伊藤ふみお(KEMURI) インタビューvol.29

結成20周年を迎え、6月には現在のメンバーでの再録を含むベストアルバム【SKA BRAVO】、7月には11作目となるオリジナルアルバム【F】をリリースと、バンド史上最高にアグレッシヴに活動し続ける、日本が誇るスカパンクKEMURI。Blasting Room Studiosで録音された2つのアルバムを中心に、Vocalの伊藤ふみおにその制作秘話を語ってもらった。

—前作「RAMPANT」から1年も経たないタイミングで2枚のアルバムリリースとなりましたが、今年の3月までツアーをされていたことを考えると、息つく暇もないペースで活動が続いています。そして20周年を迎えるにあたり、ベスト盤・オリジナル盤を制作するということは決めておられたのですか?

オリジナルにあたる今回の11枚目のアルバムは頑張って作ろうよと決めてました。で、過去の曲を録り直すっていうのは、けっこう後から出てきた企画です。

─20周年の一環として?

そうです、そうです。昔からKEMURIを知っていてくれてるレーベルのスタッフがいるんですけど、「今のKEMURIがすごく良いから、今のメンバーで今のKEMURIを表現できる楽曲を録り直そう」って言われたのがきっかけだったんですよ。

—そこでBlasting Room Studiosで「SKA BRAVO」と「F」のレコーディングをされたとのことですが、このスタジオを選ばれる理由を教えていただけますか?

Blasting Roomは1998年からずっと行ってるスタジオで、KEMURIが何をしたいのかっていうのを他の誰よりもよく理解してくれているスタジオなんですよね。それでBlasting Roomでまた今回も録りたいって思って決めました。

—KEMURIにとってこのスタジオは、ある意味ホームに帰ってきた感じはありますよね?

うん、本当になんか第二の故郷みたいな感じではありますね。フォート・コリンズって街も、Blasting Room Studiosっていう場所もね。

—現地スタッフの方々との信頼関係もあるでしょうし、阿吽の呼吸で成立させられる制作現場ですね。

すごくそういう感じはします。やっぱり、毎年録ってるんですよね。一昨年に「ALL FOR THIS!」、去年「RAMPANT」、そして今年「F」録って。その間にカバー・アルバム作ったり、色んなレコーディングをやってるので、さすがに録る度に「何か新鮮なものを」っていうのを向こうも考えてくれているんですよね。そういう意味では「10伝えなくても12ぐらいやってくれる」っていう感じはありますね。

─バンドのこと自体もすごく理解してくれているスタジオでもあるし、実際自分たちが打ち出したい音や表現も叶えられる環境が、このスタジオにあるっていう。

それが作る側にとって、すごくありがたい。やっぱりひとつの作品が完成すると、何枚作っても「どうだった?」「いやぁあそこのスカのカッティングの音はもうちょっとあぁかな」「スネアのレベルはもうちょっとあぁかな」とか毎回そういう話になるんですよね。それをまだまだ感覚がフレッシュなうちに向こうに帰って作れるから。

音楽って刹那刹那、その瞬間にどれだけ完全燃焼できるかっていう

—ベスト盤について少し触れたいのですが、2007年リリースの「BLASTIN’!」とは違い、再結成後の楽曲も含み、セレクトの幅が広がっているわけですが、特に再結成後の楽曲とコンパイルされることがすごく”今のKEMURI”を伝えることができるアルバムとなりました。セレクトされる中で、「BLASTIN’!」を何か意識されましたか?

それは特になかったですね。僕はなかったし、多分メンバーもなかったと思う。

─それよりは、ライブで演っている曲が中心となっていたので、今を形にしたような?

もちろんそれがあると思うんですよね。音楽って刹那刹那、その瞬間にどれだけ完全燃焼できるかっていう。ライブにしても新曲の録音にしても、やっぱりそれでしかないですから、一つ終わると「OK!」って。2007年に録ったときは「OK!じゃあもう解散だ」っていう感じだったし、それが今年は「OK!20年経ってまた次だ!」って。今回は幸いなことに、みんな「OK!次だ!次の何年だ、20年なのか?30年なのか?」っていう気持ちで録ったっていうぐらいの違いしかない。

—確かにそういった気持ちが、現在のKEMURIから放たれている勢いとして伝わってきます。

そうだと思いますね。長いツアーをやって「さあ終わった!」って打ち上げやって、その翌週ぐらいにアメリカ行ってもう録り始めてたから(笑)。その流れが途切れることなく、「SKA BRAVO」を録音しましたからね。それはやっぱり大きかったなぁ。

—では楽曲を録音するにあたり、メンバー同士の確認作業はあったのですか?

ライブだとね、良い意味でも悪い意味でも演奏については、多少のコミュニケーションはあるけど、基本的にはドラムに乗っかる。ただそれがスタジオ録音になった場合に、全てが自然に聴こえてきたり感じるかっていうと、そうでもない部分がやっぱりあったんですよね。

—ライブ・アルバムでない以上、ライブ特有の疾走感が、必ずしもスタジオ録音で自然にとはならない?

多くはテンポ的なことです。KEMURIの曲って、一曲の中でテンポチェンジが何回かあることが多いから、そこだけは改めてこだわった。スタジオ録音になると、ライブのノリ特有の良い意味で乱暴な部分が、不自然な悪い意味での豪快になっちゃうから(笑)。そこだけそうならないように「この曲のAメロはテンポ130、Bメロに入ると135、サビで137になって、間奏で130ぐらいまで落ちる」とか。

—かなり細かな作業ですね。

そういう部分のトラックをドラムの庄至(平谷庄至)くんが作って。なるべくそれに沿ってみんなでスタジオで練習して、違和感のないところを「OK!これならいい!」ってところを相談しました。

─それをツアー終了から僅かな期間で?

そうですね(笑)。

—加えて「PMA (Positive Mental Attitude) のMusic Video (SKA BRAVO Version)も公開されましたが、アメリカでのオフショットも織り交ぜられ、みなさんがタコスを召し上がっているシーンで” TACO BRAVO”という看板が写っていたのがベスト盤タイトルと重なるなぁと思って観ていたのですが?

そう!” TACO BRAVO”から取ったの。「SKA BRAVO」っていうタイトル。カリフォルニアにあるキャンベルっていう街で、サンノゼ空港から20分ぐらい走ったところなんですけど、「Little Playmate」を収録したスタジオのある街なんです。

—その当時からのお店なんですね。

いつも「TACO BRAVO」を通って車でスタジオに行ってたの。安くて量が多いから、録音し終わった後、毎晩のようにみんなで食べてたんですよ。未だに地元の大人気店としてそこにあるから、それで” TACO BRAVO”とかけて(笑)。

─(笑)。変わらずずっとその街にあるっていうのは嬉しいですよね。

嬉しかったですね。味も変わらず美味しかったし!

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