シュリスペイロフ インタビューvol.28

反応がダイレクトに返ってくるライブに重みがあった

—今のお話を伺うと、シュリスペイロフの活動として、作品を出すことはもちろんですが、より良いライブを魅せることへの需要度が増したタイミングですね。

宮本:確かに。CDを出すっていうことが夢として昔からあったので、それを2枚出して。その後は、反応がダイレクトに返ってくるライブに重みがあった気がしますね。CDは…CDってなんだろうね?ダイレクトには返ってこない…何が返ってくる?

野口:(手でお金のジェスチャー)

一同:(笑)。

宮本:確かにね(笑)。

—それ、ライブでも返ってきますよ(笑)。CDは届けるものであって、受け取った人がどう行動するかは委ねられているものですよね。聴いてライブに来たならば、それこそ返ってくるものでしょうし、繰り返し聴いてもらえるだけでも、目に見えない繋がりが、受け取った人とバンドには出来ているでしょうし。

宮本:そうですね。他のバンドさんが聴いてくれて繋がりが持てたりとかね。ライブでいっぱいいっぱいだった部分はありますけど、良いライブをして、手売りのCDを届けられてというのを重要視していましたね。

―その成果物として、ライブアルバム「シュリスペイロフ LIVE十一」のリリースがあった?

宮本:そのときにどこかのインディーズレーベルの方から「ライブアルバムを出さないか?」って言われてて。僕らからすればとんでもない話だと。でも、少しづつライブの演奏力がついてた実感もあったし、ライブの評価をしてくれたので、その企画のまま別のレーベルから出すことになりました。あと、「もぐる。」から2年経ってたので、そのときのベスト盤としても出せるなって。

ーまた、既にライブでは定番化された楽曲たちではあったと思うのですが、新曲をライブ・パッケージとして出すことも、次への布石とも取れる形になりましたよね。

宮本:そうですね。「こんな曲があるから、次のアルバムを楽しみにしててください」というね。

―スモゥルフィッシュの澁谷悠希さんがサポートに入られたのはこの頃ですか?

宮本:そうですね。最初は村田くんでその頃には澁谷ですね。気づいたら、もう5年くらい一緒にやってますね。

―「0.7」では、ライブ修行明けでもありましたし、久しぶりの制作となりましたが、ライブから生まれた楽曲も含まれていたのでは?

ブチョー:半々くらい?

宮本:アルバム用に作った方がちょっと多いかも。時間もけっこうなかったんですけど、とにかくこれは辛いレコーディングでしたね。それまで2年ずつ出してたので、それに間に合わせるんですけど、楽曲を作るスピードとかもそれまでと全く変わってなくて。

—更にフル・アルバムでしたし。

宮本:出したことないから、作り方がわからなくて。さっきのライブの話じゃないですけど、着地する場所がわかんない感じですね。もちろん、バランスみたいなものは考えながらやるんですけど、とっちらかってる感じで。歌詞もレコーディング直前、というか当日に書いてたし。全てが間に合ってなかったですね。

—暗中模索というか、完全に追われてますね。アレンジも同様にですか?

ブチョー:そこは決まってましたね。

野口:俺は普通だったよ。辛いとかなかったし、ゲームしてた気がする。

宮本:そうだろうなと思ったよ(笑)。当然ブチョーもそうだったんでしょ?

ブチョー:そんなことないよ(笑)。

—難産だったことには間違いないですね。

宮本:だから最近まで聴けなかったですね。iPhoneでシャッフルにかかってきたら飛ばすくらい(笑)。自分の作品をちゃんと好きになることをしたいなって思いましたね。

—でも、今までの作品でそれがなかったということではないですよね?

宮本:「シュリスペイロフ」や「もぐる。」とかは多分聴いていたと思うんですけど、「0.7」に関しては、客観視が出来なかったですね。良いって言ってくださる方もいますけど、僕にはわからなかったですね。

—産むのに精一杯な故に、アルバム全体を掌握しきれていなかった、もしくは自分の中で消化不良を起こしていたのかもしれないですね。

宮本:把握しきれなかったし、それはあったと思います。

野口:宮本がそういう感じだっていうのはわかっていたんですけど。自分としては今でも聴けますね。

ブチョー:最初は僕も普通に聴けたんですけど、聞き込んでいくうちに、どうもモヤモヤした感じがあって、聴けない時期もありましたね。

—メンバー間でも、バラバラの印象であることが象徴するように、1つ1つの楽曲はライブでも演奏されていると思いますし、アルバムとして聴くことに違和感があったのでしょうね。

宮本:そうだと思います。「0.7」からの楽曲をライブでよくやるんですけど、アルバムとして聴くと不思議な感じですね。

「今日レーベルに入れてくださいって言いに行くよ」って

―それから2013年、the pillowsの山中さわおさんのレーベル移籍でしたが、「0.7」でのこの経験があったからですか?

