金子ノブアキ インタビュー

10月3日にデジタルリリースされる金子ノブアキのNEW EP「illusions」。
SKY-HIをフィーチャリングゲストに迎え、「トライバル」という普遍的なリズムと「東京」という時代の先端を表現した本作は、いかにして生まれたのかを語ってもらった。

バンドへの”アンチテーゼではない方法”での答え方

― 今作では、フィーチャリングゲストを迎えるという初の試みですが、振り返るとソロが始まった2009年のタイミングでも、やれないことではなかったとも思うのですが?

そうですね、バンドをやってるので特にラッパーと組むことには貞操観念や、ある種の枠組みみたいなものが自分の中で出来てたんだなと思うし、ラップの人を入れるならRIZEに呼んでやるっていうことが、なんとなく自分の中にあったんでしょうね。去年1年間をバンドで動いて、最後の武道館で20周年を締めくくって一息ついたときに、何か作ろうとは思ってて。これまでの作品から何かの変化やフレッシュなことをと思ったときに、誰かと一緒にやろうかなと。その中で、漠然とラッパーとやったらカッコイイんじゃないかなみたいなね。僕自身が東京のストリート・カルチャーでずっと過ごしてきて、自分の名義で出る作品もそこにちょっと回帰してて、バンドへのアンチテーゼではない方法での答え方があるんじゃないかなと思ってた。それをやっても、そろそろ力まずにできるかなと思った去年の年末のタイミングで、日高(SKY-HI)君にたまたま街で会うことがあって。そこで「なんかやりましょうよ」って話になって、すぐにトラックを作りました。

― この手の話だと、「またご飯でも行きましょうよ」くらいに社交辞令で終わったちゃうパターンになりそうですけど、日高さんとの偶然の出会いではそうならなかったと。

確かに「いつか何かやりたいですね」みたいな話っていろんな人とするけど、これは今かもしれないなと思って(笑)。僕は彼の高速ラップがすごく好きで、きっかけは家の掃除をしてるときに彼がCMに出てて、調べたらAAAのメンバーだし凄いラッパーがいるなっていうところだったんです。それからほどなく知り合うこともできて、何か作ったりっていうタイミングは、こういったある種の引き寄せや導きみたいなご縁があってこそだと思います。

― 先ほど仰っていた”力まずに”というタイミングが、お互いにとっても重要なんでしょうね。

今だったら、本当にお互いスッと始めれるなと思ったんで。やっぱ力んじゃうと、ザクっと傷ついちゃうんだよね(笑)。スッと刃が入るような状態で誘うことができたし、すぐに差し出さなくっちゃと思って、『illusions』のあらかたできたものを送って。「ちょっと早口で物量多いんだけど、一緒にやってくんないかな?」って。それからはあっという間でしたね。

― 最初に”貞操観念”という表現がありましたが、確かにファン目線からしてもちょっと禁じ手かなという部分もあったと思いますが、そう伺うとバンドへのアンチテーゼではない方法が、今のタイミングならできるっていう。

そうなんです。やっぱり、ラップとビートで20年っていう部分は、RIZEの根幹部分だったり僕とJESSEの関係性みたいなものの象徴でもある。だからこそ、今までは逆説的なリスペクト込めることとして、1番大きなことで僕のソロワークにはベーシストとラッパーがいないっていうこともあって。それはAA=の剛士さんや、KenKenやJESSEにいわゆるアンチテーゼじゃないことで、みんなのことを想いながら作っていることも含めて。だからこそ、バンドの状態が良くなかったりするとできない。でも、今はすごく穏やかな状態だし、僕とJESSEなんか特に”2人おじいちゃん”みたいな感じで、会えばまったり(笑)。この間も、お互い赤ちゃんを連れてご飯に行ったりして、すごく良い状態なんです。だから、今こそストリートの空気をここにもってきたら面白いんじゃないかなって、穏やかであるからこそ単純な遊び心が芽生えたっていうのが、本当に1番収穫ですね。

― また、そこに辿り着く過程として、時間軸的にはソロとして9年が経ちます。フィーチャリングって、ある種対等でないと成立しないと思っていて、その時間を経て自身で金子ノブアキという屋台骨に、自信を持てる状態になったことも大きい気がします。

おっしゃる通りで、すごく気分的には穏やかなんだけど腹も決まった状態だからこそ、人を迎え入れることができるなっていう。それによって、いろんな想像ができるのもあるし、何より作っていて楽しいのは、ある種の自信が持てるようになったのかなと思う。制作のブレーンである草間さんやPABLO、エンジニアっていう信用できる人間がいるのも大きいです。彼らがいるから、大事なメッセージは入れながら「あんまり聴いたことないものを作ろうよ」っていう悪巧みができる(笑)。僕の活動をちょっとでも知っている人がいたとしたら、きっとアンビエントな方を想像していたと思うんです。「ここでアフリカントライバルが来たら爆笑だろう」っていうところから始まったところに、日高君ともコンタクトが取れたんです。

― ラッパーとやるドラミングは、最大の武器を出すことでもありますしね。

それしかできねえっていうのもあるんだけど(笑)、超得意だしラップが乗りやすいドラムは自信を持ってできるから。そういう、自分が最初からずっとやってきてるものにあった境界線みたいなものを、一度取っ払ってみていいんじゃないかなって思えたり、気楽にそれができるようになったのは、まさに自分の状態が良いんだと思いますね。去年のバンド活動がもたらしたものって非常に大きくて、本当に自信がついたんですよね。僕だけじゃなく、JESSEもKenKenもそうかもしれない。RIZEなんて、変な話ゾンビ化してるような、死なないし不死身みたいなバンドみたいになってきちゃって(笑)。僕としても1つ魂の帰るところだし、ああいう大義が自分たちの中にあると、ソロでも安心して取り組むことができるもんなんだなと思いました。だからこそ、冒険心もくすぐられて、バンドではできないこととして、今回の曲のように相当異端なものができたし、それは東京という情報が集中してくる場所であり、通り過ぎていく場所であるところで、今まで僕の現場で作ってきた音みたいなものを融合させたときに、面白いことが起こるかもなと想像できたからだと思います。

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