単純な重さとか単純な疾走感だけじゃないグルーヴ—ノブ
和嶋:そしてまた怪談に帰って、わかりやすいキャラクターってことで「雪女」にしました。雪女って、相当怖いし悲しい存在だと思いまして。だから嵐の感じというか、冷たい感じのリフでやりたかったんだよね、
─「恐ろしい美貌」という一節からも、雪女の表情が見て取れますね。
和嶋:雪女はすっげえ美人だと思うんだよね、見たことないけど(笑)。多分、その人が一番美人だと思う顔で彼女は現れるよ。これは、雪女が自分の元にやって来るという視点で書いてみました。きっと、いろんな葛藤を抱えてる人の前に現れるのではないのかなと。
─冷たさや寒さの体温で感じられることが、楽曲からも伝わっていましたね。
和嶋:そこは心掛けましたね。特に寒い感じや雪の感じは。
ノブ:どのパートのリフも魂が入ってて、構成がしっかりしてるからこそ、ドラムも生きるんですけど、単純な重さとか単純な疾走感だけじゃないグルーヴの出し方っていうのは、3人で意識してやっているんです。その自然な流れで、「雪女」の中盤で雪が降ってる感じが出てるとことか、すごい良いですよね。
和嶋:ちょうど冬に発売にぴったりだと思ったんだよね、余計寒くなるみたいな(笑)。
ノブ:あとこれ聴くたびに、「声立てず唇奪う」ってところで「奪われたい」と思うんだよね(笑)。
─確かに(笑)。僕もそうですけど、ノブさんがイメージする綺麗な雪女に奪われたいって願望になっていくんですよね。
ノブ:なんかもう、それで凍って死んでしまっても幸せなんじゃないかと(笑)。
和嶋:ここはまさに死とエロスを意識しましたね。歌詞でエロス出そうと思ったんだよね。
─そして三途の川で死が歌われて。
和嶋:そうですね、雪女でもしかしたら死ぬかもしれないっていう。だから流れが良いんだよね。ブラックサバスの「Heaven and Hell」っぽい曲で。某雑誌のインタビューで、この曲のリフはオジーが抜けた後のサバス的だと。やっぱりサバスの影響がすごくある曲ですね。
鈴木:とにかくギター・ソロ長くして、泣きのギターを入れて欲しいって言ったら尺が長い(笑)。曲の半分、ギターなんじゃないかっていう。
和嶋:そうなっちゃったね(笑)。例えば、ソロパートとしてすっごい弾きにくいコード進行とかあったとして、その場合は「これはどうやっても出来ない」って言うけど、でも頑張れば出来そうだったら、「面倒臭いからやめよう」とは言わないようにしてます。これは、もともと長尺でした。本当は、あの半分の長さの方が楽なんですけど…
鈴木:そうそう!そうだった(笑)。でも、結局ライブでそれ以上になるんで。
和嶋:まぁ興が乗れば(笑)。これでやってくれって言われたものに、そこで頑張らなきゃ男じゃない(笑)。
鈴木:なんとなく、ピンクフロイドのデヴィッド・ギルモアの泣きのギターをイメージして、盛り上げていくのにこの尺が良いと思ったんだけどね。
和嶋:確かに王道だね。本物のロックはこのぐらいやるもの。あ、この曲のソロは、別の音楽雑誌の方から「すげースケールを感じる」って言われました。だからこの長さでやって良かった。
─曲順的にもここで良かったですよね。
和嶋:1番、冥界の感じがする曲がここに来たからね。三途の川に行くときに、ただ「三途の川って怖いよ」とか「死ぬの怖い」とかではなく、死は終わりじゃなくて次のスタートみたいなことを言いたくて。死で全部終わると思うと、生きることにヤケクソになるって言いますか。死があるから、今ちゃんとやっとかないとって思えるんだよね。
─「どうせ死ぬから」じゃないですもんね。