宮本:元々は、大阪のラジオ番組のパーティーをそのラジオ局でやってて、「もぐる。」を出したときに潜り込んで(笑)。そのパーソナリティーの土井さんが「さわおさんを紹介してやる」って言ってくれて。ごった返した中、一瞬だったんですけど、CD渡して3秒ぐらい挨拶したのが初めてですね。それを聴いて下さったみたいで、さわおさんのラジオ番組でかけてくれたことを人伝に聞いてて、「好きになってくれたんだな」っていうのがあって。

—ガッツリした絡みというより、むしろ挨拶程度だったんですね。

宮本:そうです。それから2年くらい経ったときに、さわおさんがプロデュースしてるカミナリグモと、東京で対バンすることになって。プロデュースしてることは知らない状態で、さわおさんが楽屋とかに来てたんで、びっくりしまたけど(笑)。そのときにライブを観てくれて、一緒に飲んだり連絡先を交換して。ピロウズが札幌に来るときは観に行かせてもらって。そういうときに、僕らも当時のレーベルからCDが出せなくなって、次は「好いてくれている人のところから、出せたらいいな」というのがあって。それでお願いしたらサクッと決まったんです。

—結構あっさりしてますね。また「0.7」云々ではなく、単純に作品を発表する場を模索された中での移籍だったんですね。

宮本:僕は「今日レーベルに入れてくださいって言いに行くよ」ってメンバーに言ってから行ったんですよ。タイミングを計って僕が言ったんですけど、こいつらが何も喋んないんですよね(笑)。即答だったよね?

野口:記憶にない。しゃぶしゃぶ食べてた(笑)。

宮本:結局、君らは横でへいへい言ってるだけで(笑)。僕は全然喋る方じゃないんですけど、喋ってて大変だったな。さわおさんのところに行ったら、さわおさんの同級生とか来始めて「邪魔くさいなぁ」と思いながら(笑)。

—緊張を他所に(笑)。

宮本:割とウエルカムみたいな感じだったので、まだ良かったですけど。そのときに「入るんだったら東京に来ないと、自分が行ったり出来ないから」とさわおさんが言ってくれて、東京に行くことになったんですね。

—そういう経緯だったんですね。不思議だなぁと思うことがありまして、初めてCDを出したタイミングやメジャーデビューの際など、それまでにも東京に行くタイミングってあったと思うのですが?

ブチョー:確か、「シュリスペイロフ」出す辺りで1回あったんですよ。

宮本:俺はなかったよ。

ブチョー:あれ、なかったっけ?

野口:ブチョーは行きたくないっていうのはあったけど。バンドとして行こうっていう感じじゃなかったよ。

ブチョー:いや、周りのスタッフさんからも「敢えて東京に行かなくても、札幌でも出来るから」って言われてて。「もぐる。」のときも同じ流れですね。

楽しいことがありそうな感じ

―活動拠点にこだわらずとも作品リリースやライブが出来る環境があったということですよね。

宮本:それでなんとなく、流れていった感じだよね。

野口:そんなに詰めて考えてなかったんじゃない?

宮本:あとは「北海道」っていう個性みたいなものが失くなるのが怖かったですね。

—よく言われるのが、作品への影響ですよね。

宮本:それも聞きました。「東京に出たら変わるよー」って。当時、Galileo Galileiが東京行って、すぐ帰ってきてたりしたんですよ。
そういうの聞くと怯えてました。

—それでもさわおさんからの呼びかけに応えられたのは、そのネガティブな情報を超えるものがあったからですよね?

野口:俺は行きたいと思ってたから。

宮本:野口くんは前から言ってましたね。僕は揺れてて。ブチョーは行けるとは思わなかった?

ブチョー:そうだね。

野口:一番サポート歴長いのに。

ブチョー:メンバーじゃないの?じゃ呼ぶなよ(笑)。

宮本:あと親に反対されてたでしょ?

