経を入れることによって、ある種のお祓い的なものをここですませるという(笑)。
─アルバム聴いて不吉なことが起こらないようにっていう、先に手が打たれている(笑)。
和嶋:うまい具合に芳一がハマりました。引き続き「菊花の数え唄」も、昔の怪談をイメージしました。上田秋成に「菊花の約」っていうのがあって、小泉八雲にも「守られた約束」っていう、殆ど同じ内容の小説があるんです。侍が約束を守るために切腹して、幽霊になって帰るっていう話で、それをイメージして人間の誠実さを書いたんですけど、全く幽霊からは外れた感じになりましたよね(笑)。
─(笑)。ハードロックで数え歌を乗せていることにびっくりでしたが。
和嶋:うん、和風にしたくてさ。リズムに対してメロディを大きくとると、童謡みたいに聴こえるかなと思って。和音階の速いリフに数え唄にすると、普通のハードロックではない感じで面白いなと。それだけ聞くとダサダサな感じがしますけど、そこをギリギリダサくならずに(笑)。次の「狼の黄昏」は怪談から少し離れて、失ったものとかに焦点を当てる感じです。ニホンオオカミとか、みんなが懐かしさを感じるもので。
─鈴木さんの声もハマりましたね。
鈴木:犬ですね(笑)。
和嶋:(笑)。王道なハードロックなんだけど、この曲はすごくキャッチーなんだよね。
─オオカミという言葉自体もキャッチーで反応しやすいですし。
和嶋:そう。オオカミって言葉を聞くだけで、みんながきっと哀愁を感じるし、懐かしさを覚えるなと思ったんだよね。
鈴木:これ、「今のはいまひとつだな」って、何回も何回も吠えるところを録り直したんだよな。
和嶋:録り直したね。自然にやると16分の裏みたいな。
鈴木:未だにさ、どっちでもいいんじゃないかと思ってるんだけど(笑)。お客さんと一緒に俺は「ワオーン」ってやりたいから、決まったところでやってるんだよね。そうすれば、お客さんも「ワオーン」ってやってくれるかなって。今はもうライブでどうやるかっていうのを考えながらやってる。
和嶋:次の「眠り男」は映画の中の怖さというか。カリガリ博士の中に出てくる夢遊病の犯罪者、眠り男チェザーレをイメージしてみました。猟奇っていうのは人をはっとさせるトリックスターみたいなものだと思ってて、それを眠り男っていうキャラクターで歌ってみたんです。
─今のお話を伺って、今回のアルバムは色んなキャラクターが出てきて、曲毎に主人公がいるからバラエティに富んでると感じるのだと思いました。
和嶋:そうか、だからそう感じるのか。みんな主人公がいるんですよ。一人として同じ人物はいなくて、向こう側からいろんな人が出てくる(笑)。「黄泉がえりの街」なんかは「泥の雨」にも通ずる現代の恐怖があって、ゾンビものの詞を書いてみたくて。
ノブ:そうだったの!?
─死人が街を歩いてますし。
和嶋:うん。ゾンビって、人間が神を忘れたときに死者が蘇るみたいなコンセプトなので、もしかしたら現代にもゾンビ出てくるかなって。
─よく海外の映画などであるゾンビとはまた違う登場人物ですよね。
和嶋:うん。仏教用語入れたんでね。どっちかっていうと、頭に白い布をつけた人が墓場から出てくるイメージ。ここでちょっとヘヴィさをまた出した。ヘヴィな曲にはゾンビ(笑)。なかなかプログレッシブっぽい展開があるし。
鈴木:中間部のだんだん上がっていくところのギター・ソロの異常さが良いと思ってるんですよ。ギターっていうよりも、三味線とか琵琶の感じに聴こえるギターの方がいいかなと思って。
和嶋:あの半音ずつ上がるところとか、相当やり直しましたからね。いろんなバージョンがあったんだけど。
鈴木:すっごい絵が浮かんでくるよね。これで映画一本撮れるんじゃないかと思う程、良い詞だと思う。