金子ノブアキ インタビュー

― 根幹にはあって、いつかは聴いてみたいですけど。これでいきなり愛だ恋だって言われたら、逆にちょっと騙された感じはしますよね(笑)。

嘘つけ!みたいなね(笑)。もちろん、家族や周りの人間が無事で元気でいることは人生最大の幸せなんだけど、僕らがやってることはある種の娯楽でありアートであり自己表現だから。それを共有する為に作品やライヴがあるけど、音楽は特に「人は1人で生きられない」っていうところと「最後は1人だから」っていうところが、背中合わせで同居してるジャンルだと思うんですよね。バンドの現場だと、みんなで1つにワーッと盛り上がって”俺たちは1人じゃない”ってやるんだけど、家に帰ったら”1人でいたいときもあるじゃん”っていうのも、リアルだし表現したくてソロをやってるっていうのはあるんですよね。音楽って、すごく人間くさいジャンルだけど、やっぱり生きるための最優先かというと、本当に今も北海道が大変だけど、災害とか起きたらそれどころじゃないのも事実で、「今、牙を剥いているときなのか?」って自問しながらも、そのバランスが重要なんだと思います。

― でも無くしちゃいけないものだとも思いますし、そういうもがき方もリアルだったりします。

時間と余裕とWi-Fiあったら聴いてみてぐらいの感じで。縁があった人には何でも力になりたいけど、全人類を救うことはできないじゃんっていうのもあったり。そこを永久に行ったり来たりしてる。変な言い方だけど、今回はそういうとことは全然切り離した無責任なところで、正直にやろうっていう中で『illusions』が生まれたっていうのはありますね。

― その生まれた『illusions』のMVでは、先ほどからキーワードになっている”東京”がフィーチャーされています。個人的な興味でもあるのですが、東京で生まれ育って、ずっと東京で生きている人から見る東京は、どう映っていますか?

街としては、メチャメチャ受動的ですよね。やっぱり、外から来た人が回してくれてる街だと思うし、回ってる場所って人が集まってるからそういうことになると思うし、情報の通り道であっても終着点ではないです。個人的には、そこで止まってるイメージがなくてパーっと通り過ぎていくし、それをインストールしていく感じ。島国で戦争に負けた歴史の中で、いろんな文化が開かれてバーッと入ってくるようになってる。例えば、オリンピックが2年後っていうのも含めて、今すごく活性化しているけどそれがワーッと引いて、そのときに何が残るかっていうと、この街の受け身な部分っていうか、元々暮らしてる人たちはただ普通にしてるはずだと思うんですよね。そのときも、僕はこういうものを作ってたいなと思うし、『illusions』はその始まりの曲かもしれない。そういう意味では、テーマ性も合ってて、祭りのあともちゃんと気高くやってるんだっていうことを、ずっと宣言し続けなきゃいけないと思う。

― 今のお話を伺うと、『defeat illusions』もすっと入ってきますね。『illusions』と相反するような、静寂にある灯火のようなサウンドも、金子ノブアキの真骨頂というか。

個人的にですが、カップリングやリミックスでよく意識するのは、肉体と意識みたいなところなんです。今回は表題曲がこれでもかっていうくらいの肉体性を持ってるんで、逆に引いてったら面白いだろうなと思って。『defeat illusions』の方はPABLOのギターをすごいフィーチャーしてるんだけど、レコーディングではギターが1番最後だったんです。彼はカッコイイ音をたくさん送ってきてくれたんだけど、入り切る場所が限られてて。それで、ギターの音とかもMIDI化したりして、彼の音を基にリスペクトも込めてあの曲になっていったんですよね。あとは逆張りのリスペクトで、日高君のラップはブリッジから出てくるっていう作りで、極限まで引いていったところでも、あのラップを響かせてみたくて。テンポもコードも『illusions』と同じままで、半分は遊びかもしれないですけど、そういう感覚を大事にしながら、禁じ手やってナンボみたいなとこもあるかなと(笑)。『whitenight』もそういう意識で作りました。

時代が進むとやっぱ面白いことがある

― 繊細でいながら、飽きが全く来ないんですよね。

元々はあさみちゃんと美術館の個展の曲として存在してたんだけど、それを草間さんと2人で改良して。アンビエントだと、同じものが出ずに繰り返さないっていうは重要なんです。本当にゆっくりと通り過ぎてく感じで、ストーリーを作るのは難しいです。おっしゃる通り、音を作っても”これは◯分ぐらいから入れよう”って、意外と繊細なんですよね。

― 逆にロックをずっとやってきて、リフレインの良さを知っていながらのこのアプローチは驚かされました。

ロックだと音もでかいし、ある程度は誤魔化せるんだけどゆっくりになると、打点に誤魔化しがきかないし、掛け違えたまんまゆっくりいくとか超気持ち悪い(笑)。そう考えると、すごく納得のいく内容になりましたね。

― 『illusions』もそうですが、こうやって金子ノブアキとして今の時代に何を提示していくかということが、どの曲にも凝縮されているからその納得度も高い気がします。

個人レベルの名前でリリースというのは、ものすごい提示に近くなりますよね。バンドで「一緒にいこうぜ」とか「ライヴにきてくれ」ってやってるときよりも、「俺はこう思うけどみんなはどうだ?」っていう、押し付けない提示みたいなね。青臭いですけど、バンドって青春なので、最近だと映画の『SUNNY』みたいに一瞬で15、6歳に立ち返るような美しさがあるけど、僕個人でやってるときはもうちょっと違いますよね。提示そのものというか、手渡しでそれを渡すんなら渡すし、ここに置いとくんでぐらいの感じと思ってもらえるとすごく嬉しくて。バンドも僕個人も同じぐらいの熱量と繊細さで臨んで、そこにあったある種の境界線が取っ払われたっていうのは、初めてのことだし個人的にもすごく興味深いんです。アンビエントとラップでいけるじゃんみたいな盛り上がりあるし、すごく異端でどこにもないみたいなものを企みたいんですけど、その発端が『illusions』なのかもしれません。

― イントロからすでに彷彿してますからね。

38秒ぐらい歌が出てこないからね(笑)。先日も『illusions』のテレビ収録(Love Music)があったんですけど、この曲で民放がフル尺ですからね。昔出ていたポンキッキーズとかの頃を思い出したりして、胸が熱くなってました。バンドでも来たけど、ソロでも来てまさかの生演奏でフル尺はスゲェと思って。RIZEを始めた頃に「覚えてろよ!」と思ったときから、時代が進むとやっぱ面白いことがあるなと、本当に胸がいっぱいでした。

― (笑)。その気持ちって、すべての原動力の源じゃないですか。

エンジンですよね。説教くさいけど、若いときに苦労は買ってでもしろみたいなのって、案外あながちだなと思った。

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