金子ノブアキ インタビュー

― RIZEという場所があるからこそ、今作では自身の境界線が解かれて自身の武器も含めて開放することができたと。そこへ日高さんに声を掛けたときに、彼に何を求めたのでしょうか?

ご縁があったのは1つですけど、大きいのは彼のキャラクターですよね。特にラッパーって、パーソナリティやキャラクターが如実に出るジャンルだと思っているから。彼が今まで歩んできたキャリアを見ても、マスのど真ん中をひた走ってきつつも”自分はここにいたい”ってラップをして、いろんな現場に行って生き残ってきた。本当にジレンマもたくさんあったと思うし、今はどちらも大成してすごい状態にあると思うんだけど、自分のやりたいことや言いたいことが、はっきりとある研ぎ澄まされた人間と、精神性の共有っていうのは大きく求めたと思います。

― ある意味、同じ匂いも感じますね。

そうかもしれない。彼も彼で、僕と同じで絶対領域がすごくある人だから。清川あさみちゃんやenraとかもそうだと思ってて、変な共依存を生まない関係っていうのは、すごく健康的なんですよね。僕はいろんなラッパーの友達がいるけど、日高君は特にタイプとしては近い。音楽も本当に好きだし、物を作るのが好きだし。四六時中なんか作ってるみたいなイメージがあったからね。

― フィーチャリングといえど、提示する以上は同じベクトルで進める人とでないといけないですしね。

やっぱり”東京でカッコイイものを”って見せていく上で、やっぱりこういうことだろうっていうのを高らかに宣言しなきゃっていうのもあるし、今までを振り返ってみると全然してなかったなって。自分の名前でやる以上は、個人で責任を取る上で「歌詞は結構きわどいことも言ってみようかと思うけど、乗らなかったら全然いいよ」って。それでも、日高君が乗ってくれたのは、精神のベクトルが同じ向きにあったからだと思います。

大人気ないけどちゃんと責任を持って楽しむこと

― キーワードとして”東京”が出てきましたが、制作において日高さんとはどういうキャッチボールをしていったんですか?

大きなテーマやタイトルからですね。相手在りきなことだったんで、東京のカッコイイ曲をテーマに掲げて、『illusions』というタイトルを彼に投げました。こういう、いかにもなトラックで、いかにもな人間が真っ向から否定するパンクってあるよなと思って。すぐにラップを返してくれて、もちろん直すところなんて全然ないし、僕もそれに対してコーラスでも入れようと”パクられろ”とか言ってみて(笑)。正論を言ってるんだけど、スゲェヤバいヤツみたいに聴こえるみたいな、表裏一体な感じの面白さって、すごく端的に今のこの街を表してるよなと思って。バンドをやってると、どこに行ってもいろんなヤツがいるからさ、そういうやつらには本当に怒るし、ミクスチャー界のマトリと呼ばれてるんで(笑)。

― (笑)。だからこそ、ストリート・カルチャーでやってきたプライドみたいなものもあるでしょうし。

そう。それで生き残ってきたっていう自負があるんですよね。「やっちゃいけないことはやっちゃいけないから」っていうところで活動してきた。それを作品化して、今だったら良い感じにトンチも効いて、力を抜いた状態でできるかもしれないなと。そう思ったのはバンドをやってるからかもしれないし、子どもが生まれたからかかもしれない。子どもが生まれて最初の曲がこれっていうのは、なかなかだなって個人的には思いますけど、非常に爽やかな曲です(笑)。

― 1つ1つの単語を追うのも重要ではありますが、今回は正しい大人の悪巧みですしね(笑)。

ですね(笑)。僕が思ってることを音で遊びながら「そういうふうに聴こえるでしょ?」って、遊び心はちゃんと持ったままメッセージを発信したいなというのは、今回は特に思ってましたね。

― 今までは、結構大きいテーマの中にいる個人っていう世界を見せてくれていましたが、そういう遊びはきっと元々持っていたものでもあるかなと。

そうですね。大きい世界だから当たり前だけどあたりさわりはないし、そういうのをいっぱい作ってきて、ちょっと飽きてたっていうのもあると思う(笑)。今回の歌詞の内容とかも、新しいシーズンっていう部分があるし。子どもが生まれて僕自身が1番変わったなって思うのは、自分の中で意識してちゃんと大人げない部分のチャンネルを1個開けて、バランスを作る必要があるって気付いたこと。そうしないとやっぱり老け込んだりもするし、”子どもの為に”っていう盾を作ってしまう気がしてて。ちゃんと育てながら、でもどっかでははっちゃけて大人げなかったりするけど、言ってることはこういうことっていう。

― わかります。それがバンドマンのアティチュードだったりしますもん。

それはすごく大きい。僕は本当にバンドマンだし、いわゆる褒められた優等生な人生ではないんだけれど、そうやって生き残ってきて、本当に良い友達にも恵まれて今もこうやってやってこれてる。そこで1つ牙を剥く方法というか、子どもに迷惑がかかっちゃったらヤバいんだけどさ(笑)、大人気ないけどちゃんと責任を持って楽しむことに取り組んでる気がします。あとは情熱を持ってとか自分が納得してとか、”お前は燃えてるか!”みたいなことをすごい問われてるような気がして。大義名分がバンと真ん中に生まれて、その選択をする大人をダメとは言わないし、むしろ素晴らしいと思うんだけど、だからこそ、今作のように楽しんでカッコイイもの作ろうよっていう、シンプルな所に立ち返ったっていうのもあって、自分が持ってるものや信じてるもの、好きなもの、今欲しいものや聴きたいものを作ることに、素直に向かわせてもらえてるのは本当にありがたいです。

1

2

3 4