ブチョー:違う違う。「0.7」出すくらいで、みんなと真剣にそういう話があって。僕はそこで行ける道があれば行こうって固まってたんで、良い話がもらえたからですね。

宮本:何より、楽しいことがありそうな感じがありましたね。さわおさんのレーベルに入るとか、今のスタッフの人もウエルカムで嬉しかったし。さわおさんからも、「そんなに怖いとこじゃないよー」的な(笑)。

野口:さわおさんが一番怖い(笑)。

―「turtle」では、さわおさんのプロデューサーとしての参加があり、これまでと制作面での変化は必然的にあったと思うのですが?

宮本:それまで、プロデュースとういうものは経験がなくて、どんな感じで関わってくるかがわからなかったんです。実際やってみると、僕たちの良さが活きるようにしてくれたので、やりやすかったですね。さわおさんの中で既にあったと思うんですけど、言葉を選んで指示をしてくれたり、口を出さない方がいい場面での線引きが良かったり。大きくは、ギターの音とか、理論的なところ、あとは細かいアレンジくらいで、自分たちが思ってたところからは変わらない感じでしたね。

—バンドのやりたいイメージへ導いてくれる役割を担ってくれていたと?

宮本:そうですね。あとは放っとくからね。夕方くらいになると、さわおさんがお酒飲み始める(笑)。

楽しいことと、バンドっぽいことをやりたい

―(笑)。アルバムの全体像・方向性のようなものは作詞・作曲される宮本さんから野口さん・ブチョーさんに指示されるのですか?

宮本:殆んどなくて。「こうしよう」って言うのではなくて、普段の会話で何気なく話していたことが、アルバムのスタンスというよりバンドのスタンスとして、共通認識になったと思います。「0.7」を録り終わった頃に、3人で夜の公園で喋ってたんですけど、野口が「楽しいことと、バンドっぽいことをやりたい」というのを言ってて。「turtle」を作り始めた頃に「こういうことかな」っていう感触は見えていたから、今回は一人一人の演奏の表情や、出てくるフレーズをそのまま出すことで、バンド感を打ち出せたし、楽しんでやることに繋がったと思います。

―前作との対比ではないですが、楽曲のバラエティ・世界観の広がりが見られる作品となっている印象を受けましたが、制作中にそういった芽生えはあったんですか?

宮本:「0.7」の経験であった「歌詞がかけない・時間が足りない・焦ってる感じ」を踏まえて、上手く肩の力を抜くことが出来て。さわおさんからも「アルバム全体を見据えて、楽曲の役割を考えた方がいい」って話をされてて、だんだん実感してそれを活かせてる感じですね。

—確かに歌詞については、日常の情景がすぐに飛び込んでくるリリックが「turtle」の時点で既に見られていましたが、空中・宇宙・地球という規模感が大きい言葉でさえ、隣合わせの日常(その周辺)に出来てしまう世界が広がっているのは、自然体で臨んだからなのですね。

宮本:歌詞に関してはもうちょっと昔だったら、着飾った言葉を書こうとしたと思うんです。昔は離れたところにあった”ミュージシャンをしてる自分”と”制作してる自分”が今は一致してきてる。恥ずかしくて言わなかった言葉や、未熟だったりして省いてた言葉も、全て自分の言葉として思えるようになったことが大きいですね。

―それがより身近に感じさせ、共感を生む言葉になったんですね。

宮本:昔はボキャブラリーを増やさないといけないと思ってたし、難しい言葉を使って賢く見られようとかしてました(笑)。今は増やさなくても、普段使ってる言葉でリアリティがあるし、その方が聴いてくれる人も共感がしやすいかなというのはありますね。

―演奏面でも、冒頭でお話いただいた “バンド感や楽しんでやること”を実現できたのは大きいですよね。

野口:今、リッケンバッカーを使ってるんですけど、買った当初は全然使いこなせなくて。ようやく最近、音の出し方がわかってきて単純にベースを弾いてて楽しい。その部分がこのアルバムで出せました。

ブチョー:このアルバムに関しては、それぞれの曲に寄り添って演奏が出来て。いつも目立ちたいフレーズを出したいっていう欲求があったんですけど、最近は失くなってきて、ドラムとして目立ち過ぎないようにとか、邪魔しないようにとか。

野口:目立てよ(笑)。

ブチョー:「ドラムって目立つ楽器じゃない」って最近気付いてさ。

宮本:他の楽器を活かすようなアレンジをしたってことだね。

—「その周辺」に収められた全10曲ですが、これまでにないアプローチの楽曲もあり、”表情が見える”という言葉がまさに当てはまる、バラエティに富んだ楽曲群となっていますね。

