雨が降ろうと、槍が降ろうと、あるいは世界のどこかで鉛の粒が降りやまずとも。残党たちが全身全霊を賭して臨む聖戦は、今宵その熾烈さを増していったと言える。
2017年春に始動してからというもの、今春で6周年を迎えるキズがこのたび初のNHKホールにて行った単独公演のタイトルは[残党]。ちなみに、昨年末に行ったとあるインタビューの場において、フロントマン・来夢はこのホール単独公演に[残党]と冠した理由を以下のように語ってくれていた。
「今一度キズっていうバンドのことを考えたうえで、今の僕らに最も似合う言葉ってなんだろうな?って考えた時、出て来たのが残党っていう言葉だったんです。つまり、僕らもファンもVISUAL
ROCKの残党、っていうことですね。そして、いまは残党だとしても、いつまでも残党でいると思うなよ!っていうところを見せつけていきたいんですよ」
自らがシーンの新時代を担っていく存在なのだ、という強い自覚と気概を持つキズは今まさに右肩上がりで注目度と動員数を上げて来ているバンドであり、なんでも今回のチケットは昨年10月に日比谷野外大音楽堂で開催された[そらのないひと]の時を上回る勢いで、SS
VIP席・2階VIP席・A席が続々とソールドアウトしたのだそう。
なお、昨年末に日本武道館で行われた大規模イヴェント[V系って知ってる?]でキズの圧倒的なステージングを初めて体験し、今回のライヴに足を運ぶことを決めたという人々も少なくなかったようで、今回のNHKホール公演はキズにとってあらたに残党仲間を増やし、勢力を拡大化していく場としてもかなり重要なものだったと思われる。
では、その大切な節目においてキズがまずどのような初手を選んだのかと言えば。1曲目に奏でられたのは昨夏に発表され鮮烈なサウンドと切れ味の鋭い歌詞が話題となったシングル曲「リトルガールは病んでいる。」で、ここではホールならではのステージ構造を活かしながら、各メンバーが“せりあがり”から登場するという仕掛けが場内のオーディエンスを一気に沸かせることとなった。特に、来夢が“残党”と黒地に白で染め抜いた旗を肩にかけている姿はなんとも象徴的で、誰しもの眼に灼きついたのではなかろうか。
曲の律動に合わせ、観客たちが派手に飛び跳ねることでホール全体までもが振動することになった「傷痕」。ビビッドなライティングの中でダイナミックなパフォーマンスされていく様がやたらと美しかった、キズにとって代表曲のひとつ「ストロベリー・ブルー」。冒頭から、いきなりメインディッシュ級の逸品を矢継ぎ早にサーブするキズのスタンスは実にいさぎよく明解だ。
「さぁ、やろうか!NHKホール!!」(来夢)
来夢がそう咆哮したのを合図に、残党たちの発する熱量がここからますます増していったのは言うまでもない。reikiのいななかせるギターフレーズがホール中いっぱいに響きわたった「ヒューマンエラー」や、ユエがヘヴィな音像の狭間でドライヴするベースラインを聴かせてくれた「0」、きょうのすけがフロアタムを効果的に使いながら曲に込められた物語の重みを醸し出してくれていた「夢」も、それぞれに曲のトーンこそ違えど胸に伝わってくるバイブスは一様にして高密度なものになっていた。
しかも、本編中盤に入って来夢がアコギを弾きながら春の歌「十九」を歌いあげだしたあたりからは、いよいよキズの真髄と本領が発揮されていくことになり、差し迫った死生観が交錯するような楽曲となっている「平成」、炎を使った舞台演出が曲の描く世界とまさに重なった「地獄」へとかけた流れは、キズというライヴバンドの持つ表現力の高さを存分に味わうことが出来る秀逸な場面となっていたはず。
そのうえ、本編ラストでは本公演を前にMVが公開された新曲「雨男」が聴けることになり、ここでは既存曲「黒い雨」「ミルク」との関連性や、当日の東京を濡らしていた現実の雨模様にも想いを馳せながら、ドラマティックにして赤裸々な言霊と説得力ある音楽的メッセージを我々はキズから受け取ることになったのである。中でも、曲後半での〈ボクノイノチカネニカエロ〉なる詞の1節と「俺に売るものはもう何もない だから次は俺の命を買ってくれ」という、正真正銘の筋金入り雨男・来夢の絶叫は強烈かつ衝撃的でさえあった。
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