和嶋:「どうせ死ぬから犯罪やりまくろう」って、思うかもしれないじゃないですか(笑)。そうじゃないってことを伝えようと思って。三途の川っていう比喩を出すことで、全然怖がることはない、死に向かって一生懸命やりましょうっていうことを優しい言葉で言いたかった。ちょうど頭のリフがね、川が流れる感じなんだよね。そこに歌詞がぴたっとはまって、最初から詞と曲が同時に出来たかなっていうぐらい。
─しかも、みんなが渡る川であっても1人で渡らないといけない。この情緒は和嶋さんだから書ける部分だなって思ったりもして。
和嶋:ありがとうございます。やっぱりさ、みんなで行こうぜっていうのは、なんか浅いと思うんだよね。結局みんな一人ひとり悩んだり、一人でやんなきゃいけなかったりするんで。この歳になると、身の回りでやっぱりお亡くなりになった方もいるしさ。自分でも考える歳になったから、こういう詞を書いたのかなぁと思いますけどね。それで、死を扱っても、聴いた人が不安になったり嫌な気持ちになるっていうのは避けなくちゃいけない。自分だって耐えられないしね。ここで一度、現代に戻って仕切り直しという形で「泥の雨」がやってきましたね。じゃあ現代はどうかっていうと、実は怖いものがいっぱいある。
─「泥の雨」から「超能力があったなら」の流れは、現代に戻れる位置ですごくしっくりきました。
和嶋:この流れだと思いましたよ。「超能力〜」も、他の曲とは毛色が変わっているし怪談でもないから、今生きてる人の話ですね。どっちも似たようなテーマを実は扱ってます。
─例えば平和のことや原爆という言葉も入っていて、今の不安なものたちをノブさんが歌うことで、その怖さみたいな感情が軽くなる気もしていて。
和嶋:これは入れられると思ったんです。この曲調なら、原爆や水爆という言葉も。きつくならないっていうか、いたずらに怖くならないなと思いました。
ノブ:いや、そんなに歌がうまいわけでもない俺の歌のスタイルとか、歌ってるところとかを思い浮かべて書いてくれたなぁっていう。ありがとうございます。
和嶋:いやいや。曲調が8ビートだし、ちょうどうまい具合にハマりましたね。お客さんが掛け声を一緒にやってくれそうなところに、ESPとかPSIを入れるとすっごい良いと思ったんだよね。
─そして、ここでまたぐっと地獄シリーズに行きますね。
和嶋:鈴木くんの作詞作曲の曲はアルバムに1曲はないと。
鈴木:俺は、もうそろそろ書かなくていいんじゃないかと思ってるんだよね。
─ええっ!?
鈴木:もう書くとしたら地獄のことしか書けなくなってきちゃった。もうこのままシリーズ化にしようかなと思って。地獄の画集とか見るのが好きなんで、どうしてもこういう流れになってしまうんですよね。
和嶋:鈴木くんの書く歌詞は映像的なんですよね。僕は観念にいき過ぎたり理屈っぽくなったりするんで。そうならずに、視覚で楽しませてくれるのが鈴木くんの歌詞だと思うので、地獄の歌だけど救われる感があるんだよね、楽しくなるっていうか。
─「風が吹いたら元通り」って、本当は恐ろしいんですけどね(笑)。
鈴木:そこが一番恐ろしいところなんだけど。それほど怖いから、悪いことしちゃだめなんだよ (笑)。どんなに苦しんでも、次の機会にまた最初からっていうのは恐ろしいですよね。
和嶋:永遠の苦しみっていう、それは耐えがたいよ。
─もちろん恐ろしいことが書かれてるんですけど、「ぶるんぶるん」「ぐるんぐるん」などの親しみのある言葉で、描写されるあたりが鈴木さんらしい。
鈴木:球技大会みたいなもんだから(笑)。
和嶋:地獄の人たち、遊んでますね。