ブチョー:「空中庭園」は今までになかった曲ですね。

宮本:「その周辺」もかな。そんなに深く考えずに作ったんですけど、「アルバムのブリッジになるような曲が欲しいな」と思ってたんですよね。

—アルバム・タイトル曲ということもありますが、この曲の効力は大きいですね。

宮本:曲のタイトル自体は、アルバムのタイトルが決まってから付けたんです。最初のコンセプトは、札幌から東京に出てくるときの曲で。自宅から車に乗って、バスに乗って空港に行って、飛行機に乗って電車に乗って、ライブハウスに行くまでを録音してみようと思って作ったんです。実際に、東京の電車の音とか、自宅近くのスーパーや本屋を混ぜてるんですけど、既に東京に住んで2年も経つので…

—しっくり来てなかった?

宮本:そのとき、「その周辺」という言葉が出てきて。あの曲自体「東京、その周辺」って歌ってるじゃないですか?その周辺をつけたとたんに、アルバムのイメージが広がったというか。

—結果、アルバムを象徴する楽曲となったと。

宮本:そうですね。

 

すげぇ良いアルバム作った気がしてきた(笑)

野口:いつも「オススメの曲は?」って聞かれるんですけど、毎回「全部です」って答えるんですよね。

—実際そうであるべきだとも思います。特に今回のアルバムは最初から最後まで聴いて、楽曲1つ1つも勿論ですが、アルバムとしての表情が強い分、切り出し辛い部分がありますよね。

宮本:僕も録り終わったときに「最初から最後まで聴きやすいアルバムだな」って思いました。

野口:それぞれの曲の方向性が違いすぎるわけでもなく、同じでもない。統一感がないようである。アルバムとして良いと思ってますね。

—パズルのピースのように、どれか欠けていれば完成しなかったでしょうし、表情が違う曲同士がどれも揃っていてこそのアルバムですし、切り出せないんですよね。

宮本:ジム・オルークの「ユリイカ」が好きなんですけど、あれって切り出せない感じだったなあと今思い出した。なんか、すげぇ良いアルバム作った気がしてきた(笑)。

―(笑)。今回のジャケットもオススメしたい部分の一つなのですが、解説いただけますか?

宮本:そんなに意味なく書いたんですけど、僕ら4人がいて、新たな街に来てっていう意味で。東京をイメージして書いたんですけど、山を書いてしまったら、東京にはならなくて。建物も田舎臭い感じで、タワーも書いてみたけど、やっぱ東京じゃなかった。それも逆に気に入ってるんですけどね。

—東京での生活が2年経過しているものの、北海道での時間が長いわけですから、リアルの描写ではなく、その両方のイメージがこのイラストに現れているんでしょうね。で、その描写こそがバンドにとってのリアルでしょうし。

宮本:なるほど、混ざったのかも。知らないところだけど、良さそうな街みたいなね。
聴いてる人にも当てはまるようにしたかったから、そういうイメージで描いてましたね。

―これからインストアイベント・イベント出演・ツアーとまさにファンの周辺へと出向くこととなりますが、これまでの楽曲と「その周辺」での楽曲が、どういったコントラストを見せるのかが楽しみですね。

宮本:このアルバム自体が僕らの今って感じがするんで、それに肉付けしていくセットリストだよね。最近になって、ライブも自分たちの空気に色濃く出来るようになってる気がするんです。お客さんにタメ口をきけるようになったし(笑)。しかも、ツアーですし、その距離感が近くなっていくかと。「ルール」はライブを意識して作ったんですけど、セットリスト的にも良いグラデーションになるかなと思います。今までのライブとは違う世界が楽しみだな。

—まずは「その周辺」を聴いていただいて、ですね。

宮本:聴いた人それぞれの住んでるところとか、住んでたところとかイメージしやすいようなアルバムになっていると思うので、生活が楽しくなるようなアルバムです。「働きたくない」とかで言えば馴染むと思うし(笑)。自由さがあると思うので、生活と並走して聴けると思うので、楽しんでもらえたらと思います。

ブチョー:シュリスペイロフの中ではポップなアルバムになってるし、聴き込んでというよりは、生活しながら聴くのが楽しいアルバムになってるので、色んな場面に溶け込ませて欲しいなと思います。

野口:シュリスペイロフなので明るくはないんですけど、割とポジティブになれるアルバムだと思うので、「働きたくない」って字面だけ見て、誤解せずに全部聴いてください。

一同:(笑)。

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